「これからの激動の時代を生き残る強い会社、強い経営者とは」

株式会社スノーピーク 代表取締役会長
山井 太さん

明治大学卒業後、外資系商社勤務を経て父が創業した現在のスノーピークに入社。アウトドア用品の開発に着手し、オートキャンプのブランドを築く。徹底的にユーザーの立場に立った革新的なプロダクツやサービスを提供し続けている。14年12月東証マザーズに上場、15年12月東証一部に市場変更。

レオス・キャピタルワークス株式会社
代表取締役会長兼社長・最高投資責任者(CIO)
藤野 英人さん

1966年富山県生まれ。国内・外資大手投資運用会社でファンドマネージャーを歴任後、2003年レオス・キャピタルワークス創業。主に日本の成長企業に投資する株式投資信託を運用。JPXアカデミーフェロー。近著に、『ゲコノミクス 巨大市場を開拓せよ!』『14歳の自分に伝えたい「お金の話」』。

早稲田大学大学院 経営管理研究科教授
入山 章栄さん

三菱総合研究所で、主に自動車メーカー・国内外政府機関への調査・コンサルティング業務に従事した後、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.を取得。
同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授。2013年より早稲田大学大学院 早稲田大学ビジネススクール准教授。 2019年より現職。
著書『世界の経営学者はいま何を考えているのか』(英治出版)
『ビジネススクールでは学べない 世界最先端の経営学』(日経BP社) 他

 

2021年11月13日(土)、アトツギベンチャーサミット(AVS)がオンラインで開催された。
家業の経営資源を利用して新しい価値創造を実現した全国各地のアトツギベンチャー経営者が一堂に集結。朝9時から19時まで、各界の第一線で活躍する経営者がパネルディスカッション形式で他では聞けないようなリアルな体験を後進のアトツギにシェア。赤裸々に自らの経験を語る登壇者の熱量は200人の参加者に伝播。まさにイベントのコンセプトでもある「日本経済に地殻変動を起こす一日」となった。

最後のセッションを飾ったのは、アトツギ経営者、投資家、学者という各方面のスペシャリスト3名による「RISING SESSION」。オンラインとは思えないほど白熱したトークと、全国のアトツギへの期待と厳しくも温かいエールを紹介する。

 

アトツギはイノベーションが起こりやすいセクター

 

奥村
奥村

本日はこんな豪華なお三方をお迎えしました。テレビ番組なんじゃないかと思うほどですね!

「3人の識者はアトツギに何を期待しているのか」というテーマで進めていきますので、よろしくお願いします。

では、最初の質問です。お三方にはうち(一般社団法人ベンチャー型事業承継)の顧問もしていただいているわけですが、なぜアトツギを応援するんですか?

 

僕は自分自身もアトツギとして社長を30数年やって、今は娘にバトンタッチしたんですが、たぶん日本では、“アトツギ”というセクターがもっとも社内起業的なイノベーションが起こりやすい環境だと思っているからです。

山井さん
山井さん

 

奥村
奥村

山井さんご自身も金物の問屋を先代から継がれて、今のスノーピークの形に至るまでを長年経験されてきたと思うんですが、その中でイノベーションを起こす当事者、アトツギの立場として、イノベーションを起こすポテンシャルって何だと感じていますか?

 

今日の参加者の皆さんはすでに家業に入っている方が多いと思うんですが、どちらかと言えば入社前に「これをやりたい」と決めて入ったほうがいい。すでに入っている方はこれからそれを見つけて、というのでもいいとは思います。

山井さん
山井さん

 

奥村
奥村

山井さんは入社される時に、ある程度、今のスノーピークの形を描かれていたということですか?

僕はそれをやるために父の会社に転職したから(笑)。

山井さん
山井さん
入山さん
入山さん

横からすみません。ご自身で起業されるという手段もあるのに、山井さんがあえてご家業を継ぎながら自分のやりたいことをやろうと思った理由は何ですか?

 

そっちのほうがスピードが早いからです。スタートアップって最初は社会的信用もないし、皆さんもそうだと思いますが、うちの会社も一定の社会的な信用があったのでいろんなことをやりやすいと思いましたね。

山井さん
山井さん

 

入山さん
入山さん

なるほどねー。

 

奥村さん
奥村さん

家業の会社をうまく活用して自己実現されたということですね。

 

利益率も成長率も実は高いファミリービジネス

奥村さん
奥村さん

では、入山先生はなぜアトツギを応援されてるんですか。

 

僕は日本のイノベーションを爆発させる起爆剤は絶対にアトツギだと確信していまして。ファミリービジネスに関しては、日本にも統計分析の研究があって、上場企業の過去40年から50年のデータを解析すると、3分の1くらいはアトツギが経営している会社。さらに、実は平均で見ると利益率も成長率も高いのはファミリービジネスなんですよ。

で、明らかにファミリーの方が強い部分があって、まずは圧倒的に「長期思考」。目の前の利益ではなくてファミリーだからこそ長い目でものが見れる。だから、ある意味、大胆な意思決定がとれるので、イノベーションを起こしやすいんですね。唯一の課題はガバナンスとか事業承継の難しさだと思うんですが、そこさえ乗り切れば可能性がある。

もう1点は、まさに山井さんが代表例なんですけど、先代から連綿と続く素晴らしい技術とかお付き合いとか伝統とかに、他業界で経験したアトツギがポンと入ると化学反応が起きて大ブレイクする。まさにアトツギベンチャーみたいなのが日本中に出てきているんですよね。その筆頭がスノーピークですが、タニタ、星野リゾートもそうですし、これは素晴らしいなと。

日本の99.5%は中小企業でファミリービジネスだから、ここが確変するほど素晴らしいことはないと思ってて、何年か前から『PRESIDENT』で「第二創業」というアトツギの現場に取材に行く連載をやっていて、そこで確信していたところにベンチャー型事業承継からお声がかかったので、ぜひ!ということで参画しました。

入山さん
入山さん

 

奥村
奥村

ありがとうございます。

では、藤野さんはいかがでしょうか。投資家としてさまざまな企業を見てこられたご経験を踏まえて、アトツギに対するいろいろなご意見をお持ちだと思います。ぜひ持論を教えていただきたいです。

 

10年か15年くらい前かな、上場している企業で複数のオーナー経営者が亡くなられて、2代目・3代目が継がれたケースと、それから「イケてる」と言われているプロ経営者が引き継いだケースと2通りありました。その時はことごとくプロ経営者のほうに投資したんですけど、結果は見事に2代目・3代目経営者のほうがよかったんです。

 

話してみると、その経営者が優秀かどうかは関係ないんですよ。それはなぜかと考えると、、先ほどの入山先生の話と共通していますが、時間軸なんです。ファミリー企業はこの先10年とか存続するためにどうしたらいいかというのを非常に真剣に考えているんですよ。サラリーマン社長のように2年とか3年とか、せいぜい4年くらいの目線で経営してもうまくいかないんです。

 

もうひとつ、山井さんも話されたことですが、圧倒的な当事者意識ですよね。会社という道具でどれだけ収益の変化率を出すかということではなく、自分の存在意義として、この会社をどうやって社会的な価値のある会社として無限に存在させるかというところがアトツギ経営者の大命題。その差があるのかなと思っています。

あとは会社経営というものを生まれた時から見ているという差は非常に大きい。サラリーマンの息子さんが頑張って起業するのもいいですが、実は自営業者の人たちの息子さん、娘さん、2代目・3代目というのは、実はもう明らかに大きなチャンスを秘めている。だから、アトツギベンチャーというのは、今後10年20年たってみると、そういう大きなセクターになる。その中から、IPOする大企業が生まれたり、キラリと光るアトツギベンチャーが日本中で輝くのではないかと思っています。

藤野さん
藤野さん

 

奥村
奥村

なるほど。立場は皆さん違うんですが、「アトツギはイノベーションを起こす重要なセクターになるんだ」という同じキーワードが出てきたのが非常に興味深いですね。

 

イノベーションとは、「切り口を変えること」だ

イノベーションは「技術革新」と言われていますが、本当は「切り口を変えること」だと思うんです。京都の老舗の羊羹屋さんが餡をシート状にして食パン用に販売したら売上が1000倍になったという話がありますが、まさに切り口をかえて新しい価値を創造するということなので、必ずしもハイテクである必要はないんですよね。

藤野さん
藤野さん

 

奥村
奥村

なるほど。新規事業は家業にテクノロジーをどう掛け合わせるかが重要だと思いがちですが、それだけじゃない、切り口変えるだけでいいと。

 

イノベーションって経営学的に言えば「新結合」っていって、組み合わせていなかったものが組み合わさると新しい価値が生まれるんですよね。それが技術である必要もなくて、「いろんなものが組み合わさったら新しいものができました」というのがイノベーションなんです。

入山さん
入山さん

 

長期思考、オーナーシップ、当事者意識がアトツギの強み

 

奥村
奥村

次の質問ですが、アトツギの強みって何だと思いますか?

 

実は世界で実証研究をやってみると、かなりの国でファミリービジネスのほうが長い目で見るとパフォーマンス高いんです。

理由の1点目は、所有と経営が一致している部分です。普通は「株主」と株主の代わりとして建前上やる「経営者」が分離するわけですよね。ファミリービジネスは所有と経営が一致しているケースが多くて、一枚岩になれていることが強いんですよ。逆に一枚岩になれていないと一番辛い。

 

2点目はファミリーなんで長期思考なんですよ。日本の上場企業の一番ヤバいのは2年とか3年任期で社長が変わることなんですよ。2年や3年で会社なんて変わらないので。

3点目はベンチャーと何が違うのかというと、山井さんのお話伺って改めて思ったんですが、ファミリーだからこそ、過去から引き継いでいる素晴らしいアセットがあるわけですね。お金や設備だけじゃなくてお取引先や銀行からの信頼などもある。レパレッジして使うと伸びるんだろうなと改めて思いました。

入山さん
入山さん

 

奥村
奥村

山井さんはいかがですか?

 

そうですね、圧倒的にオーナーシップがある。あとは当事者意識が強い。そこは一般の経営者との違いかなと思いますね。

山井さん
山井さん

 

奥村
奥村

強いオーナーシップって、捉え方によると、「アトツギの能力が如実に会社の業績に反映される」ということでもあると思うんです。そのあたりはどうお考えですか?

 

うちみたいにパブリックになっちゃうと、そうはいかなくなる部分もあるんですけど、プライベートのファミリーでやっているところは「アトツギで失敗したんだったらしかたないでしょう」と見てくれる。

山井さん
山井さん

 

 

先代から「やめとけ」と言われてもやっちゃうやつを後継者に選べ

 

奥村
奥村

スノーピークは2015年に東証一部へ上場されましたが、それはある意味ではパブリックになって、つまりオーナーシップを発揮しにくくなるという諸刃の剣だと思うんですが、そこはどういうご判断だったんですか?

 

たとえば後継者の候補で、「そのビジネスはヤバいからやめてくれ」と言ってもやっちゃう人と、「これやってよ」と言ってもやらないやつがいたとしたら、前者を後継者に選んだほうがいいですよね。

そういう人間が、役員クラスではうちの娘しかいなかったので。勝手にアパレルを立ち上げて20億いきましたからね(笑)。僕は反対はしていなかったけど、やめろと言ったとしても彼女はやっていたと思います。それもオーナーシップですよね。

山井さん
山井さん

 

入山さん
入山さん

めちゃめちゃいいですね。イノベーションって反対があるところからしか起きないんですよね。だって、新しいことをやろうと思ったら反発が起きるんですよ。だから、自分が少数派で「うるせー!」って突破しないといけなくて。たまに「全員賛成するようなイノベーション教えてくれ」って質問あるんですけど、ねーよ、そんなの(笑)。だから、オーナーシップがある分、突破できるって言うことですよね、なるほど。

 

イノベーションの起こるセクターがアトツギだという話とつながりますよね。オーナーシップを持っていて、しかも反対されたとしてもやれる環境があるということがイノベーションの素地として必要ということですね。

奥村
奥村

 

「アトツギは2ケタ成長」「本業から離れた感覚を持つ」「古い概念は排除」

 

奥村
奥村

では、3つ目の質問です。「アトツギはもっと○○すべきである」というようなメッセージを1ついただきたいなと思っています。

 

僕は経営者なので数字でいうと、アトツギの皆さんが入社してから会社を辞めるまでの30数年の間に売上は2ケタ上げたほうがいいですね。僕の場合は入った時は5億でしたので、最低100億にしないといけないと思っていて、今期たぶん250何億になります。リタイアは3ケタ上げてしたいと思っています。

先代と闘っている皆さんはたぶん売上を1ケタも変えていないと思うんですよ。お父さんやお爺さんなど先代の人たちは、アトツギの皆さんが1ケタ売上を変えた時点でほぼ黙ります。僕の場合は入った時5億で、3年で10億になったんです、新規事業での売上です。そうしたら先代は何も言わなくなりました。僕の勝ちですよね。やっぱり売上が企業の力。皆さんそこの目線で経営されたらお父さんとも仲良くできるかもしれない。

山井さん
山井さん

 

奥村
奥村

当事者として成し遂げられた山井さんの言葉、重いです!アトツギたるもの売上を上げろと。ありがとうございます。入山先生は?

 

僕の取材での個人的な経験則なんですけど、日本で事業承継がうまくいっているパターンが2つある。

1つ目は、もともと継ぐ気がない人が継いでいるパターン。イノベーションって離れたものの組み合わせで生まれるから、本業から離れた感覚を持っている人が何かの理由で帰ってくると、離れた知見と会社の技術とか連綿としたものが組み合わさるのでブレイクすることが多いんです。なので、目の前の本業を見ないでいろんな遠くのものを見て、いろんな人と会うというのは重要で、それが今の会社の何と合うかと考えることが重要です。取引先に修業に行かせるのは1ミリも意味がない。

もう1つは、僕が見る限り、多くはお父さんが早くいなくなっているパターンなんですよ。お父さんが亡くなるか、そうでない場合はお父さんが早くから譲れる方か。でも、普通はそうはいかなくて戦ってる方が多いので、どうやって乗り越えるかというのが重要で。山井さんがおっしゃったように圧倒的な結果を出してお父さんを黙らせるのもありますね。

入山さん
入山さん

 

奥村
奥村

実績が何よりの説得材料ということですね。藤野さんもお願いします。

 

ベンチャー型事業承継も昭和型サラリーマン企業でも、昭和の概念の人たちを若手たちで徒党を組んで追い出さないと、結局変わらないんですよね。徒党を組んで従業員も巻き込んで、そして追い出すということが大事だと思う。

その時に、ファクトが3つあって、1つ目は「顧客目線」、2番目が「データ主義」、3番目が「長期目線」なんです。この3つが組み合わさっていると強くて、逆に言うと成長しない会社はこの3つの視点が欠けている。会社都合主義で、社長の経験主義で、短期目線。だから、3つのファクトで結果を出して、それを持って内外の関係者の人に言って、自分たちの陣地を広げていくということが大事だと思っています。

藤野さん
藤野さん

 

いや、アトツギの明日に繋がる珠玉の言葉の数々でした。みなさん、本日はありがとうございました!

奥村
奥村

 

<お知らせ>

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◆日時2022年3月12日(土)
詳細はこちらから:https://atotsugi-koshien.go.jp/

 

 

 

■取材した人

奥村 真也

一般社団法人ベンチャー型事業承継 アトツギ総研所長

1983年生まれ。京都大学経済学部卒業後、伊藤忠商事株式会社に入社。財務経理、経営企画を担当し、全社横断案件やグループ連結決算の開示業務に携わる。在職中に2年間のバンコク駐在を経験。2017年に同社を退職後、シンガポールのNanyang Technological University(南洋理工大学)にてMBAを取得し、2018年9月から2020年12月まで一般社団法人ベンチャー型事業承継事務局長を務めた。現在はアトツギ総研所長を務める他、在シンガポール企業のDirectorとして東南アジアでの事業に携わる。

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