「地方だからできない」をなくす!「酒販業」×「IT」で生み出す新たなサービス
有限会社 藤田酒店
店主 藤田圭一郎氏
岡山駅周辺の半径約1kmの商圏で、主に居酒屋へ酒を運ぶ業務用酒販店。どこにでもありそうな酒屋が、「酒販業」×「IT」で顧客ターゲットを広げ、売上を伸ばし始めた。2015年にはオリジナルラベルのワインギフト作成サービス「スナップワイン」なども展開。さらに、岡山にスタートアップ起業家を生み出す活動を始め、2020年には地方の学生を長期インターンで企業とマッチングするサイト「COMPUS」を立ち上げた。また、コロナ禍においてはフードデリバリー「Fujita Eats」も超スピード開発・運用している。
これらの立役者が藤田酒店の二代目アトツギ、藤田圭一郎氏だ。「東京で起業したい」という夢もあったが、家業を継ぐことでそれをあきらめたからこそ、「地方にいるからチャレンジできないということをなくしたい」と、地方の学生、地方の起業家たちの力になれるような事業に尽力している。得意の「ローカル」×「コンテンツ」で今後も何をしてくれるのか、期待で目が離せない。
出典:令和2年度中小企業庁/プッシュ型事業承継支援高度化事業/「ロールモデルのクローズアップ」事業「継ギPedia」(http://tsugipedia.com/)
上手い採用ブランディングに乗せられて、電力会社へ就職
その会社を選んだ理由っていうのは?
採用ブランディングがめちゃくちゃ上手い会社だったんですよ。採用にお金かけて、カッコいい動画が流れる。社名もお堅い電気系だったけど、それだといい人が集まらないから別名で募集していて、僕はまんまと……。
引っかかったわけですね(笑)。
10人採用するのに数千万かけて、僕が辞める2年後の時点で8割辞めてましたけどね……(笑)。
僕も入ってからのミスマッチを解消できなかったから辞めましたけど、「別の入口作って採用すればいい人材は集まる」というのは、まさに今、藤田酒店でやっていることだし、ミスマッチを解消するのが大事ってこともそこで学びました。
じゃあ、起業したいと思っていたけど2年は関西の電力系の会社で営業されて、その後、IT会社へ?
IT会社でプログラミングを学んだ訳ではなく独学です。会社にいた頃はスノーボードにハマってて、スノボやるのにお金と休みが必要だったから続けてましたけど、骨折したのをきっかけに仕事を辞めようと。これまでスノーボードやってきた情熱を起業に向けて、起業するならプログラミングとかWEBデザインが必要だろうと思って勉強してきた感じです。
それだけ準備してたのに、起業する前に実家へ戻ったきっかけは?
起業するタネを探していたけどないし、貯金も減っていくし、生きていく金は必要だし、いったんどこかに就職しようかなと考えた時に「家業あるな」と。家業やりながらビジネスのタネを模索するのもいいかなと思って戻りました。
酒屋が人材を紹介?!ナイトへ商圏を広げる
戻られてから最初に取り組まれたのは?
家業のターゲットを居酒屋からナイトタイム飲食店に広げました。同じ商圏で居酒屋の顧客をこれ以上とるのは難しかったんで。
それはしがらみとか?
そう、しがらみがあって……。酒屋は僕の親父と叔父さんでやっているんですけど、二人とも若い頃、めちゃくちゃ札付きのワルだったんですよ(笑)。
その昔の仲間の人脈だけで販路を広げて来た感じだった。
営業ノウハウなんかないし、僕はワルじゃなかったですし(笑)、地元離れて関西にいたからつながりもないし、居酒屋で新規開拓は難しかったんです。
それで、ゼロから新たな営業手法を確立した?
営業に行っても「うちはどこどこの酒屋で買ってるから」って言われるし、値段やサービスの質は横並びで、“人のつながり”には勝てない。それで思いついたのが、ホットペッパーみたいなのを作って集客のところで力になれれば喜んでもらえるんじゃないかと。ITが得意だから、そこで付加価値つけて酒も売ろうとしたんです。でも、本物のホットペッパーには勝てない、酒屋同士の業界特有のしがらみがあって、見積もり出しただけで怒鳴られたりして……。もうやってられないな、全然違う売り先見つけたいなと思って、見つけたのがナイトだった。
ナイトも新たに取引するのは簡単じゃないと思うんですけど……。
ナイトにはホットペッパーみたいなのがないから、ここなら勝てると思ってサイトをつくろうとしたんですけど、よくよく聞いてみたら求人のほうが需要があって、「バイトの女の子紹介して」って言われるんです。それで求人サイト作ったら評判良くて、ママからママへつないでくれました。「あそこでお酒買ったら人材を派遣してくれる」みたいな(笑)。いや、ほんとに電話かかってくるくらい広まったんですよ。「面白いことやってる酒屋がある」って。飛び込み営業なら門前払いですけど、「求人掲載します」だったらVIPルームに通されてお茶まで出てくるんです。それで最後に「酒屋です」って言うと買ってくれる。これで販路が広がりましたね。売上も当初の10倍、20倍になりました。
超スピード開発!フードデリバリー「Fujita Eats」
2015年に会社として「コンテンツクルー」を立ち上げてますが、その背景は?
ナイトの求人掲載を無料でやってたんですけど、ある日ママから「お金払ってもいいからもっと女の子に来て欲しい」と言われて、有料プランを提案したらどんどん売れたんで、そこからコンテンツクルーを立ち上げました。
あえて藤田酒店と名前を分けたのは?
事業もそうですけど、求人は窓口を分けてた方がいいんで。「藤田酒店」の求人じゃ行きたくないでしょ?(笑)。
あと、フードデリバリーの「Fujita Eats(フジタイーツ)」の開発秘話をお聞きしたいです。
時系列的には「Fujita Eats」より先に、利益率の高い商売やりたいということで、B to Cとしてスマホでオリジナルラベルのワインボトルを作れるっていうのを始めたんです。ラベルは藤田酒店でオカンが真心込めて貼ってます(笑)。オカンのやりがいにもなってますし、順調に伸びてますね。これが5年前で、その開発はコンテンツクルーの学生インターンがやってくれています。
その流れで「Fujita Eats」の話になるんですけど、居酒屋さんとかスナックがコロナ禍でかなり打撃を受けまして、うちも売上が下がってヤバイなという時に、居酒屋さんから「土地勘あるし、配達もできるだろうからデリバリー代行して」って頼まれて、それでUber Eatsみたいにやろうかと。
これまでのノウハウが活きたんじゃないですか?
活きましたね。人も余っている状態だったし、自転車もあるし、土地勘もある。開発の投資もしてないんですよ。インターン生が飲食店とかホテルの売上下がっているところのために何かできないかと投げ銭のサービス作ってたんで、それを改良して飲食店のデリバリーに特化して、システムをうまく使いまわしたんです。思いついてから2~3週間でスピード開発。
QRコードつけたチラシ用意して、飲食店さんがそれを読み込んでLINE連携するだけで簡単にアカウントを開設できるようにしました。そのチラシをばらまきまくったら当たり前ですが、契約をしていないお店が勝手にどんどんアカウントを開設しはじめて……。(笑)中には料理を出品するお店が出てきて、さらにはそこに注文入っちゃうから、もうカオス状態でした(笑)。
でも、スピード感と広がり方がすごい(笑)。
弟がメインになって営業行って、インターン生も飛び込みで獲得してくれましたね。5月15日にリリース出すってメディアに言ってたし、ビールメーカーにも協賛をあおいで、キャンペーンやって巻き込んでいたから日程はずらせないし、寝ずにやってたと思いますよ。14日の時点でまだ何に商品入れて運ぶか、配達のバッグも決まってなくてホームセンターに買いに行ったくらいでした(笑)。
「アトツギ」×「長期インターン」のリーディングカンパニーになる
最近始められた「COMPUS(コンパス)」についても教えてください。
岡山でスタートアップ起業家を生み出そうという活動をしていまして、その中で感じた課題なんですけど、岡山では長期インターンに取り組む機会がないんですね。起業したい学生って意識が高いじゃないですか。東京だと長期インターンってあって、アルバイトより実務に近い裁量を持たせてもらえるんで、休学して東京行って長期インターンやって、成長して帰ってくる人もいる。でも行ける人ばかりじゃないから、地元でもチャレンジできるといいなと思って「COMPUS」を始めました。
やってみて、何か新たな気づきとかありました?
長期インターンって関東以外で定着しないのはベンチャーがないからなんですよ。どうやって広めていこうかと思った時に、これは「アトツギベンチャー」だと。地方はアトツギに長期インターンを取り入れてもらうのが、成長のキーファクターだと思ってやってます。藤田酒店は「アトツギ」×「長期インターン」のリーディングカンパニーでないといけない。だから自社でも積極的にインターン生を取り入れてますよ。
長期インターン生を受け入れるメリットって何ですか。
今はブルーオーシャンだし、新卒採用では出会えない層と出会える。東京の大手IT企業とか、メジャー企業に行くようなレベルのエンジニアが働いてくれてたりする。うちじゃないところでも、意識の高い子たちが地方企業でインターンやってくれてるし、そのうち何人かは本採用につながったりもしますよ。
起業したければ、家業のリソースを使いたおせ!
家業に戻ってから、これは最悪だったっていうお話、あれば聞かせてください。
とにかく365日休みなく、1日15時間くらい働いてて、繁華街に酒を配達に行くと飲んでいるやつらがいるわけですよ。まだ25歳くらいだったし、遊びたいし、若者がワイワイやっている中に配達行くと涙がこぼれそうになったことありますね。あの時は辞めたくなりました。あとは雨の中、配達してこけるとか(笑)。
辞めたいなと思っても、辞めずにいたのはどうしてですか?
家業に入ってからも東京に行ってスタートアップしたいと思うことはあって、家業が足かせだなと思ってた時期はありましたけど、最終的に家業を選ぶことによって地元を出るのをあきらめたんですね。
むしろ今は「地方にいるからチャレンジできない、選択肢がない」という状況を無くしていきたいと強く思っています。
僕みたいに東京へ出るのをあきらめた人、地元でやりたい人に、少しでもフラットに東京との情報格差なく事業を立ち上げて欲しいという思いからスタートアップ支援的な活動もやってます。
「COMPUS」やり始めたのも、そこからつながってます。
アトツギとして目指す10年後の姿は?
長期インターンを活用していきたいですね。採用が強い会社にしていきたいです。採用力がないんですよね、酒屋って。でも、事業を成長させていくためには、いい人に働いてもらうことが必要。そのためにも長期インターンを活用していく。オリジナルラベルワインのサービスも、お酒以外に展開できるかなと考えています。オリジナルのギフトだけが集まったモールもありかなとか。正直、酒屋であることにはそこまでこだわっていなくて、IT企業になってもいいかなと思っています。
最後に、若いアトツギの方に何かアドバイスをお願いできますか。
まず、起業したい人は、いったん家業を継ぎながら二足のわらじでやっていくのもいいと思う。僕の場合は、当時は電話もFAXもよく使ってた。固定電話があるって当時は、信用にもつながった。会社立ち上げても、住所は全部酒屋にするから登記もしやすいし、やりやすかったですね。顧客のリソースも活用してるし、使えるものはすべて使いました(笑)。酒屋に限らず、家業は周りからの信用があるから、それも使いたおしたほうがいい。
使えるものは使いたおせってことですね!ありがとうございました!
【岡山県】
有限会社藤田酒店 https://fujitasaketen.com/
店主 藤田 圭一郎 氏
■取材した人
サモアン
1990年生まれ。東京出身。公務員家庭に育つ。六大学野球では日本一を経験し、全てのビジネスワードを野球用語に置き換える根っからの野球好き。卒業後は、日本を代表する大手金融機関に就職。体育会系の粘りの営業スタイルでMVPも獲得するなどサラリーマン人生も好調。でも「いつかは起業したい」という思いもあり、後継者不在の会社の経営者になるM&Aに興味津々。勝負球は140kmを超えるストレートとしょんべんカーブ。