長く使われる製品をコツコツと作り続ける、それが顧客価値や社会貢献につながる―「アトツギ」を世界へvol.4―

一般社団法人ベンチャー型事業承継によるシリーズ連載「『アトツギ』を世界へ」の第四弾。

これから世に出ていく挑戦的なアトツギたちは、まだ若い世代であるがゆえに、大きな挑戦を許され、超ニッチ戦略や大胆な戦略へと舵を切る。ベンチャー型事業承継の審美眼を通ったアップカミングなアトツギたちの挑戦を眺める。

出展:リンクタイズ株式会社運営「Forbes JAPAN」SMALL GIGANTS AWARD(https://forbesjapan.com/small_giants/

(記事:https://forbesjapan.com/small_giants/article/detail/22121401.html

 

地道な仕事で受け継いできた130年のものづくり

株式会社リングスターは、明治20年(1887年)の創業以来130年以上続いてきた、工具箱のメーカー。始まりは木材加工業だったが、時代のニーズに合わせてターゲット市場を柔軟に変化させ、新たな製品開発に取り組みながら、その時に必要とされるものを地道に作り続けてきた。現在扱っているのは、1990年代に4代目と5代目が心血を注いで開発した『スーパーボックス』をはじめとするプラスチック製の工具箱や釣り具箱、そしてアウトドア用マルチボックス『Starke-R』である。特に工具箱は多くの職人たちによって何十年と愛用されてきた。いろいろな賞を何度も受賞しており、4代目の時代からは『優良申告法人』の認定を受け続けている。

「祖父も父も、『自社の取り組みが国の貢献にもつながっている』と言っていました」
そう語るのは6代目承継予定の唐金祐太。先達の教えは、彼の中にもしっかりと引き継がれている。
「2009年に入社してから約13年、僕がやってきたことには、新規性、ドラマ性、話題性などの価値はありません。ただコツコツとやってきただけ。どデカいことをやって一発屋で終わるのではなく、これからも、ずっと使ってもらえる商品、ファンになってもらえる商品をしっかり作っていきたいと思っているんです」

唐金が新ブランド『Starke-R』立ち上げという新規事業に乗り出したのも、「地道にコツコツ」の延長にある戦略だった。

「ホームセンター業界に依存してしまうことへの危機感があったんです」
EDLP(エブリデー・ロープライス)戦略の業界と言われるホームセンター業界は、非常に特殊な構造をしている。上位5社がほぼ半数以上のシェアを握っており、これら上位社の店舗の棚を自社製品が占めることができれば、場合によってはそのホームセンター1社からの収益が1億にも達する。ホームセンター業界は、店舗数は拡大し続けているものの、売上規模はあまり伸びていない業界なのだ。また、M&Aも相次いでおり、今後おそらく多くの中堅企業が大手に買収されると思われる。この先もリングスター製品が棚を占めているホームセンターが生き残るという保証はない。
「現在、リングスターの売り上げの約6割をホームセンターが支えています。だから、ほかの業界で収益を上げられるブランドを作らなければ、という危機感はかなり強かったです」
2018年、自社商品・お客様を見つめ続けてきた唐金が選んだのはキャンプ業界であった。「新規事業進出のもう一つの理由は、職人さんとキャンパーさんの課題感が非常に似ていた、ということなんです」

 

足がかりとなったのは、キャンプ場に停車していた車だった。キャンプグッズを収納したボックスなどが、窮屈そうに後部座席に詰まっている。これと同じ光景を唐金は知っていた。作業現場に止められた職人たちの車である。リングスターの工具箱は、車載効率の向上も目的の一つとして開発されてきた。社で生産している工具箱がキャンプシーンでも使えるかもしれない――。尊敬する知人に背中を押されたこともあり、まずは、キャンプシーン向けのデザインで製造したバスケットを、釣り具箱として限定販売した。既存製品の金型で製造されるため、初期投資は必要なかったことも前に踏み出せた大きな要因であった。

新たな市場はアウトドア業界

発売するとすぐ、製品はキャンプ関連の大手メディアに取り上げられた。『これは当たる』と唐金は確信した。「記事を載せようと思ったらかなり苦労するような雑誌からも、向こうから記事を書きたいと連絡を頂いたんです」 こうした流れを受けて2018年3月、唐金は新規ブランドの立ち上げを社に提言した。だが、父である5代目社長は、まず目の前にある仕事で実績を示すことを課した。

奮起した唐金が最初にしたことは、誰よりも早く出社すること。遅くとも6時15分には出社した。アパレル企業(BEAMS)やスターバックス コーヒー ジャパンとの新たなつながりを作り上げ、雑貨関連の取り引き先とはさらに深い関係を築き、もちろん、既存の販路であるホームセンターへの営業もこなしていく。SNSでの情報発信にも力を入れた。ブランド構想も同時に進め、社長への経過報告、進捗報告は欠かさなかった。「ひたすらコツコツと動いていました」

唐金の地道な取り組みは認められ、2019年の9月、『Starke-R』のローンチが承認された。
その後、知人の勧めがあり、急遽2020年1月末にMakuake(応援購入プラットフォーム)に出店した同製品は、売り上げ850万円を達成した。社には多数の問い合わせが寄せられた。

唐金はこの実績を掲げ、全国のアウトドア専門店を営業して回った。「社長は『ブランド力を高めてくれるところに卸せ』と常々言っていました。社としては、内部留保をしっかり確保しておきたいと考えているんです。僕自身、20年後も見据えて、値崩れを起こさないところで勝負しようと出口戦略を定めていました。出口がしっかりしていなければ、ビジネスは自分の想定とはまったく違う方向へ進んでしまうこともありますからね」

 

 

新たな販路となったアウトドア業界やキャンプ業界は、ホームセンター業界に比べれば市場規模はずっと小さいが、顧客ターゲットが限定されており競合の参入による競争はホームセンター業界に比べて起きにくい。つまり定価で勝負することができる。幸いにも、4代目、5代目の経営は堅実で会社の財務体質は良好だったため、この市場でじっくりと勝負をかけることができた。
先にも述べたように、初期投資が必要なかったという点も成功につながった大きな要因である。通常、新たな製品の生産のために新たな金型から開発しようとすれば、数千万という初期投資が必要になるが、Starke-Rはいまでも既存製品の金型を使って生産されている。

社会への想いを製品で具現化

「Starke-Rの特徴は、圧倒的な強度にあります」
新規ブランドStarke-Rについて、唐金は「圧倒的」という言葉を繰り返す。「圧倒的な強度を保証しています。うちは、なんでも『圧倒的』にするのが好きなので。Starke-Rも、他社製品が耐荷重100㎏のところを800㎏で作っています」
Starke-Rへのこだわりには、ものづくりに対するリングスターの、そして唐金の思想も込められている。以前、再生プラスチック材の製品開発に取り組んだこともあったが、結局不良製品を出し回収することになってしまった過去がある。「長く使える耐久性の高い製品を提供することが、プラスチック製品の廃棄を減らすことにもつながる。そのようにして環境へ貢献する」、それが現在の基本的な考え方だ。また、ボックスを持ちやすくするためにグリップに巻いたレザーは、国内アパレルメーカーと組んで開発・デザインしており、ここには、デザイン性を高めるという狙いだけではなく、日本の企業を応援するという想いもある。
現在、唐金はキャンプ場に月2回ほど足を運び、自社製品のバスケットをたくさん並べているという。「あざといくらいに並べます。実際にその場(ECサイト)で買われる方もいらっしゃいます。」
「やはり店や現場を足で回ることは重要ですね。そうしないと、大事な一次情報が入ってきません。業界誌などで知ってから動き出してももう遅いんです。もっと言えば、ゼロ次情報を取りにいかないと。それは社長も大事にしていることです」
現に、キャンプ場でほかのキャンパーがどのような収納ボックスを使っているかを見て、自分たちの製品を売り込む余地はまだまだあるということも分かってきたという。唐金の計算では、キャンプの収納市場規模は70億円である。「そこを取っていくためにも、もっと新しい商品も開発していかなければ、と思っています。もちろん、既存事業をおろそかにするつもりもありません」

実際、Starke-Rの盛況によってStarke-R以外の自社製品にも相乗効果は表れている。Starke-R製品に色味の近い既存ブランドのバスケットも、業績が約1.7倍伸びた。
「自分をここまで育てて守ってくれた社員さんたちを守っていかなければいけない、お客さまから『リングスターの製品を使ってよかった』『この商品を何個も持っている』と言ってもらえる会社を守っていきたい、という想いがあります。人に喜ばれるものを作るというのは、ものづくりをする上で一番大事なことですよね。収納ボックスメーカーとして僕らが提案できる先は、世の中にたくさんあると思います。医療現場での収納、ご家庭のおもちゃや雑貨の収納……いろいろな業界に、僕らが100年以上培ってきた技術をお届けしたいです。Starke-Rをしっかりとした柱へと自立させるためアウトドア事業部は、クラウドファンディング3回で計2500万円、3000人を超える方にご支援を頂いたこともあり、初年度5400万、2年目7200万の売上で、1年半で1億を超える事業となりました。すでに動き出しているほかの戦略もあります。いずれ世界中の収納ボックス全部を変えていきますよ。」

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