【大阪府アトツギソン2021優勝者】美濃焼き王子、焼き物文化変革の狼煙を上げる
山喜製陶株式会社
河口 尚大さん
山喜製陶株式会社は1949年創業のみずなみ焼・美濃焼陶器メーカー。斬新な形と伝統的デザインで販売市場を拡大してきた企業であり、河口さんは同社のアトツギとして社外で修業中。
そんな中、家業の強みを知り、可能性を拡げるべく、大阪府事業承継・引継ぎ支援センター(大阪商工会議所)主催の「大阪府アトツギソン」に参加し、最終日のプレゼンで優勝。
家業に戻る前にとにかく様々な業種の方と交流し、経験を積むことで自身の知見と可能性を拡げるべく、積極的に活動。
そんな河口さんにアトツギとしての覚悟、何が河口さんを動かしているのか、そして今後の未来について話を聞いた。
動き出すまでは気が重かった。でも、動いてみたら見えてきたことがたくさんあった。
ピエール
河口さん、改めて簡単に自己紹介をお願いします。
岐阜県瑞浪市で美濃焼を作っている山喜製陶という会社のアトツギです。まだ家業には入っていません。跡継ぎに決まってから、まず修行のために機械メーカーで1年働いて、今は大阪の貿易会社です。
河口さん
ピエール
アトツギソンに参加されたきっかけって何だったんですか?
跡継ぎに決まる前はずっと会社勤めで、一から事業を考えるという経験がなくて、家業に入る前に事業について考えるきっかけがほしかったんです
河口さん
ピエール
実際に参加されていかがでした?
期待以上のおもしろさでした。他のメンバーと切磋琢磨できたのもよかったです。実際に想定顧客にアンケートを取ったりして、一歩先のことができたのは大きな収穫でした。
河口さん
ピエール
実際に家業に入られる前のそういう経験は、けっこう大事かもしれないですね。
「自分もやればできるじゃん!」って気づけたことは本当に大きいです。審査員の方がおっしゃっていましたが、選択肢は「動くか動かないか」だけだったんだ、ということに気づきました。それまでは、やりたいと「思っていた」だけで実際は動いてなかったんですね。
河口さん
ピエール
じゃあ、アトツギソンは河口さんにとって大きな一歩だったんじゃないですか。
そうかもしれません。実をいうと、私はめちゃくちゃフットワークが重い人間だったんですよ。今までこういうイベントに出たことはなかったですし。正直、今でもピッチと言われると腰は重たくなりますね。でも、イベントに出ることはチャンスだと思っています。そうそうたる方々に意見がもらえる貴重な機会だし、本当に取るに足らないアイデアでもコメントをくださるじゃないですか。アトツギソンのときは、「自分はこういう審査員の人たちに評価された」っていう自信が持てました。
河口さん
ピエール
メンター的な存在の方によるコーチングの時間も、けっこう意義が大きいですよね。
はい。アトツギソンでは3名の方からコーチングしていただけました。皆さんの視点が違って、いろいろな角度からアドバイスがもらえたのがすごくおもしろかったし、楽しかったです。それに、同じバックグラウンドを持った人間同士で集まる価値は大きいと思います。ずっと毛嫌いしていたけど、食わず嫌いはダメです(笑)。
河口さん
ピエール
河口さんはすごく積極的な方っていう印象があったんですけどね。
やっぱり、跡を継ぐことを決心してから変わったんだと思います。従業員を抱えるようになれば、いろいろなことが私一人の問題じゃなくなりますから、今までの自分ではダメだと思いましたね。
河口さん
ピエール
すぐに切り替えることはできたんですか。
はい。悩んでいても何も生まれないし、時間がもったいないです。悩んでいる間にチャンスを逃して後悔するぐらいなら、動いて失敗して後悔した方がいい、とつねづね思っていて、基本的には、「えいや!」と発車してしまいます。私のポリシーですね。
河口さん
ピエール
素晴らしい。「やるしかない」という状況から、行動が変わったというわけですね。
そうですね。あと、家業っていう基盤があるのはラッキーなんですよ。家業が培ってきたものから活用できるものは活用させてもらって、私が何か新しい価値を生み出したい。今はそういう気持ちです。
河口さん
ピエール
跡継ぎとして、河口さんが今後取り組んでいきたいことってどんなことですか?
「陶磁器業界を復活させたい」というのが、一番大きな夢です。それを達成するために、ますはアトツギソンで考案したアイデアを実現したいですね。
河口さん
ピエール
自由な発想で考えたアイデアを実践していく、おもしろそうですね。
ゆくゆくは、美濃焼だけでなく、どこの産地のどの焼き物でも自由に使えるようになってほしいです。皆さんに、有名な焼き物をもっと身近に感じてもらえればうれしいですね。そうなったときを考えるとわくわくします。これまでは漠然と、「もっと盛り上げられたらいいなあ」ぐらいにしか考えたことがなかったんですが、アトツギソンに出てから「陶磁器業界や焼き物の業界をどう変えていこうか」っていうことを強く思うようになりました。
河口さん
家業の陶磁器工場内の様子
ピエール
「変えられる立場にいるのって、俺ぐらいやろ」と思われた?
自分でもできるかも、と思えてきて(笑)。自分の会社だけではなく、業界という単位で成長させることができればもっと楽しいだろうな、と思っています。私からどんどん発信して、陶磁器業界を変えていきたいですね。
河口さん
ピエール
僕らは全力で推します(笑)。河口さんが新しい焼き物文化を作っていくという気持ちで、どんどん仕掛けていってくださいよ。そのための「美濃焼王子」っていう看板ですよね。
家業で取り扱っている美濃焼き
自分で掲げたというか、授けてもらったというか(笑)。アトツギU34で積極的に活動されている方が企画したブレストの、「○○と言えば私」と名乗れる唯一無二の肩書きを探そう、という話から生まれたんです。
河口さん
ピエール
最初に名乗っちゃうことって大事ですよ。実際のところ、河口さんのライバル的な存在っていらっしゃるんですか。
ちょっと上の世代の跡継ぎの社長さんたちがいらっしゃいます。一緒に業界を盛り上げていかないと、っていう仲間意識みたいなものを勝手に持たせてもらっています。
河口さん
ピエール
みなさん、積極的に新しいことに取り組んでいらっしゃる方なんですか。
新規事業ではないですが、先代までとは全く異なるデザインのものを作っておられたりします。
河口さん
ピエール
陶器ってどうしても古いイメージがありますから、何か一つ飛び抜けたらけっこう注目されそうですよね。河口さんみたいな若い方が引き継がれるからこそ、気づく良さがあると思います。
父に「跡継ぎは大変なことばかりだけど、その分達成感があるし、楽しいぞ」って言われたんです。それを聞いて、「継がなきゃいけない」っていう気持ちとともに、自分がどこまでできるか試したいと思ってます。今の家業を自分はどこまで大きくできるのか。やったことが数字に現れれば、もっとおもしろくなると思います。まだ他社で修行中の身ではありますが今すぐにでも家業に戻って、父の背中を見ながら、会社のことや焼き物のことなど、早くたくさん学びたい気持ちでうずうずしています!今後のことについて、また父と話してみようと思っています!
河口さん
ピエール
めっちゃアツイですね(笑)。最後に、挑戦することの大切さについてお願いします!
一歩を踏み出すことは本当に大事です。それから、私が今の私になれたのは、跡継ぎを決心して、やらざるを得ない環境に身を置いたからだと思っています。環境は一番大事ですね。
河口さん
ピエール
何か特別な力があるかないかではなく、置かれた環境で未知のことに飛び込み、自分を追い込んでいくことなんですね。
私自身は動き始めるまでがとにかくしんどい、っていう人間でした。でも、動いてみたら意外と楽しいですよ。この記事を読んで、私みたいなダメな人間が一人でも腰をあげてくれれば、って思いますよ(笑)。
河口さん
ピエール
河口さん貴重な話をありがとうございました!これからも応援しています!
■取材した人
ピエール
某大手銀行に就職。その経験を活かし、アトツギベンチャーと金融機関の、次世代のあり方を世に問うべく、メディアに取り上げられるような案件をアトツギと実現することが目標。