【AVS2021 Spring Fainal Pitch 最優秀賞】家業にのめりこみ、そしてキャビア鈴木に至るまで。

有限会社鈴木組 取締役
宮崎キャビア株式会社 専務取締役
鈴木宏明さん

日本三大秘境の一つとされる宮崎県の椎葉村で、50年前から建設業を営んできた鈴木組がヤマメの養殖事業に参入したのは2002年。
そのノウハウを生かしてチョウザメの養殖に乗り出し、家業に戻ってきた鈴木宏明専務が2015年、「平家キャビア」として商品化した。
現在は年間300キロほどを生産するまでに成長した。今後は廃校になった小中学校のプールを活用して養殖場を増やし、「15年後にはチョウザメを絶滅危惧種のレッドリストから外したい」という夢を描く鈴木専務。
そのビジネスプランが、第一回「アトツギ甲子園」で最優秀賞を受賞。また、一般社団法人ベンチャー型事業承継主催の『AVS2021 Spring』でも最優秀賞を獲得。

家業にのめりこみ、そしてキャビア鈴木に至るまで。

ピエール
ピエール
家業を継ぐまでの経緯って、どんなものだったんですか。

幼い子が抱く将来の夢って、スポーツ選手とかですよね。でも僕だけは“社長”でした(笑)。具体的にどんな企業とかは決めてなかったですけど、“社長”っていうのはずーっと決めてました。ちなみに、自分は家業を手伝ったことなんて一度もなかったです。大人になるまで仕事内容に関しては何も知らず、「田舎の建設業ってダサい…将来性のない会社を継ぐ意味ってあんの?」みたいな感じでした。
鈴木さん
鈴木さん

 

ピエール
ピエール
アトツギは昔から家業を見てきたイメージがあるので、意外でした。そうだったんですね。

 

大学まで行ったけど、大学ってなんだか「就職するのがゴール」みたいな感じがして…。卒業後はNTTに入りましたが、待遇が良い反面、仕事自体がとてもつまらなかった。燃え尽きてしまい、だらけた生活を送っていました。そして人生に変化を起こすべく退社して留学。帰国後はいったん実家に戻ったんですが、親から「ゴロゴロされると体裁悪いから少しは働け」と言われ、そのまま入社して現在に至ってます。最初はベンチャー企業を立ち上げるつもりだったんですが(笑)。
鈴木さん
鈴木さん

ピエール
ピエール
元は色々と好奇心旺盛なお父様がヤマメの養殖をされていたとのことですが、そこからチョウザメに方向転換させたきっかけはなんですか?

 

僕は当初、大反対してたんですよ。「収益化も難しいのに…」って。なにしろ田舎って物流が弱いんですよ。輸送代の割引もしてもらえないし…ネット販売するにしても送料だけで赤字になってしまう。それにチョウザメは、台風で全滅してしまうリスクもかなりあります。なので当時は、親父としょっちゅう怒鳴り合いのケンカでした。そして、「いずれ継ぐ俺の身にもなれ!」って文句を言った時の親父の一言…「じゃあ全部お前がやれ」。「こいつ、失敗したときの尻拭いを俺に押し付けようとしてやがる…」とまで思いました。
鈴木さん
鈴木さん

ピエール
ピエール
そんなことがあったんですか!すんなりとは受け入れることは難しいですね。

しばらくは、「なんで俺がこんなことをやらされてるんだ」と怒りにまみれながらの毎日でした。その過程で給水ホースが流されて全滅し、度重なるアクシデントのたびに何度も心が折れそうになりました。でも魚って、日々面倒をみていくと愛着が湧いてくるんですよ。自暴自棄になって、「全部殺して終わりにしてやろう」と考えたこともあります。でも殺すことなんて出来ないんですよ、可愛くって。全部殺してやめようと思っていたハズが、ある日、稚魚をさらに1,000匹仕入れてしまった(苦笑)。以降、翌年も1,000匹、そしてその翌年も…という流れに。不思議なもので、それからどんどん没頭していくようになり、しまいにはキャビアにも興味が湧いてきました。
鈴木さん
鈴木さん


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イメージし、宣言し、行動することが大事

実はキャビアって作り方がかなり独特で、当時は作れる人が国内で3人くらいしかいなかったんです。しかも彼らはその技を口外しない…。誰もが挑戦と失敗を繰り返す中、「この状況をどこかで打開しないと」と決意し、その作り方を独学で学び始めました。結果、一発目で成功しました(笑)。
鈴木さん
鈴木さん

ピエール
ピエール
それは単なるラッキーではないですね。日々の努力の結果でしょう。

というか、動画などを参考にしつつ、「お腹を開いたら、こうなるだろう」みたいなイメトレは一ヶ月間くらいずっとしてました。で、実践してみたら不思議とほぼイメージ通りの結果になったんです。
鈴木さん
鈴木さん

ピエール
ピエール
いやあ、時間をかけてイメトレするのもかなり凄いことですよ。

開始した頃は、周囲からも「失敗する」って言われてました。そりゃそうですよね、1匹数十万円の魚を何匹もおじゃんにする可能性があるわけだし。しかも僕は料理すら知らないド素人だったワケで(汗)。キャビア用にこっそり1匹水揚げする時も、「失敗したら、この一匹は最初からいなかったことにしよう」とか自分に言い聞かせてました(笑)。完成したキャビアを手に、「出来たから、味見してみて」って言ったら、「は?なんでこんなもん作った?」みたいな顔をされました(笑)。もちろん、その後は失敗も繰り返しました。ちょっとした製法の違いで一気にダメになってしまうので…。試験・開発だけでも4~500万円は使ってると思います。ちなみに現在は、作り方をオープンにしてます。
鈴木さん
鈴木さん

 

ピエール
ピエール
なるほど、業界の灯を絶やさないためですよね。

僕じゃなくても、本気の人は最後に極めてしまいますから。だったら最初からオープンにしてどんどん広めていった方が、業界の活性化につながるでしょ。隠してたってしょうがないですよ。自分は先駆けになれるし、後々の協力関係にも繋がります。
鈴木さん
鈴木さん

ピエール
ピエール
大丈夫ですか、“3人”の方々を敵に回してしまったのでは!?

今のところは大丈夫です、面識はありますけど(笑)。
鈴木さん
鈴木さん

ピエール
ピエール
それは良かったです(笑)また、アトツギ甲子園で見事優勝されましたが、ご感想は。初めから優勝を狙ってましたか?

もちろんです(笑)もともと自信家気質なんですけど、出場前から周囲に、「東京で優勝してくるから、見ててね」って言ってました。あえて自分自身を追い込んでましたね。やっぱり発信していくことは大事ですよ。そして、負けたところでみんなは覚えてないですから!
鈴木さん
鈴木さん

ピエール
ピエール
流石です(笑)

“宣言する”って大きいです。しかもアトツギ甲子園で優勝してとても思ったことなんですけど、優勝すると自分のレベルが上がります。日常がガラッと変わるワケじゃないですけど、優勝の翌朝、目を覚ました瞬間に「はいレベルアップしました♪」って気分になります。普段この瞬間を感じることって無いんですよね!それはWAGYUMAFIAのイベントでも実感しました。ずらっと並んだVIPの目の前で大緊張状態、しかも初めて人前で調理して出すという無謀な作業を大成功させた翌朝、やはり“変化”がありました。決意と成功って、本当に何かが“変わる”んですよ。
鈴木さん
鈴木さん

ピエール
ピエール
凄いです。日常業務をしているとあまり変化を感じる機会はないですよね。

あと、アトツギU34に参加できて本当に良かったこと!あらゆる真剣な仲間たちや師匠と呼べる人々との出会いですね。そのおかげで触発される!楽しくてワクワクするし、地元におさまっていては決して得られない宝です。感謝です。オンラインじゃダメです、アトツギ甲子園には実際に足を運ぶべきです。初めは乗り気じゃなかった自分が証拠です(笑)。前日まで現地に足を運ぶか悩んでいたのですが、熱量などオンラインでは得られないものばかりでした!
鈴木さん
鈴木さん

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親以外の夢も継いでいく

今、想いを引き継ぐというところをとても意識しています。2020年に僕がいる椎葉村の『ねむらせ豆腐』の事業を引き継ぎました。いわゆる第三者承継ですね。自分の親の事業を引き継ぐことは昔から無意識に気にかけてたけど、第三者承継は降ってきた話。でも、僕はキャビアを自分で作ってきたからこそどんな思いでねむらせ豆腐ができたかわかるんですね。その創業者の想いも含めて僕は引き継げる。自身の家業についても、祖父が創業してバトンが渡されてきてここにいる。

僕はアトツギ甲子園のプレゼンで「失くさない社会」というのを発信していたんですけど、それってチョウザメだけじゃなくて、『想いも失くさない』という意味も含んでいるんです。

なので、引き継ぎたいと思うものは引き継ぎたいんです。なので、ねむらせ豆腐も引き継ぐことを決めました!

鈴木さん
鈴木さん

ピエール
ピエール
引き継ぐにあたって大事にしている点はあるんですか?

自分が面白いと思えるかどうかじゃないですか(笑)儲かっていても面白くない仕事は続けられないと思っていて、その先の夢が見れないんですよね。僕らは夢を語ってなんぼなんですよ。だから面白くて夢が見れると思える事業じゃないと引き継がないです(笑)
鈴木さん
鈴木さん

ピエール
ピエール
最後に、アトツギへのアツいメッセージを!

 

誰でも失敗は怖いです。周囲からの批判や、夢に対するプレッシャーも大きいでしょう。でも最初から大げさに考えなくて良いんです。ヘンな思考のロックをかけずに、ほんの小さなことから始めるだけで大丈夫。僕だって初めてキャビアを作ったのは家の台所ですよ(笑)。“思ったこと“は実現します。成功すると、助けてくれる人々も増えてきます。感謝の気持ちもどんどん生まれてきます!とにかく動き続きましょう!
鈴木さん
鈴木さん

ピエール
ピエール

鈴木さん本日は貴重なお話をありがとうございました!

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■取材した人

ピエール

某大手銀行に就職。その経験を活かし、アトツギベンチャーと金融機関の、次世代のあり方を世に問うべく、メディアに取り上げられるような案件をアトツギと実現することが目標。

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