【オンラインサロンピッチ2021夏優勝】今の手持ちのリソースで勝負、それがアトツギ流『最初の一歩』
大阪府和泉市の紙袋製造アトツギ。大手パッケージメーカーの下請企業として幅広く紙袋を製造。
「会社潰せるくらいの失敗をしないと失敗とは言えない」。そんな思いで家業で挑戦を続ける谷さん。
アトツギU34にて開催された『オンラインサロンピッチ夏』で、子供の絵で世界でひとつだけの紙袋をつくる「さちぶくろ」で優勝。
限られた資源の中で、いかに家業で生き残っていくか。谷さんに、現在に至るまでの道のりと今見据えている未来について話を聞いた。
危機感は新規事業への踏み台となる
家業に戻ることになったきっかけから簡単に聞かせてください。
家業は紙を製造している「谷紙業」という会社なんですけど僕自身は「三幸紙創」という看板で個人事業主としてやっています。
じゃあ、「お前は跡継ぎや」みたいなことはあんまり言われてこなかったんですか。
「何をやれ」と言われたことは一切なかったです。今も「お前を社長にする気はない」って言われているし。ずっと谷紙業で働いている弟が次期社長です。でも、個人事業主の申請を出す前に、「僕が谷紙業に入るんやったらアカンの?」って聞いたことはあるんです。そのとき父親から言われたのは「会社に頭は2人いらん」。たぶん、僕の性格も知った上で、個人事業主として好きにやった方がいいって思ったんでしょうね。
谷紙業さんのリソースとかノウハウみたいなところは使えるんですか。
そのへんはお互いの間に壁があるわけじゃないので、新規事業である『さちぶくろ』でもリソースやノウハウは上手に使わせてもらってます。ただし、お金は出てこないんで自分で都合をつける必要があります(泣)今はコロナ禍で谷紙業も三幸紙創も売上が減少してます。業界自体も斜陽産業です。これから先どうやって生き残っていくかは本当に課題です。新規事業はやらないといけないし、やらざるを得ないと思っています。
それは一番大事ですよ。アトツギとスタートアップの違いって、危機感なんですよね。
ピッチでいろんな人を見ていても、危機感がスタートにある人と、単純にスタートアップのアトツギ版みたいな人の2種類いるなって思います。ゼロからビジネスをひねり出している人とそうじゃない人の違いを感じています。
「何もなくてもとにかく何か始めないと」っていう人は、今あるリソースを使うしかないんです。
「今の手札でどうやって次の試合、勝てんねん」みたいな感じですよね。アトツギベンチャーの難しさはそこだと思います。新規事業はとにかく一歩目が難しい。谷さんの場合、最初の一歩は何だったんですか。
畑違いなことをしてるわけじゃないので、僕としてはまだ一歩目は踏み出していない感じなんですよね。さちぶくろはアトツギベンチャーの新規事業養成講座のワーク中に考え付いたアイディアが始まりで、「紙」とか「袋」のキーワードで、今までにない商品や売り方を連想していった感じです。何かを世に問うことができて、そこからがやっと一歩目なんです。僕が今やっていることはまだ紙袋を作っているだけですから。
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ところで、養成講座に出られたきっかけはなんだったんですか。
たまたまフェイスブックに出ていた広告が目についたんです。たぶんその頃、政策金融公庫の新創業融資制度を利用するためのビジネスプランを考えながらいろんな情報を見ている中で、「やっぱりうちは先細ってんな、どうにかせなアカンなあ」っていうのが無意識にあったんだと思います。
「今やろうとしていることに少しでもプラス材料になれば」ぐらいの気持ちだったんですね。
僕は個人事業主だから、どうにか売り上げを作らないと自分の給料がなくなるので危機感はありました(笑)。
ホンマに生きるか死ぬかぐらいの感じですよね。でも、やらないと死ぬっていう危機感と、どうするかを自分で選べる自由が一緒になっている今の状況は、谷さんの性格にすごく合っているんでしょうね。
最後に一つ伺います。チャレンジするとき、「失敗できない」、「必ず成功しないといけない」っていう気持ちがすごく強くなると思うんです。特にアトツギは、家業の状況や世間体もかなり意識するマインドの状態で、どうやってチャレンジに踏み出すべきだと思いますか。
そんな偉そうに言える立場じゃないんですけど(笑)。でも、やっていることはホンマに「スモールスタート」です。自分のできることや持っているリソースからめちゃめちゃ外れたことはしません。観点を変えるだけです。うちは今まで企業のロゴが入った紙袋しかやったことがなかったんですが、個人の絵の入った紙袋という視点へシフトしました。いろんな観点を持つというのは特に意識しています。あと、頭はどんどん凝り固まっていくから、もみほぐすためにもいろんな人に話を聞くことは大事です。オンラインサロンとかに参加すると、僕が「これいけるで!」って思っても、「それってニーズはあるんですか」って言われて、ガラガラ崩れるし。
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製品を知らない人の感覚のほうが購入者に近いので、正しい指摘かもしれないですね。
それから、「僕はいろんな失敗をしてきてる」って思っていたんですけど、それは失敗とは言わないそうです。僕が今の事業で失敗したとしても、会社が潰れるようなインパクトはありませんから。
そういう考え方は大事かもしれないですね。もっと大きな視点で見る。会社潰せるくらいの失敗をしないと失敗とは言えない…って、こんなことを言って怒られないといいですけど(笑)。谷さんも「まだまだここから」という段階なんですね。
データさえあれば何でも紙に印刷できるので、もっと可能性を広げたいと思っています。でも、何しろ一人でやっていますから、お金もリソースも自分でできる範囲でやっていくしかありません。今は子どもの絵を形にする紙袋さちぶくろと手土産専用の紙袋を考えています。例えば大事な取引先を回るときに、手土産のお菓子を入れている袋がお菓子屋さんの宣伝みたいになっちゃいます。そこで、自社のロゴの袋で渡せたら相手にもインパクトが残るかなと考えています。これからもオンラインサロンに積極的に参加して、志が高いアトツギ達と切磋琢磨しながら、様々な考え方や意見を取り入れて、大きくアイディアを膨らませ、商品開発し、開発した商品の価値や意義を社会に問いていきたいと考えてます。
https://www.sanko-sisou.com/
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■取材した人
ピエール
某大手銀行に就職。その経験を活かし、アトツギベンチャーと金融機関の、次世代のあり方を世に問うべく、メディアに取り上げられるような案件をアトツギと実現することが目標。