敏腕マスオアトツギが描く 会社と自動車産業の未来

旭鉄工株式会社
代表取締役社長 木村 哲也さん

木村哲也氏はトヨタ自動車に21年勤務後、結婚相手の家業であり、同社の1次仕入先でもある旭鉄工株式会社に婿養子として転籍した。いわゆる“マスオ型”のアトツギだ。

トヨタ自動車に在籍中の最後の3年間は技術部から生産調査部へ異動となり、“カイゼン”を学ぶ。

転籍後は家業の製造現場を改善すべく、IoT技術を用いたモニタリングシステムを開発・運用し、年3億円以上の労務費節減に成功。このシステムの運用と製造現場の改善ができるメンバーによるコンサルティングを他社にも展開しようと、i Smart Technologies株式会社を立ち上げた。現在、木村氏は2社の代表を務めるが、これで終わるつもりはなく、「業界の未来への貢献」までを視野に入れている。

歯に衣着せぬ痛快な物言いと、圧倒的な行動力が魅力の木村氏。どんな壁が立ちはだかろうとも、それが最短かつ正しいゴールへの道なら乗り越えてゆく。その源泉となる強い気持ちはどこから来るのか。

出典:令和2年度中小企業庁/プッシュ型事業承継支援高度化事業/「ロールモデルのクローズアップ」事業「継ギPedia」(http://tsugipedia.com/)

 

 

 

「3年間メモだけしてろ。何も変えるな」

マッキー
マッキー
まずは家業に入られた経緯をお願いします。

1992年にトヨタ自動車に入社して、94年に結婚してるんですけど、結婚したのが今の会長の娘だったんで、当初から「将来は後継いでくれ」と、そういう話はあったんですね。でも、トヨタの仕事が楽しくて、やりたいこと全部やらせてもらえてたから、知らんふりしてたんです。まあ、でもお婿さんになった限り、知らんふりも続けられないので、しょうがないから継いだって感じですね。
木村氏
木村氏
マッキー
マッキー
旭鉄工に入られて、初めに手を付けたことって何ですか。
2013年の4月に入って、10月に「ものづくり改革室」っていう僕の直轄の組織をつくったんです。協力してくれそうな人たちを集めて、まずは製造現場の改善しようよと。
木村氏
木村氏
マッキー
マッキー
アトツギがそういう新しいことを始める時って、だいたい先代と揉めるって聞きますけど、木村さんの場合はどうでしたか?
当然ありますね。私は先代に「3年間メモだけしてろ。何も変えるな」って言われてたんで(笑)。でも、製造現場見たらムダがいっぱいあるわけですよ。それを直したらいけないって言われたら、自分は何のためにいるんだってことでしょ。先代の言うことは無視してやりましたね(笑)。
木村氏
木村氏
マッキー
マッキー
木村さんははっきりおっしゃるから聞いてて痛快なんですけど、こういうのが記事になって、お父さんが見て親子関係悪くなるってことはありません? 
すでに親子関係悪いんで大丈夫です(笑)。僕の方が強いですし。
木村氏
木村氏

 

 

 

「木村家のためじゃなくて旭鉄工のために働こう」

マッキー
マッキー
すごい!その「強い」って言い切れる根拠っていうのは……? 

実力レベルの違いが明らかだし、向こうが僕を怒らせたんですよ。親戚のおばさんが亡くなった時、その方が持ってた会社の株が三億円強になってたんですけど、父は僕に「借金して買え、給料は増やさない」と言うんですよ。トヨタ時代とそんなに変わらない給料しかもらってないのに、ですよ。三億円も払えるわけがない。

 

僕は好きな仕事も辞めてここに人生捧げてて、凄く成果も上げてるのに、なんでそんなことしないといけないんだ!って思って、会社辞めようとしたけど、総務部長に「従業員が困るから」って止められて。じゃあ、木村家のためじゃなくて旭鉄工のために働こう、その代わり自分の思うようにやる、と決めました。

木村氏
木村氏

マッキー
マッキー
でも、無視するって、なかなかできないですよ。木村さんは、それができるのがすごいんですよね……。 
そうしないと会社が変えられないので。変えないほうが困ることが多いんですよ。
木村氏
木村氏
マッキー
マッキー
いや、もうその通りです!でも、それって木村さんだからできるのかも。僕みたいな一般ピープルはやりたくてもできない・・・(笑)。 

 

 

 

「変えない」ことを選択していないか

トータルで考えるだけの話だと思うんですね。例えば「嫌われるのが嫌だからやらない」を選択した瞬間に、それに伴って困ることがいっぱいあるわけじゃないですか。よく何かやろうとした時に「うちはこういう人がいるからできない」って言われるんですけど、それは「変えないことを選択してる」ってことなんですよ。みんなその意識がないんですよね。どう考えてもそっちを取るとトータルで絶対損だよな、と思っちゃう。
木村氏
木村氏
マッキー
マッキー
なるほど、トータルか~。「トータルで考える」ってことがキーですね。 
うん、「全体の幸福を考える」って言い方でもいいけど。一部の人が気に入らないことがあるのは当然で、あなたはそこを重視するんですか、と。みんな「変えない」という判断を軽視しすぎているんじゃないかって思うんですよね。
木村氏
木村氏

マッキー
マッキー
木村さんって、子供の頃からそんな感じなんですか? 
いや、僕は3月生まれで、体も小さくて、病弱で。近所の子どもと遊ぶ時、ボスについて回るだけで何も言わない子だった。
木村氏
木村氏
マッキー
マッキー
えーっ!急に親近感!(笑)。いつから今みたいな強さを持てるようになったんですか?ターニングポイントは? 
それがわからないんですよね。負けず嫌いだとかそういうのはあるんですけど。高校くらいまではおとなしかったと思う。ただ、人と違うことやりたいなと言うのは昔からあって、その理由で、大学では射撃やってるからね。
木村氏
木村氏

 

 

 

この延長では未来を描けない。大変なのはこれからだ!

これ、あんまり言ってないんですけど、会社で嫌がらせありましたよ。靴箱の中にドリル入ってました。
木村氏
木村氏
マッキー
マッキー
えーっ!すごいな、ドリルって……。嫌がらせですよね、ふつうドリルを靴箱には置き忘れないですもんね(笑)。
ですね(笑)。でも、それ見て僕、ニヤッとしたんですよ。こんなことしかできないんだなと思って。反論できないんだな、そのレベルなんだな、と。
木村氏
木村氏

マッキー
マッキー
笑えるのがすごい(笑)。僕なら震えちゃいます。
社内の反発なんてあまり大変だと思ってないんですよね。本当に大変なのはこれからですよ。
木村氏
木村氏
マッキー
マッキー
これから?

そう。僕は経営者の仕事って2つあると思ってて、1つは「日常のオペレーションをまわすこと」。もう1つが「未来を考えること」。そっちをやってない経営者ってすごく多いって思ってる。

 

僕は今まで会社の中でいろんなことにチャレンジする風土を作りつつ、改善活動が進むようなメンバーを育ててきた。改善の効果も上がってるし、みんな自立的に会社の方針に従ってやってくれるようになりました。それはできたんですよ。

木村氏
木村氏

だけど10年後、この延長で未来が描けているかといえば描けていなくて、それが一番困ってることなんですね。このまま行くと業界自体に明るい未来はないと思ってる。それが大変だと思ってる。
木村氏
木村氏
マッキー
マッキー
それは、自動車市場が激変していて、1社の努力ではどうにもならないということですか?
これから日本の人口は減るし、自動車の生産台数も減るに決まっていて、減るってことは競争が激化するってことですよね。部品を造るだけならいくらでも会社があるわけですよ。本当にうちじゃなきゃできないことってなくて。極端な話、原価を無視してディスカウントされたら負けちゃうわけですよ。共食いしちゃう。そういう時代が来るに決まっているので、そうならないようにしたいけど、そうならない未来が描けない。それが大変で、日常のトラブルは大変だと思わない。
木村氏
木村氏
マッキー
マッキー
その自動車市場というところから、たとえ地続きでも出ていくとか、関連ビジネスを展開しようとか考えてますか?
それこそが今やっているi Smart Technologiesで、IoTのモニタリングサービスは自動車産業に限らないところでもできるし、製造現場の改善ができるメンバーはそのノウハウを他社で活かすコンサルもできる。これは他社には簡単にまねできないし、既存のコンサル会社にも現場改善のコンサルなら負けない。
木村氏
木村氏

マッキー
マッキー
具体的なビジョンというのは見えてるんですか?
僕は、IoTのモニタリングサービスを究めて行くと、旭鉄工は巨大な実験場になるはずだと思ってて、そういうふうに人員をシフトしたいんです。外に出て稼げるメンバーが今は10人くらいなので、例えば100人くらいにしたい。最近コンサルをWEB化してて、オンラインでやるんですよね。そういうコンサル会社もあまりないし、100人規模にできるなら、本業が落ち込んでもそっちでメシ食って生きていけるだろうって思ってます。
木村氏
木村氏

 

 

 

自ら実践!社内文化の醸成への工夫と努力

マッキー
マッキー
旭鉄工とi Smart Technologiesと2つあって、会社への愛というのはどういうふうに配分してるんですか?社員にしたら「社長はあっちばっかりやってー」とかないですか(笑)。
あると思いますよ。それはいろんな工夫をしていて、例えばスラックでも、社員の書き込みに対して僕はスタンプ押して、ちょっとコメントも付ける。僕がやったことって、これだけのことなんですけど、社員にしたらやりがいはあるわけですよ。あとは、改善活動が終わると卒業式っていうのが行われて、そうすると私が呼ばれて現場に行って見る。最後に写真撮って、社内のスラックに上げるんで、あいつ卒業したんだな、ってわかる。こういった工夫というか努力をいっぱいやっています。
木村氏
木村氏

マッキー
マッキー
みんなに参加させるように運用しているのはいいですね。でもこういう社内ツールって導入してる会社っていっぱいありますけど、発信してるのが総務と社長だけ、みたいなとこも多いと思うんですけど、どうやって社内に根付かせてるんですか?
何でもいいから書こうってはっきり言う。書けなかったらスタンプ押すだけでもいいと。使ってもらってナンボってのがあるので、そのためにどうすればいいか考えて、実行するだけですよね。スタンプ押すくらい難しくもなくて、やるかやらないかだけなんで。細かいけど、社長がやってることが見えるのも大事。
木村氏
木村氏

マッキー
マッキー
「自ら実践する」ということを意識してやってるんですね。
そうですね。フェイスシールドの開発した時もべったり関わってましたし。プログラミングのコンテストが世の中にあって、i Smart Technologiesの技術メンバーが参加してるんですけど、僕もやってますからね。高度なアルゴリズムが必要なコード書くとか、若い従業員と同じレベルではできないけど、「社長がプログラミング勉強して問題解いてるぞ」って見せる。その姿勢が大事だと思ってます。
木村氏
木村氏

 

 

 

自動車産業の未来に向けて、サプライヤーの再編成に取り組む

マッキー
マッキー
旭鉄工を次の代に承継することについては考えてますか?

息子に継がせるつもりはないです。これからの時代、旭鉄工単独で生き抜くのは無理なんで、いずれはどこかと合併したりとかの根本的な対応が必要だと思います。

木村氏
木村氏
マッキー
マッキー
そうなんですね!旭鉄工の未来を他に託して、残したいってことですか?

旭鉄工っていうか、従業員の雇用を守るためですね。たぶん旭鉄工だけじゃなくて同じようなレベル、規模感の自動車業界にいる仕入れ先って同様に苦しいと思っていて……。

 

このまま今みたいに会社が乱立した状態だと、国内の自動車生産台数が減った時に値段のたたき合いが始まるんですよね。これが始まると大手メーカーでも立ち行かないところが複数出てきて、部品産業が立ち行かないと日本自体が大変なことになる。

木村氏
木村氏

どこかが仕切って過度な競争は避けつつ生産性向上をやらないと、実力がついてこない値引きが始まったら大変なので。だから複数の会社集めて1つに統合して部品軸や工法軸とかで事業を再編し、徹底的に生産性上げていくっていう、サプライヤーの再編成が必要なはずなんですよ。
木村氏
木村氏
マッキー
マッキー
会社の枠というより、産業全体で未来をとらえているんだ。木村さんは旭鉄工を誰かに任せて、そっちの事業をやりたい感じですか?
ですね。やりがいがあるし、社会的意義も高いですよね。サプライヤーの統合みたいなのをやると、うちの財産のIoT技術とかコンサル技術がより幅広く早く活かせるし、人材育成もベースのマスがでかくなればやりやすくなるはずなんで。実際にこの構想に賛同してくれる人は結構いるし、お金を集めてくれそうなファンドもあるんです。
木村氏
木村氏
マッキー
マッキー
他にも野心というか、やりたいことってありますか?
もう1つはプロ経営者として他の会社の経営をしたい。違う業種の社長やらないかっていう話も実際に来てるんですけど、まだどうなるかわからないですね。一昨年までだったら断ってましたけど、昨年リモートでやってみて結構できるな、と。製造現場は難しくても経営はツールを駆使すればリモートでかなりできるはず。
木村氏
木村氏
マッキー
マッキー
めっちゃ面白かったです。ネタてんこ盛りです(笑)。最後に、アトツギとして成功されている木村さんから、若いアトツギへのエールをお願いできますか。
アトツギの良さは、単独でベンチャー企業を起こすのに比べてリソースの確保が格段にラクということです。引き継ぐことに対して「既存事業に縛られる」っていうネガティブなイメージを持つ方もいると思いますが、「自分のやりたいことをやるためにうまく利用する」と考えてみてはどうでしょうか。
木村氏
木村氏

 


【愛知】

i Smart Technologies株式会社 代表取締役社長 CEO

https://www.istc.co.jp/

旭鉄工株式会社 代表取締役社長

http://www.asahi-tekko.co.jp/

木村哲也 氏


 

■取材した人

マッキー

大学卒業後、某ベンチャー企業にエンジニアとして就職。実家は福岡の物流企業。家業に戻るまでに、アトツギベンチャー経営者の体験をシャワーのように浴びようと、副業で「アトツギU34」に参画。全国各地のイベント運営やアトツギベンチャー経営者の取材などに携わる。

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