【オンラインサロンピッチ2021秋優勝】失敗をするならここしかない、ピッチは貴重な自分試しの場
中尾食品工業株式会社
代表取締役社長 中尾 友彦さん
こんにゃく屋の4代目として生を受け、工場内に隣接する家で育つ。高校1年のときにいつかは社長になることを決意。大阪工業大学卒業後、証券会社にて2年間の個人向け営業に従事し、成績は常に同期No.1。
2代目の祖父の体調不良を受け、家業に戻る。転職してから半年後、社長から代表権を奪い取り、代表取締役に就任。以降、衛生環境の強化や社員教育、業務の見える化・デジタル化を推し進める。
現在では日本のみならず、アメリカ、パリ、台湾への輸出実績がある。
海外の人たちにとって馴染みのないこんにゃくで世界展開を目指している。
「こんにゃく市場をでかくする」という野望をモチベーションに家業変革に取り組む日々
ピエール
中尾さんはもともと証券会社にお勤めでしたのに、何がきっかけで家業に戻られたんですか?
2代目にあたる祖父が、脳梗塞で1年の間に2度も倒れて。当時、祖父は会長で父親が社長でしたが、父親は職人肌だったので、経理や経営は祖父が担当していたんです。その祖父が抜けると会社運営が動かなくなるので、これは大変なことになると家族会議が開かれました。それで、2年になるタイミングで僕が会社を辞めて家業に戻る、その前にまず姉が会長から一部を引き継ぐということが決まりました。僕が23、4歳の時です。
中尾さん
ピエール
中尾さんの場合、小さい頃からいずれ自分が継ぐというイメージはあったのでしょうか。
工場の敷地内に自宅があって、行き交う従業員さんたちから冗談混じりに「若社長!」とか言われて、子供のころからなんとなく感じていました。でも、両親から「継げ」とは言われてきませんでした。
高校に入ってある先生から「漠然とでもいいので、1年生のうちから将来のことをイメージしておいた方がいいよ」と言われ、冷静に自分を振り返って、「社長になろう」と意識し始めました。「家業のあるおぼっちゃんだから社長になれた」と思われるのはイヤだったので、家業以外の道で社長になろうと思っていましたが。
高校に入ってある先生から「漠然とでもいいので、1年生のうちから将来のことをイメージしておいた方がいいよ」と言われ、冷静に自分を振り返って、「社長になろう」と意識し始めました。「家業のあるおぼっちゃんだから社長になれた」と思われるのはイヤだったので、家業以外の道で社長になろうと思っていましたが。
中尾さん
ピエール
家業に戻られて初めに取り組まれたことはなんだったんですか。
「製造に入れ」と言われました。それまでこんにゃく製造に関わったことはなかったので、一から学んでいきました。入社してから2年ぐらいはずっと、朝早くからお昼までこんにゃく製造に入って、午後は配送に同行したり過去の決算書や今の会社の状況について調べていましたね。
中尾さん
ピエール
地道にまず目先のことからこつこつと進めていったんですね。そこからどんな経緯で社長に?
あの当時、食品工場としては恥ずかしながら衛生管理がぜんぜんできていなかったんですよ。会長が「神」的存在で、根拠のある理由もなく「これをしとったらええんや」と指示するばっかりで、しかも場当たり的。トラブルは再発するし、再発しても誰かの責任にされていました。
そんな状況で、僕が入社して半年ぐらい経ったとき、ところてんの回収騒ぎがありまして。カビが生えていたんです。「これからどうなるんや」って空気が社内に漂いました。その時に姉が、「代表が替わるんやったらこのタイミングちゃうんか」と背中を押してくれまして。確かに、うまく行っているときにはこれといって変わるきっかけもないけれど、事業がコケたタイミングだからこそ、今ここで替わったほうがいいと僕も思いました。
そんな状況で、僕が入社して半年ぐらい経ったとき、ところてんの回収騒ぎがありまして。カビが生えていたんです。「これからどうなるんや」って空気が社内に漂いました。その時に姉が、「代表が替わるんやったらこのタイミングちゃうんか」と背中を押してくれまして。確かに、うまく行っているときにはこれといって変わるきっかけもないけれど、事業がコケたタイミングだからこそ、今ここで替わったほうがいいと僕も思いました。
中尾さん
ピエール
なかなかの決心ですよね。
ほんとに。会長に直談判したら「いずれはお前が継ぐんやしな」と交代してくれたんですが、まだなんにも分かっていない僕に対してその決断をするのは容易じゃなかったと思います。会長の決断は間違っていなかったという結果を僕が出さないといけない。やるしかない、という状況に自分を追い込みました。
中尾さん
ピエール
前に中尾さんが衛生管理の徹底について話してくださいましたが、そういうことだったんですね。
食品製造って単価が安くて薄利多売なんです。何万個も作るけど、1個でもクレームになったら全部ダメ。ちゃんとしたものを作っているという担保がないと、いくら商売を広げようとしても営業に行く意味がないです。
長い目で見れば、現場を整えてレベルアップさせることが事業の継続につながると思ったので、ベースになる衛生管理からテコ入れし始めたわけですね。きちんとものが作れる人間を育てないといけない。そのために決められたルールを決められた通りにできる仕組みを整えないといけない、と思いました。
長い目で見れば、現場を整えてレベルアップさせることが事業の継続につながると思ったので、ベースになる衛生管理からテコ入れし始めたわけですね。きちんとものが作れる人間を育てないといけない。そのために決められたルールを決められた通りにできる仕組みを整えないといけない、と思いました。
中尾さん
ピエール
人を説得して、納得してもらうところでは苦労されましたか。
苦労しました。「めんどくさいことばっかり要求してくる社長に替わったわ~」というのが、現場の社員の印象だったと思います。
でも、僕が言っていることってお客様が求める品質を代弁しているだけなんですよ。「今のままやったら事業続けられへんよ。どうせ定年で自分らは辞めるし、っていうのはちゃうやん」と、何回も伝えていくしかなかったですね。
でも、僕が言っていることってお客様が求める品質を代弁しているだけなんですよ。「今のままやったら事業続けられへんよ。どうせ定年で自分らは辞めるし、っていうのはちゃうやん」と、何回も伝えていくしかなかったですね。
中尾さん
ピエール
人と人ですから、地道にアタックしかないですよね。中尾さんのモチベーションって何があるんですか。
日本の人口って、ずっと減っていくことが見えているんです。だから僕は、僕の代でなすべき事業として、こんにゃくを海外に輸出しようと決めていたんです。ローカロリーで食物繊維豊富なジャパニーズスーパーフードのこんにゃくを、ぜんぜん知らない海外の人たちに伝えて、彼らを驚かせて喜ばせ、いっぱい買ってもらう。僕らは事業をでかくする。そのストーリーにワクワクするし、それがモチベーションになっています。
最終的な商品のイメージはカップヌードルの麺をこんにゃく麺に変えたいのです。これも、僕が代表になる前から大阪府の研究所などに通ってこんにゃくのフリーズドライ試験をしていました。それがなんと今年ようやく、特許承認がおりました。
最終的な商品のイメージはカップヌードルの麺をこんにゃく麺に変えたいのです。これも、僕が代表になる前から大阪府の研究所などに通ってこんにゃくのフリーズドライ試験をしていました。それがなんと今年ようやく、特許承認がおりました。
中尾さん
ピエール
すごい!まだまだここからですけれど、野望がかないそうですね。
僕が大尊敬している大阪の偉大な起業家が、日清の創業者の安藤百福さんなんです。カップヌードルという商材で、一代であれだけの企業になられた。あのスピリットが好きで、「こんにゃくでも絶対できるはずや」って思っています。
中尾さん
ピエール
いいですね。若い野望とこんにゃく、本当にいい組み合わせですよね。
その布石となるのがSHAPE MENです。
中尾さん
ピエール
SHAPE MEN、本当においしいですから。最高ですよ。よく目にするこんにゃく商品とはパッケージもぜんぜん違いますが、海外進出もにらんでのことですか。
ありがとうございます。そうなんです、日持ちの検査に関して裏付けのデータがまだ取れていなくて、実際の輸出開始にはもうちょっとかかりそうですが。水を入れなくてもこんにゃくがパッケージできる包装機を買うことも考えています。商品の重量も軽くなるし、すぐに食べやすくなるんです。
中尾さん
ピエール
それって記事にしていいんですか。
大丈夫です。むしろ、よそに追随されるくらいの事業になれば市場が盛り上がると思っています。競争がないと面白いものがでないので、僕はオープンにしていいと思っていますね。
中尾さん
ピエール
なるほど。話は変わりますが、中尾さんがピッチに取り組む理由をお伺いしたいです。
うーん…挑戦ですかね。自分がなんとなく描いていた事業プランに事業性はあるのかどうかを確かめるいい機会が、ピッチの場と思っています。
中尾さん
ピエール
中尾さんにとって、ピッチがゴールではないんですよね。
自分ではすごくいいと思っているものを発表して皆さんの感触を確かめられるので、どっちかというと自分の自信を確かめる場ですね。アウトプットすると気づかされることが多くて、5分の発表で得られるものは大きいですよ。失敗はあって当然のことで、事業に資金を突っ込んでスタートしてから失敗することに比べたら、早いタイミングでトレーニングできるピッチはいいと思います。
中尾さん
ピエール
アトツギって失敗できないという気持ちが特に強いと思いますが、中尾さんはどういうマインドで挑戦を続けているんですか。
「やるしかねえや」って感じ…なんですが、自慢みたいな気持ちがあるかもしれないです。「これすごくない?どう?」、「僕、けっこういいの考えちゃったんちゃう?」、「見て見て~!」みたいな。
でも、至らない点があるならちゃんと教えてほしいんです。補充できることなのか、クリティカルな欠点なのか。
ビビっているうちは成長がありませんから。失敗を許容してくれる、あるいは、失敗に真剣に向き合って訂正や改善案を言ってくれる。きちんと返してくれる人たちに事業プランを伝えれば、得られるものは多いと思います。
でも、至らない点があるならちゃんと教えてほしいんです。補充できることなのか、クリティカルな欠点なのか。
ビビっているうちは成長がありませんから。失敗を許容してくれる、あるいは、失敗に真剣に向き合って訂正や改善案を言ってくれる。きちんと返してくれる人たちに事業プランを伝えれば、得られるものは多いと思います。
中尾さん
ピエール
本当にその通りだと思います。アトツギの皆さんが、まず挑戦の気持ちを持って一歩でも踏み出してくれたらいいですね。
■取材した人
ピエール
某大手銀行に就職。その経験を活かし、アトツギベンチャーと金融機関の、次世代のあり方を世に問うべく、メディアに取り上げられるような案件をアトツギと実現することが目標。