目前の事業承継を見据えて、長期的視点で組織改革に挑む

大冷工業株式会社 取締役事業革新担当
大場章晴 氏

愛知県名古屋市に本社を置く大冷工業は、ものづくりを行う企業のサポート役として、工場の空調設備や給排水衛生設備の施工を手掛けてきた。猛暑・熱中症対策に役立つ省エネ空調「クールジェットシステム」なども提供している。

「親父が『入りたいなら、入っていいよ』と軽く言ってくれて。社長になるイメージはできてなかったけれど、そう言ってもらえるなら家業に入ろうと決意しました」
そう語るのは、大学卒業後にフランスへの留学を経て家業に入る道を選んだ、大場章晴 取締役事業革新担当である。

大場取締役は、家業に入ってまず新規開拓の営業からスタート。7年目から経営に携わるようになった。現在は、近い将来計画されている事業承継も見据えて、長期的目線での組織改革に取り組んでいる。

家業に入ってからの成功体験、反省した経験からの学び、“焦らず、着実に組織を変えていく”ための取り組み、そして今後のビジョンについて大場取締役に伺った。

就職活動はせず、いきなり家業に入る道を選んだ

 

ティム
ティム
まずは、御社の事業内容を教えていただけますか。

 

空調や衛生設備と言われる、いわゆる「空気や水の通り道」を作っている会社で、施工管理の集まる技術集団です。ゼネコンさんや官公庁から仕事をいただくのが3割ほど、7割ほどは「環境改善をしたい」工場のお客様になります。
大場さん
大場さん

 

ティム
ティム
創業時からこのような事業をされていたんですか?

 

もともと、曾祖父が海軍にいたときに冷凍技術を学んで、製氷事業を行う会社として創業しました。当時は空調技術がまだ無かったため、海産物が腐らないように氷を入れて保冷するショーケースなどを作っていたんです。そして、戦後の焼け野原から変わっていく世の中のニーズに合わせて、事業を変容させてきました。
大場さん
大場さん

 

 

ティム
ティム
時代に応じた事業をされて、今に至るんですね。小さい頃から家業の存在は意識していましたか?

 

いえ、子供のころは親父が社長であることも、どんな事業をしているのかも、よく知りませんでした。ただ、大学生になって父親とお酒を飲みながら話す機会が増えたり、お葬式に参列する中で親父の立場や事業のことを徐々に知っていったりして。それで、大学3年の就活のときに、親父が「入りたいんだったら、入っていいよ」と言ってくれたんです。当時は社長になることも、経営をすることも、イメージはできてなかったですが、そう言ってもらえるなら家業に入ろうと思いました。
大場さん
大場さん

 

ティム
ティム
素直に家業に入ろうと思えたんですね。でも、大学の周りの友達は大手企業に就職するわけじゃないですか。外に出ようとは思わなかったんですか?

 

私が通っていた大阪外国語大学(現・大阪大学外国語学部)は、だいぶ変わっていて(良い意味で)。就活をせずに、海外に留学する人も多いんです。そういった環境なので、あまり周りは気にならなかったです。
大場さん
大場さん

 

ティム
ティム
なるほど、面白い大学ですね。ただ、大場さんも家業に入る前にフランスに行かれてたんですよね?

 

はい。これまで大学で学んできたことと関係無い家業の世界に入ることになるので、悔いを残したくないなと思って。親父にも「せっかく勉強したんだから、1年くらい行ってきたらどうだ」と背中を押してもらい、フランスにいきました。
村岡さん
村岡さん

 

ティム
ティム
フランスに行かれた目的って何ですか?

 

今思い返すと「海外で暮らしてみよう」くらいの気軽な気持ちでした。「1か月後のことは向こうで決めよう」と思って、チケットと1か月分のお金とホームステイ先の準備だけ整えて。けれど、仕事も見つかり、職場の人にもホームステイ先の家族にも恵まれて、充実した日々を過ごせました。

 

ティム
ティム
フランス生活ではどんなことを学びましたか?

 

人に頼ることの大事さや、自分ひとりの力では絶対に生きていけないことですね。私の滞在先はブサンソンという小さな町で、パリと比べると全然仕事が無いんです。仕事をしないと生活できないので焦りましたが、ある日友達とワインを飲みに行ったときに見つけたワインバーの奥さんが日本人、しかも名古屋の人で。しかも、「子どもが生まれるから、奥さんに代わる働き手を探してる」ということで、働かせてもらえることになったんです。ラッキーでしたし、誰かのおかげで生きていけるんだという意識は、今もずっとありますね。
大場さん
大場さん

 

最初の仕事は新規開拓営業。売上1億円を達成できたのは「チームに恵まれたから」

 

ティム
ティム
フランスから帰ってきて、家業に入ってからは最初にどんな業務を担当したんですか?

 

私が入社した当時はものすごく不況で。これまで積極的にやってこなかった、新規開拓をしないと食っていけないという感じだったんです。それで、私も新規開拓の営業を担当していました。
大場さん
大場さん

 

ティム
ティム
いわゆる、テレアポや飛び込み営業といった類のものですか?

 

そうです。工場便覧という、工場の電話番号と資本金が載った分厚い辞書みたいな冊子を見ながら、ア行から順番に電話を掛けて。アポが取れたら訪問して、説明したり困りごとを聞いたりして。訪問先の近くに工場があれば、ついでに寄ってまずは守衛さんと仲良くなって、みたいなことをやっていました。
大場さん
大場さん

 

 

 

ティム
ティム
がっつり営業ですね。結果はうまくいったんですか?

 

景気がちょっとずつ上向きになってきたことも味方して、おかげさまで良い結果が出ました。先輩が「契約が取れたら焼肉奢ったるわ」と言ってくれたので、歴代の先輩が営業に行ってもはねのけられていた、ある企業様に必死に食らいついて契約を獲得したり。あとは、取引が休止していたお客様から、大型のクリーンルームの更新工事をタイミング良く依頼いただいたりして。入社2年目で1億円の売上を達成しました。
大場さん
大場さん

 

ティム
ティム
すごいですね。

 


でも、決して個人の力ではなくて、チームの力なんです。工事を受注しているので、売って終わりじゃなくて、施工をしてくれる社員さん、協力会のメンバーが後ろにいてくれるおかげですから。技術面のプロフェッショナルが後ろに居てくれるから、安心して営業ができました。
大場さん
大場さん

 

ティム
ティム
大場さんは、ピカピカのキャリアで家業に入ってるじゃないですか。昔からいる社員さんと衝突することはなかったですか?特に、数字を追う営業と段取りをして安全に仕事を進めていく施工管理だと、ぶつかることもありそうに思うんですが。

 

そこについては、すごく恵まれていて。理解のある先輩ばかりだったんです。たぶん、「安い仕事取ってきたな、こいつ」って思うこともあったんでしょうが、そんなことも言わず、顔にも出さず、仕事を引き受けてくれましたね。
大場さん
大場さん

 

ティム
ティム
めちゃくちゃいい職場だ。

 

目の前の仕事に対して妥協しない姿勢や、どうすればお客様にとって一番良い環境を構築できるかを考える姿勢は、もともとうちの強みだったので。「お客様のためにやろう」と捉えてくれたんだと思います。
大場さん
大場さん

 

 

 

同世代の味方を作り、長期的目線で組織を変革に導く

 

ティム
ティム
じゃあ、家業に入ってからは特に揉め事は無く?

 

いえ、途中でありました。入社7年目ごろから経営に関わるようになって、周りから「次、継ぐんだよね」と言われることも増えたので、経営の勉強をしないと追い付けないなと思い、ビジネススクールに通い始めたんです。そこでの学びは非常に役立ったんですが、当時の私は頭でっかちになっちゃって、出席する会議や中期経営計画を考える場で、いわゆる「横文字」を並べるなど、方向性の違うことを言ってしまって。私が伝え方を失敗したあまりに、ちょっと浮いちゃったこともありました。
大場さん
大場さん

 

 

ティム
ティム
いろんな学びを得る中で、会社のメンバーに伝えたいことや会社の戦略に落とし込みたいと思うものの、そのやり方をちょっと間違えてしまったという感じですかね。

 

はい。

 

ティム
ティム
それって、すごく塩梅が難しいじゃないですか。何かいい方法は見つかりましたか?

 

最近思うのは、長年会社にいる経営層やメンバーに急激な変化を促すのではなく、自分が採用に携わった年代から徐々に変えていくのが大事なんじゃないかなと。。
大場さん
大場さん

 

ティム
ティム
なるほど。
「これやりましょう」「あれやりましょう」と自分がやりたいことをガツガツ主張したとしても、変えるのはあくまでもやり方であって、本質ではない。普段のお客様への対応スピードや品質を低下させてはいけない、主役は大冷のメンバー、協力会のメンバーだという気持ちでいるようにしています。新しいことに取り組むのも大事、これまでの信頼維持はもっと大事。

自分と同じ気持ちを持つメンバーやお客様、業者さんなどから巻き込んで行って、徐々に変化していく状態を目指したいなと。

ティム
ティム
でも、採用したり、自分の味方となるメンバーを見つけたりすることって、どうしても時間が掛かりますよね。自分の考えを浸透させるために、何か取り組んでいることはありますか?
去年から始めたばかりですが、各拠点で働いている同年代のメンバーを月1回集めてプロジェクトを行っています。
大場さん
大場さん
ティム
ティム
プロジェクトとはどんな内容ですか?
社内の情報共有や案件共有をしたり、古くなったHPや会社案内の改修案を話し合ったり、身近なものから取り組んでいます。

 

ティム
ティム
身近な改善から始めて、自分の考えを浸透させていくのはいいですね。手応えは感じていますか?
最近は3Dスキャナーなどのテクノロジーを利用した新規事業に力を入れているんですが、そうゆう集まりの時に実績を話したりすることで、みんなが積極的に提案してくれたり、現場から要望が上がることが増えてきたりはしています。
大場さん
大場さん
ティム
ティム
いいですね。ちなみに、大冷工業さんの本社オフィスに新しくて綺麗な共有スペースがありますよね。あのスペースはなぜ作ったんですか?
支店のメンバーが本社に来たときや協力業者さんが打ち合わせに来てくれたときに、コーヒーを飲みながらゆっくりできるスペースが無かったんですよね。会議や打ち合わせの後、5分でも他愛の無いことを喋る時間って結構大事だし、コミュニケーションが深まるじゃないですか。そのためのスペースをと思って作りました。
大場さん
大場さん
ティム
ティム
なるほど。人が集まれる場を用意したり、プロジェクトを動かしたり、自分の考えを徐々に浸透させたりと、組織作りを含めて、中長期的に考えられてますよね。自分の代になったときに組織が円滑に動くよう、種まきをしている印象を受けます。
でも、僕が主体的にやりたいと思うことは正解かどうかわからなくて。企業として求められることは、いかに他社よりも安価かつ良い品質のサービスを提供できるか。それに、お客様から依頼をいただいて、安全に高品質な工事を行うという本質の部分は、各拠点の従業員が担っている。僕にできることは、そのサポートでしかないと思ってます。
大場さん
大場さん
ティム
ティム
なるほど。ちなみに、ビジネススクールには通ってみてどうでしたか?
経営に関する基礎知識はもちろん身に付きますし、「組織の再構築」や「人をどのように動かすか」といった学びは今の仕事にも生かせていると思います。何より、事業承継を終えた先輩が多くいるので、ロールモデルになる先輩に出会えたことが大きかったです。自分の5年後をイメージできました。

 

中小企業だからこそ、「面白いかどうか」の軸で新しいことに挑戦できる

 

ティム
ティム
大場さんは、近々事業承継をされるんですか?
そうですね。社長とも話し合いながら考えています。
大場さん
大場さん
ティム
ティム
今のところ、計画的に進められていますか?

 

うちは親族で100%株を保有していないので相続税対策は他の方達よりはハードルが低いかなと考えてます。ただ、親族含めて株主の皆さんとしてどう関係を保っていくかは話し合わなければいけないですね。
大場さん
大場さん
ティム
ティム
事業承継して代表になった後は、どういった会社を作っていきたいですか。
たとえば、工場で働く人が快適に仕事ができる環境を整えることや、これから増えるであろう自動製造ロボットが正常に稼働する環境を整えることで、お客様の事業繁栄の一翼を担いたい。近い将来は工場に人はいなくなるかもしれませんが、まだ人手が必要な工場は多いと思います。なので変わらず熱中症対策に役立つ空調システムなどの提供は続けていきたいですね。そして、+αで手掛けていきたいのが3Dを用いた工場の図面化です。
大場さん
大場さん
ティム
ティム
図面化ができると、どんなメリットがあるんですか?

 

画面上で見える線が、配管なのかダクトなのかの判別ができたり、その材質は何か、重量はどれほどかといった付帯情報も取得して、管理することができるようになります。今までの平面図では、「工場で働く人が入れ替わったときに、引き継ぎがされていなくて、何の配管かわからない」といった困りごともあったので。
大場さん
大場さん

 

 

ティム
ティム
データが財産になりますよね。

 

お客様の悩みも解決できるし、当社としては「工場のデータを残しましょう」という入口からお客様と接点を築いて、工場の環境改善に携わっていくことも可能なので。
大場さん
大場さん
ティム
ティム
ゼネコンさんが手掛けてそうな範囲ですが、あまり取り組んでいるところは無いんですか?
自社でばりばりやっているという事例はあまり聞かないですね。大企業は、新しいものへ投資する際に決裁などのハードルが高いし、利益が出るか出ないかで投資の意思決定をするでしょう。でも、僕ら中小企業は、「面白いかどうか」の軸で投資をすることも多いからこそ、新しいことに挑戦できるんだと思います。今は、ゼネコンさんにも、うちのスキャナをサブスク形態で貸し出していますよ。
大場さん
大場さん
ティム
ティム
いいですね。事業承継後に目指していきたい、組織の在り方などはありますか?
お客様に寄り添ってスピーディーに動くためにも、いかに地域での意思決定を早くするかが課題だと思っています。
大場さん
大場さん
ティム
ティム
権限委譲を進めていくといったことですか?
はい。他社との業務提携やM&Aもしながら拠点を増やし、各地域で経営が成り立つようにしていきたいなと。
大場さん
大場さん

 

ティム
ティム
これまでは愛知県中心でしたが、全国展開も視野に?

 

あくまでお客様ありきです。現在も、関東や九州にお客様がいるので出張ベースで支援をしていて。そういった、すでにお客様がいる土地であれば拠点展開も考えます。
大場さん
大場さん
ティム
ティム
採用面で新しく取り組んでいくことはありますか?

 

新卒の場合は、採用担当だけではなく、地域毎に年代の近いメンバーと話ができる環境を整えています。あと社員採用ではないんですが、8月から大学生7人を有償の長期インターンシップに迎えています。共用スペースの事業化が目的で。「イベントをするでも、定常的な利用者を増やすでもいいから、ビジネスを考えて実行してみて」と伝え、取り組んでもらっています。
大場さん
大場さん
ティム
ティム
直接採用に繋がるわけではないかもしれませんが、大学生と接点を持てるのはいいですね。
今回は、うちの事業と関係無い専攻の学生ばかりを集めています。というのも、本社ビルも築50年ほど経ちいずれ本社が移転する可能性もあって、そのときを見据えて不動産活用のアイデアも持っておいた方がいいなと思っていて。斬新なアイデアが欲しいため、今回の採用に至りました。
大場さん
大場さん
ティム
ティム
ちなみに、大場さんは「アトツギU34」の中部地方の定例会にいつも参加して、会を引っ張ってくれてますよね。どんなところに参加するメリットを感じていただいてますか?
振り返りやアウトプットの場としてすごくいいですよね。毎回、1カ月を振り返って話す時間があるじゃないですか。あの時間があることで、今月の自分を振り返って「俺、動けてないな」などと反省したり、客観視したりできるんです。それに、業界の異なるメンバー同士だからこそ、斬新なアイデアを思い付いてアドバイスし合えることも面白いなと思ってます。
大場さん
大場さん

 

ティム
ティム
ありがとうございます。ぜひ、今後も参加してください。それでは、最後にアトツギの後輩に向けてメッセージをいただけますか。過去の自分にメッセージを送るつもりで、話していただいても大丈夫です。

 

過去の自分に対してなら、「一度他の企業に入りなさい。外の飯を食う経験が必ず役立つはずだよ」と言うかもしれません。なぜなら、家業より1桁や2桁ビジネスの規模が大きい組織を知ることで、取引先やお客様の先にある仕事を俯瞰できたり、大きなビジネスを手掛けている人の思考に触れられたりすると思うからです。そういった経験をしておいてもよかったのかなと思います。
大場さん
大場さん

 

ティム
ティム
別の会社での仕事を経験して家業に入ることと、ストレートに家業に入ること。どちらがいいとは一概に言えませんが、ストレートに家業に入った大場さんならではのメッセージかもしれませんね。今日はありがとうございました。

 

 

 

令和2年度中小企業庁/プッシュ型事業承継支援高度化事業/「ロールモデルのクローズアップ」事業「継ギPedia」より転載

 

 

■取材した人

ティム/マスオ型アトツギ

コテコテの理系男子の元ITエンジニアから結婚を機に土建屋アトツギへ華麗なる転身。この選択は正解だったのか...俺たちの戦いはこれからだ!!!

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