批判にも離反にも負けず。 描いたビジョンを信じればいい。

福岡県 
ミナミホールディングス株式会社
代表取締役社長 江上 喜朗さん

福岡県大野城市を拠点とするミナミホールディングスは、1956年から南福岡自動車学校を運営していたが、「学習は楽しい」をモットーに面白く学べる学科教材を開発。そのノウハウを生かして、現在では自動車教習所コンサルティング事業を手掛け、カンボジアやウガンダでも自動車教習所を開校するなど幅広く事業を展開している。かつては20年連続売上減少と苦境に陥っていた同社をガラリと変えたのが、今回話を伺う三代目の江上喜朗社長。30歳で後を継ぎ、組織改革と業界の常識にとらわれない新サービスを両輪でまわしながら、V字回復を実現した。

出典:令和2年度中小企業庁/プッシュ型事業承継支援高度化事業/「ロールモデルのクローズアップ」事業「継ギPedia」(http://tsugipedia.com/)

 

 

 

「これはやばい」売上が20年右肩下がり、社員の目は死んでいる。

マッキー
マッキー

小さい頃から家業を継ぐことは意識してましたか?

ぼんやりと、「継ぐもんだ」って思ってましたね。そこに反発心は無くて、むしろ若い頃から大きなチャンスが貰えそうでラッキーだと捉えていました。

江上氏(かめライダー)
江上氏(かめライダー)
マッキー
マッキー

ポジティブに捉えていたんですね。

ただ、周りから「お前は努力しなくても恵まれていていいよな」って言われることには腹が立つしコンプレックスもあったから、勉強もサッカーも頑張った。「人と違うことをしてやる」って思いも当時からあったかな。

江上氏
江上氏

マッキー
マッキー

リクルートグループで働いた後、東京で会社経営もされていたようですが、どのような経緯で家業に?

東京で働いているとき、心筋梗塞で倒れちゃって。実家で療養しながら家業を手伝っているうちに、そのまま継ぐ流れになりました。

江上氏
江上氏
マッキー
マッキー

当時の家業への印象は?

「これはやばいな」と思いました。売上は20年ずっと右肩下がりで、これから上がる見込みも無い。それに社員がみんな、死んだ魚のような目をして働いてた。危機感は募っていくけれど、100人ほどの社員の意識を変えるにはものすごいパワーが必要で。「バリバリ働いて、会社を成長させよう」っていうのも僕一人の勝手な考えで、社員がそう思っていたわけではないから、のれんに腕押し状態でした。

江上氏
江上氏

 

 

批判してくる人の1億倍、会社のことを考えているという自信

マッキー
マッキー

自分の言葉が社員に響かない、のれんに腕押し状態では心が折れてしまうと思うんです。どうやってモチベーションを維持していたんですか?

何度も心は折れそうになりましたよ。でも、厳しく指導される自動車学校より、生徒さんが楽しく面白く学べる自動車学校の方が世の中から求められるだろうという、自分のビジョンには確信があった。「うんこドリル」や「もしドラ」が流行するなど、知識を身に付ける過程がエンタメ化されている流れもあったので、大きな流れに逆らわず進めば大丈夫だろうと。

江上氏
江上氏
マッキー
マッキー

そこから、楽しく学科教習を受けられるコンテンツ「DON!DON!ドライブ」などが生まれたんですね。新しいチャレンジをするにあたって、協力者はどうやって集めたんですか?

2011年の経営計画発表会で、社員の前でビジョンを発表したんです。「いいですね!やりましょう!」と言ってくれた人が2割くらい、あっけにとられてた人が6割くらい、「イチ教習所が何を言ってるんだ」と非難する人が2割くらいでした。ポジティブに捉えてくれた2割の社員を巻き込みながら進めていきました。

江上氏
江上氏
マッキー
マッキー

ビジョンに共感してくれた社員の方は、江上さんと同じような危機感を感じていた?

危機感も不満もあったんでしょうね。特に若い社員は、ネガティブな先輩社員を見て「仕事にやりがいを持てず不満を言うばかりの、あの人みたいになりたくない」って思ってたんじゃないかな。

江上氏
江上氏
マッキー
マッキー

なるほど。そういえば、イメージキャラクター「かめライダー」が生まれたのもこのときですよね。

会社を変革していくための強烈なメッセージを発するには、まず自分が変身しようと。社員が全員集まる事業計画発表会で、かめライダーになって「面白く楽しい教習所のアイコンとして、これからかめライダーになります!」と宣言したら、ドン引きする人と面白がる人とにキレイに分かれました(笑)。

江上氏
江上氏

マッキー
マッキー

面白がってくれる人がいてよかった(笑)!でも当初の2割だった賛同者が少しずつ増えていって今に至ると思うんですが、組織が変わったと実感できるまでにどれくらい時間がかかりました?

実感できたのは2015年の4月1日かな。その前の2年間くらいで僕の方針が合わないと感じた社員が50人ほど一気に辞めて。一方で、4月に僕の方針に共感してくれた新卒社員が15人ほど加わった。雰囲気がガラッと変わって、「社風=数」なんだなと思いました。

江上氏
江上氏
マッキー
マッキー

新卒社員が入社してからは、一気に事業がドライブしてきた実感がありましたか?

いや、2~3年間は毎日ドキドキでしたよ。まだまだ会社の悪口を言う社員もいたので、毎日、「新卒のみんな、頼むから明日も来てくれ……」と願いながら朝を迎えてました。

江上氏
江上氏
マッキー
マッキー

そうなんですね。江上さんはハートが強い印象なので、意外なエピソードでした。

「自動車学校に楽しさなんか必要ない」とか「この会社は終わる。この船に乗っててもダメだ」って、社員から面と向かって言われると、やっぱりきつかったですよ。親戚からも「会社を潰す気か」と言われたし。

江上氏
江上氏
マッキー
マッキー

それはきつい……。孤軍奮闘じゃないですか。

一番きつかったのは、一緒に頑張ってくれている社員のことまでも悪く言う社員がいたことですね。ストレスで眠れない日々が続きました。

江上氏
江上氏
マッキー
マッキー

それでも、「自分が信じるビジョンを実現するぞ」って思いは変わらなかったんですか?

批判してくる人の1億倍、会社のことを考えてましたから。今は苦しいけれど、長い目で見たら新しいことに挑戦する方が明るい未来があるだろうと思ってましたし。あとは、やっぱり仲間の存在。彼らが元気づけてくれたので、きついときにも希望の光はあったかな。

江上氏
江上氏
マッキー
マッキー

希望の光か・・・江上さんが発信する未来に共感してくれてる若い社員の存在が江上さんを支えてくれたんですね。

強烈なメッセージを発信して強烈なことをやり続けていたら、合わない人は辞めていって、共感する人だけが付いてきてくれた。結果的に、数年経つと組織が最適化しました。

江上氏
江上氏

 

 

 

目の前の課題解決を続けた結果、事業領域が広がった

マッキー
マッキー

現在はホールディングス化されて、他の教習所へのコンサルティングやコンテンツ提供などもされていますよね。もともと、横展開を見据えてコンテンツを開発したんですか?

いえ、出発点は目の前の問題解決のためです。「DON!DON!ドライブ」も、学科教習への満足度が低い原因の一つが「動画教材が面白くない」ことだったので、「面白くてたまらない動画教材を自分たちで作っちゃおう」と発想して生まれています。作る中で、他校にも展開できると気付きました。

江上氏
江上氏
マッキー
マッキー

そっか。自動車教習所って商圏が被らないから、他校にも展開できるのか。それだと一気に業界に広がっていますよね。

教習所の学科教習におけるプレイヤーが少数だったのも良かったと思います。テクノロジーやエンタメが入り込んでいないアナログな業界だったからこそ、一気に変化を起こせたんじゃないかな。

江上氏
江上氏

マッキー
マッキー

社員も今は150人以上いらっしゃいますが、一度大きく人数が減った状態からどうやって規模を大きくしてきたんですか?

先入観を持たず、周りのあらゆる人に声を掛けて採用しました。前職の先輩や外資系コンサルティングに勤めていた先輩、キャバクラのお姉ちゃん、合コンで出会った子、ホテルの支配人経験者など社員のバックグラウンドはさまざまですよ。

江上氏
江上氏
マッキー
マッキー

面白いですね!誘いたいと思った方たちの共通項は?

僕のビジョンに共感してくれることと、お金のためではなくやりがいを持って働いていることかな。あとは適性。事業計画や財務計画を考える上ではコンサル経験者が必要だったし、社内の空気を盛り上げてもらうには、人の心のドアを開くのがうまいキャバクラのお姉ちゃんや合コンの幹事担当がぴったりだった。

江上氏
江上氏
マッキー
マッキー

たしかに!江上さん流の採用観ですね。さまざまな事業を展開されていますが、社員の方の発案から事業化したものもあるんですか?

いくつかありますよ。たとえば、「YouTubeで自動車教習のことを伝えていきたい」と言う社員がいたので、YouTube事業を立ち上げました。「教習所YouTuberアルバカ」というチャンネル名で、登録数が今6万人くらいです。

江上氏
江上氏
マッキー
マッキー

事業化を認めるかどうかの基準は?

発案者がどれだけ過剰にコミットしているか。そこにつきます。「事業化を検討するためにこのポイントを考えてきて」と宿題を出すんですが、そこへのレスポンスの速さや質も見ます。「YouTube事業をやりたい」といった社員は、昼間は教習業務、夜に動画撮影に編集と睡眠時間を削ってコミットしてたので、ベットする価値があるなと思いました。

江上氏
江上氏

 

 

 

不安や恐怖心以上に、「業界を変えていく」挑戦欲求

マッキー
マッキー

江上さんにとって、最大のモチベーションって何ですか?

うーーーーん、なんだろう・・・「業界を変えていく」というビジョンへの、挑戦欲求や知的好奇心ですかね。

江上氏
江上氏

この会社がどの方向に向かえばいいのか、答えなんて誰もくれないからこそ、無数にある選択肢の中から、強烈な意志を持てるところに突っ込んでいくしかない気がしていて。

 

あとは、足元にボールが転がってきたら、自分の力で局面を変えたくなるんですよね、目の前の問題を解決して、そこに関わるみんながハッピーになるのが好き。

江上氏
江上氏
マッキー
マッキー

経営者って、いろんな恐怖心と隣り合わせだと思うんですが、江上さんにとって経営は恐怖心より好奇心が勝っているのかなと感じます。

もちろん怖さを感じることはあるけれど、安定や安心は求めてないから。刺激が少ない状態に耐えられない。強烈な、乗るか反るかのところに身を置いてないと、生きてる気がしない。「これ、しくじったら終わるぞ」って思う大きな提案の前になると、全身の毛穴が開くんで(笑)。

江上氏
江上氏
マッキー
マッキー

めっちゃドMじゃないですか!いや、自分にSなのかな(笑)。ギリギリの局面でアドレナリンが出まくるんですね(笑)。

 

 

 

不安や恐怖心以上に、「業界を変えていく」挑戦欲求

マッキー
マッキー

これからの、ミナミホールディングスのビジョンについても教えていただけますか?

まだ五合目くらいにしか達していない教習所業界の変革を、これからの数年で進めていきたいですね。DXやエンタメやコーチングなど、まだまだいろんな要素を取り入れて変えていける業界なので。その先のビジョンはまだ見つかっていません。

江上氏
江上氏
マッキー
マッキー

目の前の課題解決がより良い未来に繋がると信じて行動してる感じですか?

そうですね。僕はスタートアップ界隈の友人も多いんだけど、彼らって「この技術で世界を変える」とめちゃくちゃ大きなビジョンを持ってるじゃないですか。でも僕は「業界を変えたい」とは強烈に思うけど、それ以上の大きなビジョンは持てない。教習所のような規制が厳しいローカルサービスの業界で風穴を開けることができれば、自ずと社会が変わるきっかけを作れるんじゃないかなと。

江上氏
江上氏

マッキー
マッキー

江上さんと同じように、レガシーかつ規制の厳しい業界でもがいているアトツギがたくさんいます。彼らに向けて、メッセージをいただけますか。

最先端のテクノロジーやエンタメって、本当にいろんな可能性があるし、それらを生み出してくれる天才たちは世の中にたくさんいる。だから、アトツギは最先端のものを自社の事業や業界にどうやって接続するかを考えるべき。そう考えると、アイデアはいくらでも湧いてきますよ。

江上氏
江上氏
マッキー
マッキー

江上さんも、東京大学発のベンチャー企業と組んで、AIを活用した教習システムの開発を進められているんですよね?

そうそう。そのプロジェクトも「こういうことやってみたいんで、飲みませんか?」とFacebookで道場破り的にメッセージを送ったことから始まってるんですよ。もちろん事業コラボの先方のメリットは提示した上ですけど、結局は行動するかどうか。どんどん門戸を叩いていけばいいんですよ。

江上氏
江上氏

 


【福岡】

ミナミホールディングス株式会社  https://minami-hd.co.jp/

代表取締役社長 江上 喜朗 氏


 

■取材した人

マッキー

1995年生まれ。ベンチャー企業に勤務しながら、アトツギベンチャー取材やイベント運営を担当。

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