10の事業を同時並走させ新規事業に挑む。アトツギの役割は1.5次創業だ!

株式会社AJヒューマンキャピタル (旧 : 有限会社浅島製作所)
代表取締役 浅島秀幸 氏

AJヒューマンキャピタルは1974年、住宅機器メーカーの協力企業として創業し、当初は浅島製作所と名乗っていた。
浅島秀幸社長は幼い頃から経営者としての先代の姿に憧れ、起業を目指した時期もあったが「先代のもとで働きたい」とアトツギの道を選択。先代から突き付けられた「親子の縁を切る」「ヒラ社員から始める」の2つの条件を受け入れ入社を決めた。以降、人材に関わる事業への挑戦を続け、人材派遣、人材紹介、業務請負へと事業の転換を図り、2016年の社長就任後、事業ドメインとビジョンを明確にしたうえで現在の社名にあらためリブランディングした。刷新した社名には「Attitude of contribution(貢献の姿勢)×Journey of growth(成長の旅)」「Human Capital(人は財産)という思いが込められている。

常に10ほどの新規事業を同時並行で走らせながら、HR事業を通じて様々な社会課題の解決を目指す浅島社長に、先代の思いを大切にしながら、果敢に新事業創出に挑む思いとそこに込めた信念を聞いた。

出典:令和2年度中小企業庁/プッシュ型事業承継支援高度化事業/「ロールモデルのクローズアップ」事業「継ギPedia」(http://tsugipedia.com/)

 

 

経営者に相応しい成長を求め、ヒッチハイクでアメリカ1周

ゴードン
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お父様の仕事をどのように見ておられましたか。

父を見て経営者に憧れ、自分も起業をして経営者になりたいと思いました。そのためには、さまざまな経験を通じてそれに相応しい人格や精神力を身に着ける必要があると考え、親元を離れることにしました。誰ひとり知り合いがおらず、頼る人もいない環境にあえて身を置こうと決め、貯めた幾ばくかの現金を持ち高校の卒業式の翌日にアメリカに出発しました。

浅島氏
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ゴードン
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お父様は何と?

自分の人生だから好きなことをやったらいい、と。アメリカで未来の指針を得ることができたら、そこで自分の進路を考えたらよい、但し、一度でも途中で帰ってくるな。というお話をいただきました。

浅島氏
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ゴードン
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アメリカではどのような経験を。

昼夜必死に語学を学びながらカレッジのクラスを受ける毎日でした。ただ、1年経った頃に「講義を受けることで語学や知識は習得できるが、このまま座学で講義を受けるだけで人間的成長が得られるのだろうか」と疑問がわき始めて。それでアメリカをヒッチハイクで1周しようと思い立って、その日のうちに退学届を出し翌日にはもう出発していました。

浅島氏
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ヒッチハイクで全土を回りました。車に乗った途端、銃を突き付けられて所持金を奪われ夜中知らない土地に放り出されたという事もありました。九死に一生を得たことで、どんな困難にあっても命さえあれば何だってできるという思いが芽生え、その経験は現在事業運営する上でも生かされています。

浅島氏
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また、車に乗せてくれた老人の家に2週間もお世話になったりもしました。ある日、そのおじいさんが庭にある大きなオーク(楢)の木に私を連れていき、つぶやきました。

「大きな楢の木は小さなドングリの中で眠っています。夢は現実の苗木のようなものです。偉大な成功者も最初は小さな夢にすぎません。」

「きみはまだ若い。気高い夢(ビジョン)を持ちなさい。きみは、きみが夢見た人間になります。求める者には与えられ、扉をたたく者には扉は開かれます。」と。その言葉は今でも私の宝ものであり、私の哲学のベースになっています。もし座学を続けていたらこのような学びは無かったと思います。

浅島氏
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ゴードン
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決断、行動力がすごいですね。

今思うと無謀ですよね。でも、絶対的な正解がないのにモヤモヤと考えているくらいなら行動を起こせば良くも悪くも何かが見えると思ってましたから。

人生は「冒険」だと思っています。RPGやサバイバルゲームじゃないですけど、何が起こるかわからない。また、経験を積むことで人はさらに成長していけるし、企業についても同じことが言えると思っています。その途上いろんな人に出会い、たくさんの経験をすることで、ひとは成長し未来を切り開くことができると信じてます。

浅島氏
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ゴードン
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帰国してから、起業するのではなく、事業承継の道を選んだのはなぜでしょうか。

ある時、先代が中学生の時に書いた寄せ書きを見る機会があり、そこに「ぼくが生まれ育った町を立派にするため協力するぞ」と書いてありました。後日、先代にその真意を問うと「リーダーシップを取り、困っている人を助け、共に成長し、社会発展に貢献する」とのことでした。

その言葉が「どんなに苦境や弊害、困難があっても大きな目的を実現するためチャレンジする」という私の価値観と合致しました。先代の生き方にさらに憧れと共感を抱き、先代のもとで人生をかけたいと思うようになりました。

浅島氏
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「親子の縁を切る」「ヒラの社員から始める」

ゴードン
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入社することを伝えた時、お父様はどんな反応を。

「会社に入ることにした」と、先代に意向を伝えたところ、「『入社する』なんて勘違いも甚だしい。『入社させていただきたい』だろ」とたしなめられました。そして入社にあたり二つの条件を提示されました。

浅島氏
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ゴードン
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どんな条件を。

1つ目は「親子の縁を切る」でした。会社に入るということは社長と社員の関係になるということであり、「その覚悟はあるか」と問われました。一瞬言葉に詰まりましたが、この人と仕事がしたいと思っていたので承諾しました。そのやり取りを隣で見ていた母は泣いていました。

私以上にそれを決断した両親の方が辛かったでしょう。それ以来、父親はいないものと思って仕事をしています。

浅島氏
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ゴードン
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2つ目は。

「ヒラ社員から始める」です。経営者になる上で最も大切なことは社員の気持ちをわかることであり、それなくして経営はできない、と言われました。その考えには全く同感だったのでもちろん了解しました。また、「将来おまえが社長になれるとは限らない。その時に社長に相応しい者を代表に据える。社長になりたかったら自分の力でのし上がってくることだ」とも言われました。

浅島氏
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ゴードン
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一般社員からスタートしたとのことですが、どんな気持ちで仕事をしていたんですか。

社員の方に認めてもらうためにはまず実績を出さなくてはなりません。取引がないところ、攻略が難しい先にあえて営業をかけて、うまくいかず悩むことも多かった一方で、大きな仕事を取っていくこともできました。若かったので、実力を見せつけてやりたいという生意気さもありましたね。また、私がどんなに成果を上げても先代は一切褒めることはなかったですね。腹が立つことありましたけど、それもまた愛情の裏返しだとポジティブに捉えていました。

浅島氏
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「What」「How」から「Why」へ発想を転換

ゴードン
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その中で新たな人材の事業に挑んだのはなぜですか。

キャリアを積み、会社全体の状況を把握できるようになって感じたのは、収益は出ていたが、近い将来事業がコモディティ化し、このままではいずれ淘汰されるという危機感でした。現状維持ではなく会社の未来を創造するためにイノベーションしていかないと勝ち残れないという危機感がありました。

浅島氏
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ゴードン
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社員からの反発はありませんでしたか。

当時、当社にはイノベーションを起こすという文化が薄く、現在安定しているのだからなにも今新しいことをやる必要はないんじゃないか。などの声もあり理解を得ることが難しかったです。それに取り組むことは結果的に会社の成長や社員の明るい未来にもつながる。という議論を何度も重ねました。

浅島氏
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ゴードン
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新しい取り組みは成功しましたか。

新規事業に着手した当初は、「こんなサービスをつくったらウケるだろう」とか「これが儲かりそうだ」みたいな気持ちで事業を立ち上げたのですが、短絡的に始めた事業はやはりうまくいきませんでした。会社を成長させなければという焦りから本質を見失い、空回りしている状況でした。新規事業プロジェクトのメンバーも成果が上げられず疲弊していましたし、自分自身も意思決定に迷いが生じたりしていて、チームとして決して良い状態とは言えなかったですね。

浅島氏
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ゴードン
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その状況からどう切り替えていったのでしょう。

当時は事業を立ち上げる際What(何を)やHow(どうやって)から考えてしまっていて、一番大事なWhy(なぜやるのか、なぜそれをやらなくてはならないのか)が抜けていたことに気づきました。そのさなかに社長に就任することになり、あらためて自分自身の根底にある哲学や信念、価値観、解決すべき社会課題、創りたい未来などをノートに書き留め、気付けばノートが12冊になっていました。

浅島氏
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ゴードン
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12冊も!

取り組む中で“Why”が明確になり、書き綴ったものをCI(コーポレート・アイデンティティ)BOOKと称した一冊の本にしました。これが出来上がるまで約600日の時間を費やしました。未来永劫会社を成長発展させるための“会社の心臓部(コア)”をつくるのだからそれくらいの時間をかけて然りだと思っています。

CI BOOKを社員に配りそれを用い定期的にメンバーとミッション、ビジョン、バリュー、マインドなどについて議論を重ね、会社の未来を語りながら相互理解を深めていきました。

浅島氏
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リーンスタートアップで市場適合性を測る

ゴードン
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HRに関する事業をどのように生み出していったのですか。

「生み出していった」というよりは、今もサービスの最適化を図ったり、新たな事業機会を創造し続けています。

手順としては、まず社会の人材におけるイシューやペインを認識し、プロジェクトメンバーそれぞれが新規事業案をいくつも上げます。その中から事業化の可能性がありそうなもの、俗にいう“筋がよい”ものをピックアップし、プロトタイプを市場に出してみます。そして市場の反応を見ながらアップデート、即リリース。このような事を日々繰り返していて、かなりスピード感のある現場です。机上の空論に時間を費やすのではなく、仮説立て、リーンスタート、スモールスタートで市場のニーズを見極めながらバージョンアップしていくという感じです。

浅島氏
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ゴードン
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成功する確率は?

新規事業の成功率は1/100(ヒャクイチ)、1/1000(センイチ)などと言われているので、常に10個ぐらいの企画やサービスを同時並行で走らせていますが、やはり市場に受け入れられないことの方が圧倒的に多いです。その時は即ペンディング、クローズします。サンクコストに対する意思決定はとても勇気がいるし難しい。企画立案・実行したメンバーの中には悔しくて食い下がる者や、涙を流すメンバーもいます。ですが、それは失敗ではなく成功までの単なる通過点にしかすぎないので、その意味では失敗というものは本来無いんですよね。

そのようなことを繰り返しながら、現在は主に女性活躍における社会課題をテーマとした事業に取り組んでいます。企業のバックオフィス業務を、働く機会になかなか恵まれない女性や、子育て・介護などを抱えている女性、また副業したい女性などにリモートでお仕事をして頂くというサービスを立ち上げ、お仕事をする女性、また企業様にも大変喜んでいただいてます。

浅島氏
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思い引き継ぎ、事業は時代に合わせ変化

ゴードン
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先代から引き継いだものは何ですか。

先代は口癖のように「従業員が『ここに居てよかった』と思える会社にしたい」と言っていて、従業員をとても大切に思っていました。そこは世代交代しても変わりません。よく第2創業という言葉が使われますが、私は1.5次創業と勝手に呼んでいます。先代の思いや理念を受け継ぎながら、事業については時代背景や環境に合わせ変化させていくのが私の役割です。また、会社は預かりものだと思っています。私は次の代につなぐためにバトンを受け取り、さらに成長させてまた次の代にバトンを渡すというのが私の役割だと認識してます。

浅島氏
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ゴードン
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ちなみに、浅島さんが次の世代にバトンを渡すときには、先代に初めに言われた条件を同じようにつけますか。

いや、まだその答えを出すのは適切ではないと思ってます。たまたま私が先代のそれにフィットしたのであって、同じようにストイックな環境を作ることが良いかもしれませんし、親子としての関係性を残したほうが良い場面があるとも思っています。バトンを受ける側の意思や価値観を尊重し決めるのが適切であろうと考えてます。

浅島氏
浅島氏

 

 

 

HR事業で循環型経済の構築を目指す

ゴードン
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10年後に目指したい姿を教えてください。

当社は「地球上で最も尊い資源は人である」と定義しています。昨今エシカル消費やSDGsについて議論されていますが、それは人材領域にも当てはまります。だれもが排除されることなく、だれもがしごとを通じ自分の価値を向上させることができ、企業も成長発展できる。そのような人材領域における循環型経済(サーキュラーエコノミー)のプラットフォームを構築したいと考えています。

また、当社は“女性が輝ける未来の創造”をテーマとした事業も行っていることから、社会において女性がもっと活躍できる機会創造を更に加速させたいと思っています。それは未来を担う子供たちを育むことにもつながりますし、私たちの時代だけを切り取って思考するのではなく、次の世代も見据えた持続可能なビジネスモデルを構築したいと考えています。

浅島氏
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ゴードン
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アトツギへのメッセージをお願いします。

会社を継ぐということは相応の覚悟をもって決断することであり安易に決めてはならないということは私が言うまでもありません。また、創業者や先代の本質を深く理解せずして「継ぐ」という選択肢を排除してしまうのも適切ではないと思ってます。

意思決定をするうえで業界や事業性、また、プロダクトやサービスももちろん大事ですが、もっとも価値があり受け継がれるべきは、創業者や先代が腕まくりをし、血の滲むような努力でつくり上げてきた“魂”だと思います。それこそが「ツグ」ということの本質だと思います。魂を受け継ぎ、その上で蓄積されたナレッジやリソースを活かし、時代にフィットしたプロダクトやサービスにアップデートしていくというのが私の考えです。

浅島氏
浅島氏
ゴードン
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後を継ぐことに前向きになるには。

もし仮に家業が「古くさい」とか「未来がない」……などを判断軸とするならば、それは継承者が未来をつくれば良いと思います。裏を返せばノビシロがあるということだと思います。

創業者や先代はどんな思いで事業を起こし、運営してきたのか。ということと、自身の価値観や将来なりたい姿を是非夜通し語り合うくらい議論してみてください。そうすると本質が見えて腹落ちしてくると思います。

浅島氏
浅島氏
ゴードン
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力強いお言葉、どうもありがとうございました。

 


【茨城】

株式会社AJヒューマンキャピタル

株式会社AJヒューマンリンクス

https://aj-group.jp/

代表取締役 浅島  秀幸 氏


 

■取材した人

ゴードン/編集長

家業である和紙卸問屋で4代目候補として8年従事。
アトツギの苦悩を誰よりも理解していることから、孤軍奮闘するアトツギに感情移入しがち。関西大学「ガチンコアトツギゼミ」非常勤講師。

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