「夢を持つ仲間」と共に走る楽しさ /福祉×eスポーツで新規事業
株式会社DG TAKANO
代表取締役 高野雅彰 氏
東大阪の町工場の三代目として生まれる。
家業を継がず技術のみ継承し、DG TAKANOの前身である「デザイナーズギルド」を設立。「町工場の技術」と「デザイン思考」を使って開発した最初のプロダクト『Bubble90』が『超モノづくり部品大賞』で大賞を受賞。その後、会社を急成長させて父親の会社を吸収し、事業も継承する。
『働きたいベンチャー企業ランキング1位』『JAPAN VENTURE AWARDS』『J-Startup』など、起業家として数々の賞を受賞する一方で、中小企業白書にも「父親の事業の技術を引き継ぎ、新たな事業を起こして急成長を遂げる」アトツギとして取り上げられている。現在は世界中からトップレベルの人材を集め、世界の社会課題や環境問題の解決をめざす複数のプロジェクトを進行中。日経ビジネス『世界を動かす日本人50』の1人。
テクノツール株式会社
取締役 島田真太郎 氏
テクノツール株式会社の2代目(現在は取締役)。 電子部品メーカーを勤務を経て、2012年に入社。重度肢体不自由者の暮らしを助ける、コンピュータ入力機器やアームサポートの普及に取り組む。2019年、アトツギU34オンラインサロンへの加入をきっかけにピッチコンテストに参加し、数々の賞を受賞。直近は新規商品開発、社内の業務効率化、取扱商品の見直しを実施中。
2020年10月25日に開催された「アトツギこそイノベーターであれ! in東京」のトークイベント。ゲストは、株式会社 DG TAKANOの高野雅彰代表と、テクノツール株式会社の島田真太郎取締役。
もともと家業を継ぐつもりは一切無かったんです。だから技術だけを継承し、ほぼイチから起業しました。販路なども全部自分で開拓。その後、家業を吸収して今に至ります。
家業は、ガスコンロのコックなどを作ってました。1000分の2ミリ以下の精度が求められる高度な技術を持っているのに「稼げる事業」じゃなかった、だから、後を継ぐのは敬遠してて。かといって「会社員」にも魅力を感じなかった。それが自分の理念を叶える会社を創業するきっかけになりました。
当社で作っているのは、最大節水率95%を誇る節水ノズル『Bubble90』です。世界最高基準が求められる「”超”モノづくり部品大賞」を2009年に受賞。公的研究機関や大学などの客観的データや、専門家の推薦状がないと応募すらできないようなハードルが高い賞です。「町工場の受賞は珍しい」と、経済紙の1面で取り上げられました。
福祉用具の開発や輸入をしています。僕は2012年に家業に入り、「商品力のアップ」「販路拡大」を担当してます。今は、テレビゲームに関する新規事業と共に、既存事業の見直しなどをやってます。
扱っている福祉用具は、自分ではほとんど体を動かせないような、重度の肢体障がいを持つ方が対象です。たとえば「首から下が動かない」という方には、頬や口の動きでパソコンや車椅子を動かし、仕事や勉強ができるようになる機械があります。
福祉用具で培ったノウハウを活かして始めたのが、障がいを持ってる人が存分にテレビゲームを楽しめるコントローラーなどの開発です。
テレビゲームはeスポーツとしての可能性を秘めてるし、楽しいだけでなく障がいを持った人が才能を発揮したり、ファンを獲得したりできるなど「新しい機会」をもたらすことができる。会社としても「福祉オンリー」の縛りから外れることで、さらなる領域に進出できるチャンスだなと感じています。
常にアンテナを張り、チャンスを捉えよ!
受け継いだ事業をベースにした挑戦ですね?どうやって新しいビジネスのネタを探したんでしょう?
最初は、前職時代に知人が他社の節水用具を見せてくれたのがきっかけです。家業が工場だから、すぐに原価がわかるんですよ。「なんでこんなに高いの?」って。で、すぐに節水業界のことや使われている機械のことなんかを調べた。そしたら「うちの実家ならもっと性能が良いものを安く作って提供できる」という確信が生まれたんです。
こういうチャンスに溢れた話って、実は結構転がっている。捉えるためには「これはいけそうだ」というアンテナを常に張っておくことが重要ですよね。
商品の知名度は上がるも、仲間集めに苦労した日々
2人ともグローバル展開を視野に入れている。だけど「世界で勝負」となると、やはりハードルは国内と比べて大きく上がるはず。仲間や資金集めって大変じゃないですか?
最初、「仲間集め」で大きくつまづきました。求人をかけても応募はゼロ。1人で工場にこもり、開発からメンテナンス、梱包から発送までやってました。
でも起業した時、「夢を叶える会社を創りたい」という理想を掲げてたんです。一般的に、社会に出たら「妥協」して生きてるじゃないですか?でも僕は妥協することなく「自分の夢も仲間の夢も叶える」「お互いに成長を促進する組織をつくりたい」と本気で考えていた。
理想を現実にするためには、大きな成功を短期間で出さないといけないと思ったんです。だって「ほら、できたでしょ!」って言えなければ説得力が無い。だからまず、ものづくりで結果を出すことに重点を置きました。
当初は、会社と商品のブランディングに注力。イメージが良くなかった節水業界の中で「東大阪の町工場が本気で取り組んで、新製品を開発した」ことをアピールしたんです。やはり、東大阪のブランド力は大きくて、商品の知名度もすぐに高まりました。
でも、会社は東大阪の町工場。求職者にとっては魅力が無かったようで応募には繋がらなかった。そこで、徐々に製品から理念のPRにシフトチェンジ。今では1名の採用に対して300人くらいの応募が来るようになりました。ただ、ここも順風満帆だったわけではなく…詳しくは後ほど話します(笑)。
どうする、アトツギの資金調達
資金調達や、契約を取ったりした時に「契約書」って必要ですよね?僕は弁護士にツテが無かったので、ネットで検索しました。その時に出会った弁護士がシリコンバレーの実情に精通していて「なんで日本で、スタートアップが成功しないんだ!」という問題意識を持っていた先生。だから、いろんなことを無償でやってくれた。
無償でも、大企業の法務部とガンガンやりあってくれるような心強い先生で。その先生に口を酸っぱくして言われたのが「1%でも外部資本を入れるな、乗っ取られるぞ」ということ。だからうちは、株は100%僕しか持ってない。銀行から融資を受ける際にも、株は一切渡さない方針です。
展示会や口コミを利用し、コツコツと販路拡大
「夢を持つ仲間たち」とだけ、仕事をする
今の社員に対するストレスは一切無いんだけど、最初の頃は超大変で(笑)。企業理念は「夢を一緒に」と謳っていても、集まってくるのは「やらされてる感」が半端ない、サラリーマン気質の人たちばかり。
それで何が起こったかというと、「横領」とか「リコール」とか。最初は性善説を信じて採用してたんだけど、さすがにキツくなった。
組織を立て直す時に必要なことって「社員の中身を変える」「社員そのものを辞めさせて、新しく採用するか」の二択ですよね?僕は、後者を取った。四流の人を三流に育てるみたいな人材育成に、自分の時間を使うのはもったいないから。
その過程で行なったのが、高度外国人採用。日本には優秀なのに、その能力を活かせてない外国人がたくさんいることを知った。「あ、ここなら狙えるやん」と。
だから、当社のセキュリティーを管理しているのは、ロシア人のシステムエンジニア。そのおかげで、会社は立ち直りました。今は日本人も外国人も分け隔てなく「夢を持つ」仲間同士で頑張っているところです。
やり方次第でできると思いますよ。外国人にとって日本は「住みたい国ランキング」に入ってるくらいの魅力があるんだから。日本企業がダメなところは、会社が外国人に対して一切合わせようとしないこと。こっちが五歩譲って、向こうも五歩譲るというスタンスじゃないと。「一歩も譲らない」なんて、論外(笑)。
思考停止になっていないか。ニューノーマルの今こそチャンス
ところで家業で新規事業を始める時、社内の反対とかってなかったですか?
空いてる機械を使わせてもらったけど、家業に負担はかけなかったので、反対はゼロです。
意見が合わないことは、もちろんある。新しいことをやる時は「ある程度進めてから共有する」みたいな手法をとることが多いです。ただ、新たな挑戦に対しての反発は少ないです。既存事業の領域に踏み込んで「あの会社との取引を止める、止めない」みたいなことになると、反発は多いと感じます。
今直面している「コロナ禍」に、どう対応していますか?
既存の価値観やノウハウなどがガラッと変わり、ピンチとチャンスが一緒にやってきている。周りのイケてるベンチャー企業の社長たちと話していると、チャンスにフォーカスし、ワクワクしながら行動していて面白い。
悲観的になってる人はアンテナを張ってないだけで、思考停止なんじゃないかな。せっかく目の前に好機が転がっているのに。
うちも顧客の90%が飲食店だから、経営面だけで見ると非常に損害は大きい。だけど、新規事業を始めたり、新しい人材を獲得するという面から見ると、良い機会になっている。
僕も捉え方次第だと思っていて。売上が減ったりという影響はあるけど、一方で学校や病院のIT化が一気に進んで特需が生まれたりもしているから、チャンスも大きい。あと、積極的に取り組んでいるのが、リモートの展示会。これには、全部乗っかるようにしてます。
IT業界の起業家と話してる時、「家業があるというのは、本当にうらやましい」としみじみ言われました。「安定した事業がありつつ、挑戦できるって他には無い環境ですよ」と。せっかく「アトツギ」という立場にいるのだから、最大限に活かしましょう。
アトツギ甲子園HPへ
■取材した人
アトツギ総研 所長/サンディ
アトツギ総研 研究長