アトツギの挑戦が世界をもっと良くする/「あきらめない経営者」かどうか/法律的な手続きとルールづくり

フューチャーベンチャーキャピタル株式会社 
代表取締役社長 松本直人 氏

神戸大学経済学部を卒業後フューチャーベンチャーキャピタル入社。ファンド企画、募集からベンチャー企業への投資実行、育成支援から回収まで、VC業務全般を経験。2011年同社取締役就任、2016年1月より現職。

他、城南信用金庫評議員、日本ベンチャーキャピタル協会地方創生部会委員等様々な外部委員を務める。著書「地域金融復興のカギ 地方創生ファンド」(東洋経済新報社)を2019年3月発行。

■話を聞いた人

EY弁護士法人
パートナー 伊藤多嘉彦 氏

1999年に裁判官としてキャリアをスタートし、2003年から弁護士となる。EYグループへの加入前は、英米の外資系法律事務所、日本の大手法律事務所に所属していた。2006年にスタンフォード大学ロースクールに留学して、シリコンバレーの風に吹かれ、帰国後は、IT・ライフサイエンス領域のスタートアップ支援にも力を入れている。インターネットとリアルな世界との結びつきが強くなる中で、テクノロジーだけでは乗り越えられない法や社会制度を皆で主体的に変えていく必要を強く感じている。最近は、スタートアップと若い跡継ぎの方々の交流も増えてきており、ベンチャー型事業承継という取組みについて大きな期待を寄せている。

アトツギ大集合のオンライントークイベント「アトツギベンチャーMeet-UP!Vol.5 inTOKYO」が12月3日に開催された。今回のテーマは「ベンチャー型事業承継の強み~支援者から見たアトツギのポテンシャル」。アトツギの製品開発やプロモーションを支える株式会社マクアケの中山亮太郎代表取締役社長、ファイナンス面でアトツギを支えるフューチャーベンチャーキャピタル株式会社の松本直人代表取締役社長、アントレ教育、事業開発など多方面でアトツギを支援するEY 弁護士法人の伊藤多嘉彦氏の3名が語り合い、多くの質問にも回答した。

 

 

 

アトツギをサポートする立場から気づきを提供

中山氏
中山氏

まずは私から簡単な自己紹介を……。「Makuake(マクアケ)」という応援購入サービスの会社を運営していまして、7年経ちます。昨年、マザーズに上場させていただきました。

 

「Makuake」を押し上げてくれたのは、まさにアトツギの皆さん。アトツギの方が家業を活かしながら新商品をつくって、量産前に先行販売して“応援購入”してもらう。全国津々浦々、日々たくさんの会社から新商品、新サービスがデビューしているのを応援しています。

 

今日は僕なりの何か気づきをご提供できればと思っていますので、よろしくお願いします。

京都に本社を置いているベンチャーキャピタルです。22年が経過しまして、これまで470億円を600社くらいに投資させていただきました。

 

3割が首都圏、7割が地方の会社で、「地域にいい会社を育てる」ということをしてきました。実はリーマンショックで会社が潰れそうになりまして、その時気づいたのは、地方にはいい会社がたくさんあって、いい会社を育ててきたという自負があるということ。そのことと、「上場」というベンチャーキャピタルの投資回収の手段が必ずしも一致するのかという問題意識がありまして、会社が潰れそうな時に違うことをやらないといけないということで、上場しなくても企業がちゃんと成長すれば投資回収できるモデルを作りました。

 

そういった経験を活かして「事業承継ファンド」というのを去年から新しく手掛けまして、それを大阪、京都、東京、大分でやっています。それも後継者の持つ所有権、経営権、株式の悩みを解決するようなソリューションをやっています。

 

そのノウハウや、課題もたくさんありましたんで、そんなこともお話しできればと思います。

松本氏
松本氏

私はいろんな大企業から皆さんのようなアトツギの方のご支援まで幅広く、いろんなお手伝いをしています。

 

最近はベンチャー企業さん、あるいはベンチャーキャピタルさんをお手伝いするようなこともありまして、スタートアップの方々と多く交流をしています。そういうスタートアップのコミュニティの中にアトツギの方も入ってこられているんですが、お会いする皆さんがエネルギッシュで、さらにスタートアップの方々とのエネルギーと交じり合っているのを見て、こういう方々がいろいろと新しい日本を作っていくんじゃないかと思っていました。

 

そういうわけで、私の所属するEY弁護士法人が、このベンチャー型事業承継さんの取組みを全力でサポートしていこうとしています。今日はいろいろお話ができるのを私自身も楽しみにしています。よろしくお願いします。

伊藤氏
伊藤氏

 

 

 

 

黒字になるまで徹底して応援するファンド

中山氏
中山氏
モノづくりの力って日本は突出してるのに、僕らみたいなインターネットベンチャーとモノづくりの企業がなかなか出会う機会がないのは日本にとってもったいない。「新しい先端技術」×「歴史が積み重なってできた何か」でイノベーションできると思うので、僕もなんかやりたいなと思ってるんです。
実は我々、モノづくり系の企業へ投資するファンドを新しくつくりまして……。
松本氏
松本氏
中山氏
中山氏
いったいファンド、何個持ってるの?(笑)

 

38個ですね(笑)。確かに、モノづくり企業とITの掛け算っていう接点をつくればいいというのは、新しい気づきです。マクアケさん、ほんと連携させてください(笑)。
松本氏
松本氏
中山氏
中山氏
ぜひぜひ。僕はもともとベンチャーキャピタルをちょっとやっていて、いわゆるインターネットスタートアップ側のベンチャーキャピタルっていうプロトコルで育ったんですけど、アトツギの会社ってそこのプロトコルでは合わないじゃないですか。やっぱり全然違うものなんですか?

全然違いますね。僕がファンドをやっていて一番嫌いなのが、ファンドの期限なんです。誰が勝手に決めたんだと。10年とか8年とか。投資を受ける側からすると関係ないじゃないですか。地方の同族企業は長期的な目線で事業ができるから強みがあるのに、短期的なスケールを無理やり求めるVCの投資というのは、本当に合わないなと感じていて。

 

我々の投資のプロトコルっていうのは3年から5年という目安はあるんですけど、黒字化するということだけのプロトコルでやっていて、金融機関と1対1でつくってますんで、金融機関さんがいいといえば永遠に延ばせるファンドなんです。

松本氏
松本氏
中山氏
中山氏
まさに目からウロコ!本質じゃないですか、黒字にするって。

VCって、手前味噌ですけどいい仕事なんですよ。企業を応援してお金出して一緒に成長して……っていういい仕事なのに、ファンドの期限がきて、いきなり「買い戻してください」って経営者に言って、今までの信頼関係が全部壊れてしまう。これは仕組みがおかしいと気づいて。じゃあ本当に会社が成長すれば投資回収ができる仕組みを作ろうとしたんですね。

 

我々が「買い戻し」って言ってるのは、自社株買いっていうのを請求できる権利なんですけど。自社株買いっていうのは、法的に、累積赤字があって利益剰余金がなければ買い戻しはしなくていいんです。だから、「黒字になるまで徹底して応援します」という覚悟と同じなんです。そういう仕組みを作れば短期間で上場しなくてもいいと。

 

で、だいたい倍率も創業期に1000万円出して、1500万円くらいでちゃんと利益が出たら極端に言えば1株ずつでもいいんで、年度年度で買い戻していくっていう仕組みで。利益が出る状態になれば金融機関が融資してくれますので、買い戻しの資金を借り入れすれば1000万の資本金が1500万円の借入金に変わって、そこからまたキャッシュフローで返せるから、企業さんにとっても楽だし。

松本氏
松本氏

 

 

 

 

経営者って失敗しないと成長しない。

 

中山氏
中山氏
最近、エクイティまわりの作法をいろんな形でおり込み始めたっていうのがアトツギ業界にあるなと思ってるんです。それまでは融資、つまり借りれるか、個人保証つけるかどうかっていう話だったのが、完全に家業とは別の独立ベンチャーをつくってモノづくりしている会社が地方にあって、面白いなぁと思って。
息子たちがIT会社を別につくって、お父さんの会社の扱ってる建材をネットで売るというのもありました。資本関係はなく息子たちだけで、そこに新しい投資家を集めて、今や120億も売り上げる会社になっています。それはもう一つの資産だと思いますね。
松本氏
松本氏
伊藤氏
伊藤氏
別会社をつくっちゃうというのは、本業とは違うにしても、そこを軸にしつつうまく連携していくみたいな方法は、1つのやり方かもしれないですね。

ありだなと思ったのは、僕はもともとサイバーエージェントの社員で、マクアケはサイバーの100%子会社で始まったんですけど、それをスピンアウトさせたんですよね。より独立性を持った自由なやり方で、全然違うカルチャーを作りましたし、採用や給与体系も、ブランディングも変えました。スピンアウトしたことによって経営のスピードアップにつながった。

中山氏
中山氏
僕は3人目の社長を引き継いだんですけど、先代との意見が分かれるというかコントロールしにくいのは人の問題ですよね、採用、退職、異動含めて。同族企業で、いつも親に言人を動かしてもらっていたらいつまでたっても後継者って成長しない。一定の権限というのはオーナーシップも含めて後継者が持たないと、成長しないまま年をとってしまう。
松本氏
松本氏
伊藤氏
伊藤氏
それはアトツギの方が甘えているのか、親が子離れできていないのか……?
これは僕の経験ですけど、これまで経営をしたことがない人は、当然先代に比べると考えは浅い。先代は新しい人のやろうとしていることを見ながら、「これは失敗するな」というのが先にわかっちゃうんですね。それを未然に防ぐという行動に出ちゃうんですよ。でも、経営者って失敗しないと成長しない。成長の機会を止めているのと同じなので、小さな失敗はむしろさせないといけないと思いますよ。
松本氏
松本氏

 

 

 

 

先代が急に亡くなることも考えておく

中山氏
中山氏
伊藤さん、法律まわりで、なんか動きとか感じることとか、「もっとここ変えたほうがいいのに」とかあります?
やっぱり相続のことですね。私が手伝ってるベンチャー企業で、85%株持ってる代表取締役が突然亡くなっちゃったんです。その後は相続も絡むし、じゃあ誰がその株を持ってもらうのかみたいな話も出たりします。
伊藤氏
伊藤氏
中山氏
中山氏
結構多いですよね。よく聞くのがお父さんが急に亡くなって、息子が急遽戻って継ぐ、みたいなの。
そうですね、うまくいっている時はみんな一体なんですけど、先代が亡くなったとか、何か会社が少しうまくいかない時に、同じボートに乗ってるんだけど違う方向に向いちゃうと言うことがあったりして……。そういう時に今の持ち株割合だとどうなるんだろうということはシミュレーションして準備しておく、というのも意外と大事かな。ドロドロしたのを見てきているので(笑)。
伊藤氏
伊藤氏
中山氏
中山氏
準備っていうのはどんな?
先代から引き継ぐ場面でどれくらい持ってたほうがいいんだろうと。ただそこで引き継ぐ時に当然税金の話があるので、さらにその10年くらい前から考えていかないといけないとか、たぶんそういった逆算のプランニングみたいなことが必要になってくるのかな。
伊藤氏
伊藤氏

 

 

 

ファンドのプロが、いろんな質問に答えます!

中山氏
中山氏
視聴者から質問が来ています。「ファンドを運用する上で重視されているところ、投資先のどのようなところを重視されているか聞いてみたいです」
当社はシード(創業期)の投資と事業承継の投資とがあるんですけど、シードの投資はシンプルで、「あきらめない経営者に投資する」。以上。
松本氏
松本氏
中山氏
中山氏
精神論!(笑)
ほんとそうなんですよ。「成功するまであきらめない」というのが成功するための秘訣なんで、失敗はないんですよ、あきらめない限り。事業をあきらめないんじゃなくて、自分たちがやろうとしていることをあきらめないということ。やり方はいくらでも変えてもいい、モデルも変えてもいい。でも会社が誰のために存在してどう役立ちたいのかということがあって、それを「絶対成し遂げるんだ」という想いを持ってる人に投資します。
松本氏
松本氏
中山氏
中山氏
続々と質問が来てますね。「ファンドというと投資して回収してナンボみたいなイメージがあるのですが、投資回収以外を主目的として投資するケースはあるのでしょうか? 右肩上がり前提じゃない家業が多い気がするので」

ファンドはあくまでもツール。我々の会社ではなくて地域金融機関さんが主役なんで、そこで短期的なリターンをあげることを目的とはしていないです。地域の会社が育って、成長するいうことに対して地域金融機関さんがベネフィットを得られますので。副次的な効果は山ほどあります。

松本氏
松本氏
中山氏
中山氏

次の質問です。「同族企業ではエクイティで資金調達するケースを見ません。そもそもデットでなくエクイティで資金調達をする家業のきっかけや意図というのは何でしょう?」

 

1つは、エクイティは一定期間返済できなくても差し押さえという状況にはならない。倒産しない。長期投資にも使えるのがメリットです。創業期の資金調達なら、金利が今安いので、融資で借りるのがいいと思います。実績もない中で、新しい新事業にチャレンジするお金は出しにくいんですね、金融からすると。一言で言うと、金融から借りられないお金をエクイティで調達する。
松本氏
松本氏
中山氏
中山氏
次の質問。「自分で資金調達して、自分で事業をやってみたい思う一方で、本業の事業承継も進んでいます。両立したいと思うのですが、それって欲張りなんでしょうか」
僕は想いをもった人が経営するのが一番大事だと思っています。本気で想いがあるのはどっちですか。バトンタッチのために中継ぎするというのなら短期間だったらできると思うんですよ。でも、やりたい想いのあるほうを一番にやったほうがいい。でないと言い訳しますからね。
松本氏
松本氏

 

 

 

アトツギたちへ、感謝とエールを

中山氏
中山氏

残り時間5分になったので、アトツギに向けてのエールタイムとします。では、僕から。

 

まず、アトツギの皆さんには感謝しています。脈々と少しずつブラッシュアップしながら引き継いできた皆さんの力というのが、日本を豊かな国にしたと思っていますし、「Makuake」という事業はアトツギの方の新商品や新サービスのデビューにも支えられていると言っても過言ではないので。

 

サポートする会社はありますので、新たにチャレンジしていただければ、日本や世界はもっともっと良くなっていくと思います。From JAPANで世界を良くしていくのはアトツギの力です。応援していますので、僕らと一緒に大きくなっていきましょう。

まず1つは、中山さんがおっしゃった「感謝」という言葉に関して。アトツギの方は今あるものが「当たり前」と思ってしまうことがあるんです。「感謝」の対義語は「当たり前」なんです。当たり前と思った瞬間に感謝の気持ちはなくなります。今あるものは過去の積み重ねで出来上がったものだということに感謝すべきだし、その気持ちがあれば、親子や先代との仲、従業員さんとの関係もスムーズにいくと思います。

 

もう1つは私の経験からですが、経営者は承継した時に気張ります。なので、最善の意思決定をしようとして、かじった知識とか事例とかを参考にするんですけど、基本的に自分が経験したことや、考え尽くしてやっていない意思決定は全部失敗します。

 

なので、自分というものを信じきるというか、見栄とかは全部捨てて、自分自身がこれがいいと思ったことを意思決定してやる。それが経営者として一番育ちます。偉そうで恐縮ですが、私の経験からのエールです。

松本氏
松本氏

今すでに後を継ぐと決めている人も、まだ迷っている人もいると思います。どちらかというと後者の人に向けてですけど、迷っている時も与えられた場で一生懸命やってください。いろんな経験は回り道のように見えても、後で役立つことがあるので。いろんなご縁があって、そこを継ぐといったん決めたら、今度はそこに向かって頑張ってほしい。

 

あとは仲間じゃないかな。アトツギの横のつながりでもいいですし、いろいろな横のつながりが、自分が経営する時に力になります。なので、「絆」もぜひ作っていっていただけたらと思います。

伊藤氏
伊藤氏

 

 



アトツギ甲子園HPへ

 

 

■取材した人

株式会社マクアケ 代表取締役社長 中山亮太郎 氏

2006年に株式会社サイバーエージェントに入社後、社長運転手の傍ら新規のオンラインメディアを立ち上げ、その後ベトナムでのベンチャーキャピタル事業を担当。 2013年に株式会社マクアケを創業し、アタラシイものや体験の応援購入サービス「Makuake(マクアケ)」をリリース。2019年12月には東証マザーズに株式を上場。大企業、中小企業、スタートアップ、個人チームなど、規模を問わず、それらが生み出すアタラシイものや体験を応援購入できる場としてサービスを拡大中。 また、全国約10箇所に展開するオフラインショップ「Makuake Shop」や、優れた研究技術を活用した新製品をプロデュースする「Makuake Incubation Studio(MIS)」事業も展開。 Makuake利用企業の中に日本中のアトツギベンチャーが多いこともあり、アトツギベンチャーの活性が日本経済において極めて重要だとあらためて感じたことから、一般社団法人べンチャー型事業承継に理事として参画。

SNSで記事をシェア