2022.06.10

「家業の中にある蓄積」×「アトツギの経験」で塗料の未来を塗り変える。アトツギ甲子園優秀賞受賞への勝負どころ ―「アトツギ」を世界へ vol.1―

出展:リンクタイズ株式会社運営「Forbes JAPAN」SMALL GIGANTS AWARD(https://forbesjapan.com/small_giants/

(記事:https://forbesjapan.com/small_giants/article/detail/22060801.html

一般社団法人ベンチャー型事業承継によるシリーズ連載「『アトツギ』を世界へ」の第一弾。これから世に出ていく挑戦的なアトツギたちは、まだ若い世代であるがゆえに、大きな挑戦を許され、超ニッチ戦略や大胆な戦略へと舵を切る。ベンチャー型事業承継の審美眼を通ったアップカミングなアトツギたちの挑戦を眺める。

 

ニッチ塗料に見出された異色の性能 サブカル界で開花

2021年夏、ある塗料がフィギュアやコスプレの愛好家たちに衝撃をもたらした。斎藤塗料株式会社のウレヒーローである。もともとは工業用途の特殊塗料として開発された塗料だが、今では「サブカル系塗料」のパイオニアとして広く話題を集めている。

 

「最初に開発されたときからいろいろな素材に密着するという特徴があったので、工業分野だけでなく一般の市場でも認めてもらえるのではないかと感じたんですよ。それで、斎藤塗料のSNS上で『ウレヒーローってこんな性能があるんですよ』とマメに発信していったら、あるお客さまが『フィギュアの塗装に向いている』とツイートされまして。それがいわゆるプチバズりしたんです。『こんな塗料がこの世の中にあるのだ』ということを広く知っていただけて、そこからお問い合わせがたくさん来ました。その後、工業用だったスペックを一般用にも改良していきました」。

そう話すのは、同社の取締役にして5代目アトツギの菅彰浩である。

アトツギと言っても、菅は家業一筋で現在まで進んできたわけではない。大学卒業後はインターネット求人広告の会社で営業として働き、その後IT系ソーシャルゲーム会社に転職。企画職として、新タイトルのプロデューサーの仕事にも携わった。

 

家業に戻ったのは2018年。技術部の社員として手を塗料まみれにしながら家業を基礎から学んでいく一方で、前職での経験を生かし、SNSによる会社や製品のアピールにも取り組んだ。入社2年が過ぎた2020年、社ではあるニッチな用途の工業用塗料が完成した。印刷機の紙を送り出す部分に使われているゴムパーツを摩擦から保護するための塗料。これがウレヒーローの最初の姿であった。1缶分16キロを作ってほしいという要望から開発が始まったのだが、通常、塗料の1ロットは50缶、約1トンであり、月100キロから200キロを売れば採算がとれる。

 

採算の合わないこの開発に斎藤塗料が乗り出したことには、はっきりとした理由があった。「当社はニッチな分野の開発も得意で、困っている会社さまのためにオーダーメイドで少量でも開発するケースは多いです」。顧客の要望に細かく対応していたからこそ、ノウハウも蓄積されていったのだろう、と菅は続けた。

ウレヒーローの最初の転機はB to B向けの展示会で訪れた。「ゴムに塗れる塗料」は当時の業界では異色で、「久しぶりにおもしろい塗料が出てきた」と多くの企業が興味を持った。幅広く要望に対応しようとテストが繰り返され、製品の精度は高まっていく。そして、先述のサブカル向けへの開発・販売へもつながっていったのだった。

 

ソーシャルゲーム運用での経験を生かした戦略的な情報発信

菅に前職での経験があるとはいえ、SNS上で“塗料”を発信するというのはかなり難しい取り組みだった。製品をそのまま写真に撮っても写っているのは製品ボトルでしかない。中身を何かに塗らなければならないが、同社のメイン商材である下塗り塗料は黒やグレーなどの地味な色で、しかも最終的には別の塗料が上に塗られてしまう。なんとか売れるようにといろいろなものを塗ってみてはSNSで発信したが、金属の塗料など非常に手間がかかった作業もあったという。

「SNSでの発信は、斎藤塗料のファンを囲い込んでいくために、緻密に計算しながら地道にやっています。ターゲットを誰に決めてどうコミュニケーションをしていくか、かなり試行錯誤しました。コロナ禍がなかったら、イベントをやって皆さんを会社にお呼びするということもしたかったですけどね」。

実際、菅はSNSを飛び出しての発信にもかなり積極的だ。2022年の4月にはニコニコ超会議に参加する。「前職でも東京ゲームショーのようなサブカル文化が集まる展示会に出ていましたから。でも、今回は直前まで開催を知らなかったので一般参加です。ウレヒーローを塗ったマントや手袋、ブーツに剣を携えて、コスプレイヤーとして乗り込みます。ウレヒーローはけっこう知っていただけているので、堂々と歩けます」。

 

社員のために、お客さまのために――アトツギだからできること

2022年が明けて間もない1月の終わりごろ、一般社団法人ベンチャー型事業承継が主催する「アトツギU34」(オンラインコミュニティ)で所属するメンバーから菅はある質問を受けた。「ウレヒーロー、 いつ爆発させるつもりなんだ?」。そこで菅が「今年爆発させる」と返すと、「何をしているんだ、だったら今すぐアトツギ甲子園にエントリーしろ」と背中を押された。締め切りの前日であったが、菅は迷わずエントリーした。

 

「実はウレヒーローの最初の店頭販売を3月4日に控えていて、アトツギ甲子園は3月12日。本当に忙しかったのですが、『ウレヒーローを広めるためにやれることは全部やるんだ』と言われて、おっしゃるとおりだと思いました」。実際、アトツギ甲子園で優秀賞を受賞するとウレヒーローはいろいろな方面で取り上げられ、一般販売用だけでなく工業用のウレヒーローにもいい影響が期待できるようになったという。

だが一方の店頭販売の準備は、店舗側の張り切りもあって混迷を極めていた。なんと予定より2日前倒しで販売が開始されたのだ。菅たちはあわててSNS上に販売開始のツイートを流す。すると、当初の発売日前にはありがたいことにもう棚が空になってしまった。社屋の休憩室にまでビン容器を並べ、社長も取締役も総出で製品のビン詰め作業をした。追加の在庫を急いで送るも、さらに倍以上の追加の要望が届く。「ビンが足りない」、「ラベルが足りない」、「梱包資材が足りない」……。菅は駆けずり回って外注先を探した。その間、ほかの業務ももちろん継続しなければいけない。「3人で回していた現場を1人で回さないといけなくなったりして、不満に思った人もいたでしょうね」。コロナ流行の影響も振り返りながら、菅は社員についてこう話す。「すごくしんどい思いをして働いてくれている皆さんに、ボーナスを減らさざるを得なかったりと、本当に申し訳ない対応を続けてきました。だから、これから皆さんにいろいろな成果を還元していかなければいけないと思っています。それがアトツギの仕事と思っています」。菅はこう続ける。「僕のモチベーションとなるのは、この思い一つなんです」。

 

その地位を確立したかに見えるウレヒーローに対しても、菅は「まだ完成しているとは思っていない」と話す。「今のウレヒーローはコスプレ専用には作っていないので、コスプレイヤーさんたちの要望をもっと聞きたいです。コスプレイヤーさんが着たい衣装を着て、なりたいキャラクターになりきって、自信を持ってみんなの前に立つ。それを塗料で実現してあげたいと思っていますね」。コスプレイヤーを交えた商品開発も考えているという。

商品の周知や店舗展開に関しても、新たなビジョンがある。実際に塗料の良さを見て手に取って体験してもらえる環境を作っていく。店舗以外でのファンとの接点を増やす。それらに並んで、ウレヒーローを使った作品のコンテスト開催という大きな夢もある。「できるかは分からないですけれど、eスポーツみたいに盛り上げたいです」。家業一筋で工業用塗料を作っていたら思い至らなかったであろう、まさに菅ならではのビジョンである。ニーズを捉えた超ニッチ戦略が世界へ出る日もそう遠くはない。

 

《プロフィール》

一般社団法人ベンチャー型事業承継|ファミリービジネス(同族企業)の承継予定者(アトツギ)に特化した新規事業開発支援団体として2018年に設立。

「アトツギベンチャーを日本のカルチャーとして定着させる」ことをミッションとし、国や全国各地の行政、金融機関などと連携して、

アトツギの新規事業開発支援に取り組む。また入会時の年齢を「34歳未満」に限定したオンラインサロン「アトツギU34」を主宰。

https://take-over.jp/

 

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