起業学修士から一般社団法人ベンチャー型事業承継へ!同じアトツギとして、悩むアトツギのマインドを前向きに変えたい
一般社団法人ベンチャー型事業承継
事務局長
大上 博行さん
1986年大阪生まれ。 早稲田大学卒業後、秘境系旅行会社にてチベットやパキスタンを担当し、企画や添乗に従事。尖ったサービスで大手が真似できないニッチトップの事業展開を学ぶ。その後、家業である和紙の卸問屋の株式会社オオウエに入社。新規事業開発に取り組み、郵便局2000局への導入や、TBSの「マツコの知らない世界」などに取り上げられる和紙ブランドを作る。新事業創造の実務だけでなく理論も学ぶため、豪クイーンズランド大学院に留学し起業学の修士を取得後、現職。自身のアトツギとしての経験とアカデミックでの知見を活かして、後継者の事業開発に寄り添う活動を行っている。
家業半ばで一念発起、新規事業を専門的に学ぶべく海外大学院に
ピエール
まずは現在の業務内容についてお聞かせください。ゴードンのことは社団のナンバー2というか、リーダーだと思っているんですけれど(笑)。
(笑)。ピエールもトニーも、新しく入ってくれたマーティも、みんなそれぞれの領域のマネージャーで心強く思っているし、誰が上下かという意識はありません。強いて言うなら、全体一般を見るのが自分の役割かと考えています。
ゴードン
ピエール
ゴードンもアトツギだったんですよね。こちらに来られるまでの経歴について教えてください。
まず新卒で旅行会社に入社しました。家業のことはまったく意識していなかったです。中学ぐらいから、決められたレールを進むことをすごくつまらなく思っていて、大学進学を機に、家業は弟にお願いするということで東京に出たんです。でも大阪勤務となり、自分を育ててくれた環境。家業の近くに戻ってきたことで、「家のために長男の自分ができることがあるんじゃないか」と改めて思うようになりました。戻ったのは2011年で、2019年まで8年間いました。家業に戻って最初の3、4年ぐらいは、父や先代がやってきたことをしっかりやろうと思っていたんです。でもなかなか成果は出せず、家業のやり方に疑問を感じたこともあり、4年目ぐらいから自分が好きなデザインで作ってみたり、成果が見えやすい小売りブランドを立ち上げたりしました。今思えばベンチャー型事業承継みたいなことをやっていましたね。最後は先代の方針への疑問やプライベートのことなど、複合的な要素が重なって、もともと行きたいと思っていた留学を決意するに至りました。他社で働いていた弟が家業に戻ることを決めたということもありました。
ゴードン
ピエール
留学先ではどのようなことを学んでいたんですか。
それまで勘でやっていた新規事業についてもうちょっと体系的に学びたいと、新規事業を専門的に学べる大学院に進学しました。実際に地元の企業やスタートアップとコラボレーションして、既存企業の中での新規事業立ち上げプロジェクトなんてこともしていました。ただ、大学院で体系的に学べて勉強になったこともあったけれども、実践に関しては家業で奮闘していたときの経験のほうが自分の血肉になって今も生かされている気はしますね。
ゴードン
同じ立場のアトツギに、ファミリービジネスのおもしろさを知ってほしい
ピエール
社団に入られたのはどういうきっかけだったんでしょうか。
留学当初、帰国後は弟と二人で家業を盛り立てていこうと話していたんです。でも、社長は誰がなるのか、自分の留学中の弟の立ち位置はどうなるのか、などいろいろ思うことがあって、最終的に家業には戻らないことを決めました。そこから、自分は何をやって生きていくのかをすごく考えました。家業にいたときは新規事業の自立性(など自己決定できる)みたいな部分にとてもやりがいを感じていたので、事業を完全に任せてもらえるまで時間のかかりそうな大手企業はやめようと思いました。そして、家業というバックグラウンドが生かせる方向を考えました。家業というベースがあるって、アドバンテージだと思います。大学院では周りからそういうふうに見られましたし。
その中で、「同じようにファミリービジネスを持っているのにそれを『おもしろくない』と思いながら働いているアトツギがいるなら、彼らに、自分ごととして事業を組み立てることがおもしろくなっていく経験をしてほしい」と思いました。そんな思いで探していたら、ベンチャー型事業承継のホームページに行き着きました。親目線での事業継承ではなく「アトツギが自分らしさを発揮するビジネスをする」ということを売りにしていたのを見て、「ここはすごくいいところだ」と直感、即応募です。
その中で、「同じようにファミリービジネスを持っているのにそれを『おもしろくない』と思いながら働いているアトツギがいるなら、彼らに、自分ごととして事業を組み立てることがおもしろくなっていく経験をしてほしい」と思いました。そんな思いで探していたら、ベンチャー型事業承継のホームページに行き着きました。親目線での事業継承ではなく「アトツギが自分らしさを発揮するビジネスをする」ということを売りにしていたのを見て、「ここはすごくいいところだ」と直感、即応募です。
ゴードン
ピエール
なるほど。入ってから1年半の中で一番印象に残っていることはなんですか。
昨年2021年の5月と11月に、自分が担当して開催したAVS(アトツギベンチャーサミット)です。ツイッターなどを見ていると、「すごく励みになった」、「自分は家業でもっとできると思った」などのコメントが寄せられていたし、アトツギU34のサロンに入ってくれたアトツギもいました。彼らに対して気づきや行動の活力を提供できたという意味で、とてもやりがいのあるイベントでした。
ゴードン
ピエール
僕も一緒にいましたが、すごくインパクトの大きいイベントだったと思っています。メインで携わったゴードンにとってはなおさらですね。
「家業のために何かやったる」という使命感がある時点で、アトツギとして才能がある
ピエール
今後はどのようなことをやっていきたいと思っていますか。
今年は社団の「アトツギエコシステム元年」ということで、これまでは触れてこなかった、例えば事業化をするときの困りごとのサポートなど、新しい分野に挑戦していきたいです。中長期スパンでは、「後継者が自発的になればビジネスがうまくいく」ということを学問的な裏付けなどとともに、もう少し客観的に伝えていきたいです。家業がつまらないと思っているアトツギが経営者意識を持って自発的に家業に取り組めるよう、マインドを変える。これは、われわれの活動で一番重要なコアの部分だと思っています。
ゴードン
ピエール
そのような目標に向かっていくにあたって、「こんな人たちと仕事がしたい」というイメージはありますか。
困っているアトツギに「すごく話しやすい」と思ってもらえる人でしょうか。それと、何かに秀でた人。アトツギが輝く未来を信じてくれていて、その上に何か得意なことがある人です。マーケティングがすごく得意とか、金融のことが分かっているとか、人当たりがめちゃくちゃいいみたいなことでも、なんでもいいんです。一人が全部の相談事を解決するなんてできませんから、何か強みを持った人と一緒にやっていきたいと思っています。
ゴードン
ピエール
「大歓迎」って記事には書いておきますね。では最後に、アトツギに向けてのメッセージをお願いします。
アトツギって、経済的な目的で戻ってくる人もいれば、使命感や、「自分なら育ててくれた環境に対して恩返しができる」みたいな根拠のない自信を持って戻ってくる人もいます。でも、そういう自分の内側から出てきているモチベーションは、金銭などの外からの動機付けと違って、長期にわたって持続しやすいんです。そういう意味で、家業に愛着があって入ってくる人はすべからく才能がある人だと思います。何かしてやろうと戻ってきた時点で、すごく進んでいるんですよ。
先代からの圧力や、出る杭を叩く業界文化が皆さんのモチベーションをへし折ってくるかもしれません。でも、そういうものを一人で壊さないといけないと思わないで、「仲間がいる」、そんなふうに思っていただきたいです。自分のモチベーションを大事にして、分からないところや困りごとは、この社団も含めて、周りになんでも相談してください。一緒にいい会社を作っていきましょう。アトツギは動いているキャッシュがある状態からチャレンジできるのだから、あとは「自分が会社を作っていくんだ」という意欲さえ持てれば、日本のビジネスの力強い根幹となると思っています。
先代からの圧力や、出る杭を叩く業界文化が皆さんのモチベーションをへし折ってくるかもしれません。でも、そういうものを一人で壊さないといけないと思わないで、「仲間がいる」、そんなふうに思っていただきたいです。自分のモチベーションを大事にして、分からないところや困りごとは、この社団も含めて、周りになんでも相談してください。一緒にいい会社を作っていきましょう。アトツギは動いているキャッシュがある状態からチャレンジできるのだから、あとは「自分が会社を作っていくんだ」という意欲さえ持てれば、日本のビジネスの力強い根幹となると思っています。
ゴードン
■取材した人
ピエール
某大手銀行に就職。その経験を活かし、アトツギベンチャーと金融機関の、次世代のあり方を世に問うべく、メディアに取り上げられるような案件をアトツギと実現することが目標。