オホーツクだからブランドになる。人口4,500人のド・ローカルから世界へ。
株式会社山上木工
三代目 山上裕一朗 氏
家業を継ぐことはもちろん、地元に魅力を感じない……多くのアトツギ予備軍が抱えるリアルな課題だ。北海道オホーツク、津別という小さな町にある株式会社山上木工の三代目、山上裕一朗氏の日常からは、そんなアトツギのモヤモヤを払拭するヒントが溢れている。
山上木工は1950年創業、二代目である現社長の代で規模を拡大、OEM家具製造や木材CNC精密機械加工サービスを提供してきた。現在は自社ブランド家具ISU-WORKSをはじめ、廃校舎を利用したショールームTSKOOLなどの事業も展開。近年では東京オリンピック・パラリンピックのメダルケース製造が話題となった。三代目が立ち上げた新会社では、家具のサブスク、貿易仲介事業などに取り組んでいる。スタイルは「全力疾走しながら学ぶ」、先代との激しい衝突も描く会社の未来の姿があってこそ。取材当日、この日の気温はマイナス20度。息も凍る北の大地で、熱量MAXで語ってくれた。
出典:令和2年度中小企業庁/プッシュ型事業承継支援高度化事業/「ロールモデルのクローズアップ」事業「継ギPedia」(http://tsugipedia.com/)
幅広い事業で、会社と地域を盛り上げる
自社ブランド製品ISU-WORKSは全国60店舗、海外2ヶ国に展開、年間1200脚ほど生産しています。高い機械力と職人力を駆使した特殊な木材加工も多く請け負っています。新千歳空港に置いてあるオブジェや新幹線の内装に利用する特殊なパーツなど一発ものを作るのも得意な会社なんですよ。小ロットから大規模生産まで対応可能です。
「親父の製品を世界へ届けたい!」突然湧いてきた根拠のない自信
▲創業者の祖父、松吉氏と。
そんな僕も結婚して、子どもができて。仕事も、中堅になって後輩ができるころになると、楽しさを感じるようになりました。辞める前くらいの時期には、よく一人で海外出張にも行かせてもらいました。
▲前職では設計の仕事で海外出張も。
それでね、ふと親父のことを思い出したんですよ。津別で粛々と作られ続けている親父の製品だって世界で戦えるんじゃないかって。そしたら、急に根拠のない自信が湧いてきました。「俺になにかできるはずだ!!」っていう(笑)。それで津別に戻ろうと決意したんです。
そんな状態ですから、当然嫁は反対していたんですが、最終的には了承してくれました。丁寧に騙しました(笑)。
家業のダサいホームページ脱却作戦
親父に認められたくて新会社設立
まず家具のサブスクですが、これは地元オホーツク地域にお住まいの方限定のサービスです。地元の方々にもっと山上木工の家具の魅力を知ってほしくて始めました。うちの製品は全国や世界へ販売を進めてきましたが、実は地元の方々にはそこまで利用していただいていないんですよね。そこで月額1,000円~2,000円の範囲で利用してみてもらえるサービスを考えたんです。このドローカルに住んでいることのメリットとして捉えてもらえたら嬉しいなと思って。最終的には買取りでもいいし、返却でも大丈夫。利子もつきません。とにかく地元の人にはめちゃめちゃメリットあります(笑)。
めっちゃ喧嘩してるお父さんですよね。でもやっぱり認めてもらいたい?
親父がよく言うんですよ「1からやってみろ、このガキ!」って(笑)。起業した人というのは、僕たちアトツギより何倍もの苦労をしています。親父は二代目ですが、祖父の時代は夫婦2人きりの小さな工場だったので、実質、リスクを負いながら山上木工をここまで大きくしたのは親父です。お前もリスクを取れ、ってずっと言われてきたので仕事が落ち着いたタイミングで「よし!」と決意して新会社を立ち上げました。
体当たりでやるしかないんです。僕も山上木工に入ったときには、営業なんてやったこともなかったけど椅子1脚かついで工務店に飛び込み営業をかけたし、今も新会社の会計とか全然わからないけど勉強しながら事業を進めています。若いうちに、走りながら学ぶんです。たくさん失敗しますけど、それは絶対自分の経験としてプラスされていくので。
「X X X!X X X!」の壮絶バトル。互いの摩擦が生み出す未来への熱量。
地元には必ず同じ志の人がいる!自分から手を伸ばそう
僕はそういう縁で道東テレビの立川さん(http://doutou.tv/)や、ドット道東(https://dotdoto.com/)を運営する中西拓郎くんと出会って、いろんな業種のアトツギとつながって地域をおもしろくすることが、ひいては山上木工を良い方向へと導いてくれるんだって気づきました。
【北海道】
株式会社山上木工 https://yamagamimokko.com
ISU-WORKS http://isu-works.com/
株式会社TheGoods https://www.thegoods.co.jp
山上 裕一朗 氏
■取材した人
ズッキー
1994年生まれ。大阪で140年続く老舗鰹節屋に生まれてしまった生粋のアトツギ。専門商社退職後、東京で動画制作会社を創業。最近は本業にも徐々に関与するようになってきたため、起業家と後継者のハイブリッド型のアトツギの道を探る日々。趣味は料理。最近魚を三枚におろせるようになったことを周囲に自慢してはスルーされている。