建設不況と東日本大震災、明かりを灯し続けた “地元企業” としての矜持

ダイリ建設株式会社
代表取締役 渡邉浩章 氏

「自分たちだけは電気を消しちゃいけない」。

東日本大震災直後、暗闇に包まれた地元の町に明かりを灯し続けた建設会社がある。ダイリ建設株式会社は、昭和51年の創業より地元郡山のインフラ整備に尽力してきた。

2010年前後の建設不況により業績が低迷、2011年には東日本大震災を経験しつつも、二代目のバトンを受け取った渡邉浩章社長のもと、地元の復興に携わりながらV時回復を果たす。

そして現在、新規事業として新会社で展開する介護施設事業の指揮をとるのはなんと先代である。新しいスタイルの事業承継モデルが生まれた背景、地域の未来への地元企業としての思いなど、渡邉社長に話を聞いた。

出典:令和2年度中小企業庁/プッシュ型事業承継支援高度化事業/「ロールモデルのクローズアップ」事業「継ギPedia」(http://tsugipedia.com/)

 

 

 

仕事に打ち込み自信をつければ、正面からぶつかればいい

ゴードン
ゴードン
家業に入る前は何をされていたんですか?
建材を扱う東京の専門商社で働いていました。最初は営業、のちには貿易関係の業務にも就きました。大学時代に学んだ中国語を活かせる仕事だったので楽しかったですよ。
渡邉氏
渡邉氏
ゴードン
ゴードン
充実したお仕事を辞めて、家業に入ったきっかけは?

3年ほど働いたころ、父親が初めて「戻ってこないか」って言ったんです。それまで家業に興味はなかったはずなんですが、そう言われると父親が30年40年苦労して作り上げた会社を終わらせたくないという気持ちが芽生えたんです。長男としての自分に定められた運命だと思って、家業に入ることにしました。
渡邉氏
渡邉氏
ゴードン
ゴードン
家業に入ってまずはなにをされたんですか?
とにかく基礎を学びました。先代や社員さんたちが築き上げてきたものを否定することだけは絶対やってはいけないという思いで、まずは下地を作るため徹底的に仕事に打ち込みました。いわゆるアトツギへの洗礼というか、既存社員さんとの軋轢もあったのですが、親身になってくれる人もいたし、真面目に働いてるうちに信頼していただけるようになったと思います。
渡邉氏
渡邉氏
ゴードン
ゴードン
建設業界や金属加工業界のアトツギって、特にベテランの職人さんとの付き合い方に苦労される方が多いみたいですが。
まさにそれを経験しました。職人さんからいろいろガーッと言われることもあったけど、自分なりに仕事に自信を持てるようになると、それに言い返せるようになったんです。本気の言い合いを繰り返すうち、だんだん向こうも話をちゃんと聞いてくれるようになって、そのうち「これはどうする?」って相談してくれるようにまでなりました。
渡邉氏
渡邉氏
ゴードン
ゴードン
そっか。仕事に自信を持てるようになったら、ぶつかるのも信頼獲得にはありってことなんですね。

 

 

 

東日本大震災直後の暗闇「町に明かりを灯し続けよう」

ゴードン
ゴードン
家業に戻られてから、最も大変だった時期はいつですか?
一番の底は建設不況といわれた2010年あたりでしたね。リーマンショックの後ですね。リーマンショックは国内投資で乗り切ったものの、そこから業績はかなり下がっていきました。そんななか起きたのが2011年の東日本大震災です。特に福島県は風評被害の問題が大きかった。福島第一原子力発電所が爆発したときには、郡山市内から人がいなくなりました。夜はもう真っ暗だったんです。
渡邉氏
渡邉氏
ゴードン
ゴードン
地元に根ざしてお仕事をしてこられた方々にとっては辛い光景ですね・・・
社員も私も最初は戸惑いました。けれど真っ暗な町のなかで「自分たちだけでも電気をつけていよう」と決めたんです。私たちまで電気を消したら、町は本当の暗闇になってしまう。地元の建設会社として、「ここで頑張る人間がいる」ってことを示そうと社員に伝えたんです。
渡邉氏
渡邉氏
ゴードン
ゴードン
郡山の町を照らす灯台のようですね。
そうですね。そう決めてからは、社内に震災復興部門を立ち上げて地域の復興に全力を注ぎました。私は当時、専務取締役だったのですが、先代社長とも「とにかく頑張ろう」ということで会社で一丸となって取り組みました。
渡邉氏
渡邉氏
ゴードン
ゴードン
当時は全国の建設業者も東北に入ってきた時期ですよね。そのなかで地元の建設会社だからこそ果たせた役割ってありますか?

おっしゃる通り震災直後、ゼネコンから派遣された人員が全国から集まりました。それはもちろんありがたいことなのですが、一方で知らない人たちが町に溢れかえることに不安を感じる住民の方が多かったのも事実なんです。「大阪弁で話されると怖い」とか(笑)そういう声をよく聞きました。
渡邉氏
渡邉氏
ゴードン
ゴードン
ただでさえ不安な時期に、県外から大勢の人が入ってくること自体が地元の人のストレスにつながるかもしれないですね……。
私たちも「今だからこそ地元の我々が丁寧に真摯に対応していこう」と話し合いました。実際町中で工事をしていても「あ、ここはダイリ建設がやってるんだ」みたいに言っていただくことも多くて、少しは地域への恩返しができたんじゃないかなと思っています。
渡邉氏
渡邉氏
ゴードン
ゴードン
なるほど。地元の会社って、非常時の心理的な安心感も与えられるんですね。
そうですね。自分たちの役割に改めて気づくことができました。こうやって震災関連事業に会社全体で打ち込んでいるうちに、従来の仕事も少しずつ増え始め、業績も回復していきました。
渡邉氏
渡邉氏

 

 

 

潔い退き際の先代はいま、新規事業の介護サービスに全力投球

ゴードン
ゴードン
先代とのご関係はどうですか? アトツギによっては、先代がなかなかバトンを渡してくれなくて悩んでおられる方も多いのですが。
3年前に社長に就任したのですが、先代はダイリ建設の経営に一切口を出しません。
渡邉氏
渡邉氏

ゴードン
ゴードン
え!それは珍しいですね。しかも先代は創業者ですよね。一般的に、創業者は自分が作り上げた会社だからなのか、世代交代後も口を出す方が多いと聞くので、退き際の潔さに驚きです。
実は、先代は新規事業である介護施設事業の代表になったんです。そちらにかかりきりで、先代自身も介護事業が性に合っているようで夢中になっているみたいですね。
渡邉氏
渡邉氏
ゴードン
ゴードン
へええ!!先代が新規事業を担当されてるんですね。めっちゃ面白いですね!!意外と今まで聞いたことのないパターンかもしれません。
確かに、この新規事業がなければ先代も私の経営に全く口を出さないというわけにはいかなかったでしょうね。そういう意味では運が良かったと思います。先代は「何歳になったら引退するから、その先はお前がやれよ」と前々から宣言していて、実際社長交代までには「この案件に関してはお前が決めてみろ」といった機会もくれて、慣らし運転させてもらっていました。
渡邉氏
渡邉氏
ゴードン
ゴードン
今まで築いてきた会社に居続けるよりも、新しい事業をやっていきたいというのは、起業家精神が強い方なのかもしれませんね。介護施設事業というのはどういうものですか?
介護施設を建てたり、それを貸したり、施設の経営も行っています。かつて取り組んだものの、あまりうまくいかなかった不動産事業のノウハウを活かせたのもよかったんだと思います。建設不況など業績がしんどかった時も、介護施設事業はかなり財政の基盤を安定させてくれて、助かりました。
渡邉氏
渡邉氏

 

 

 

地域のより良い未来のために、建設会社ができること

ゴードン
ゴードン
10年後の会社の姿をどのようにイメージしていますか?
まずひとつ、ダイリ建設で働く社員の労働環境をより良いものにしたいです。そのために若手社員の話もしっかり聞きますし、実際彼らの意見を取り入れて休日を増やしました。「上司がまだいるから自分も残業しなきゃ」みたいな付き合い残業もしないようにして、早く帰れるときは帰ってもらいます。古くから業界にいる先輩からは「甘えだ」とか言われることもありますけどね(笑)。
渡邉氏
渡邉氏
ゴードン
ゴードン
若い社員が長く働いてくれる環境づくりって会社の未来に直結しますもんね。
そしてもうひとつ、地域密着の建設会社として、どんどん地域に恩返しをしていきたいんです。安心・安全なまちづくりが我が社の使命ですが、そのなかには未来の子どもたちを守り育てるということも含まれます。先日は地域に歩道橋をかける工事が無事竣工を迎えたのですが、そのときに地域の小学生を招待して、一番最初に橋を渡ってもらうイベントをしました。
渡邉氏
渡邉氏

ゴードン
ゴードン
いいですね!地元の子どもたちはきっと工事の間ずっと、「なにができるんだろう?」って思っていたはずですもんね。

歩道橋工事は3年くらいやっていましたからね。ときどき小学生が「なにやってるの〜?」と覗き込んでいたみたいです(笑)。その好奇心を満たしてあげたかったし、「あの歩道橋を最初に渡ったのは僕たち私たちなんだ」という思い出をプレゼントしたかったんですよね。

 

それに、子どもたちに地元の建設会社の存在を知ってもらう機会にもしたかった。将来うちで働いてくれるかもしれないじゃないですか。

渡邉氏
渡邉氏
ゴードン
ゴードン
素敵です……。地域に思い出の場所が増えるのは、子どもたちにとっても最高のプレゼントになりますね。

 

 

 

肩肘はらず自然体で。全ての経験はいつか笑い話になる。

ゴードン
ゴードン
では最後に、アトツギたちのためにもメッセージをいただけますか?
アトツギって苦労をすると思います。それはアトツギになったからには避けて通れないこと。でも確かなのは、どんなにしんどかったことも何年か後には笑い話にできるってことなんです。もしくは苦労の渦中にいるときとはまた別の意味を持った経験として、いつか昇華できる。だから、あまり気負いすぎず、肩の力を抜いて取り組んでほしいですね。
渡邉氏
渡邉氏
ゴードン
ゴードン
アトツギってどうしても最初は気合いが入り過ぎてしまいますもんね。

そうそう。私もそうでした。でも肩肘張って「自分がやらなければ!」と思えば思うほど空回るし、結局続かないんですよね。みなさん自身が自然体でいられることが大事です。一つひとつ一生懸命進んでいけば、いつの間にか、素晴らしい経営者になっていけるんだと思います。
渡邉氏
渡邉氏

 


【福島県】

ダイリ建設株式会社    https://dairi-i.com/

代表取締役 渡邉 浩章 氏


 

■取材した人

ゴードン/編集長

家業である和紙卸問屋で4代目候補として8年従事。
アトツギの苦悩を誰よりも理解していることから、孤軍奮闘するアトツギに感情移入しがち。関西大学「ガチンコアトツギゼミ」非常勤講師。

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