ベトナム進出も視野に、事業を拡大 社長としてのプレッシャー乗り越え、社員とともに成長

株式会社鳥取メカシステム
代表取締役  林正太郎 氏

株式会社鳥取メカシステムは1971年、林正太郎社長の祖父が創業した。町の鉄工所からスタートしたが、自動機の部品を手掛けるようになったことから事業を伸ばし、現在では半導体メーカー、車載向けメーカー、電子部品関連大手企業など向けに自動機、産業用機械、省力化設備の設計、製造から現地での据え付け、立ち上げまでを一貫して行っている。大学卒業後、バンドマン時代を経て、宝飾メーカーで勤務していた林社長は、「父の苦労をずっと見てきただけに自分が引き継ぐしかないと思っていた」と、26歳の時に家業に戻った。ワンマンで押しの強い先代を前に、自分に経営者が務まるのかと自信を持てずにいたが、5S活動を通じて「成長していく社員とともに後継ぎである私も一緒に成長させてもらった」と謙虚に語る。不安を感じながらも後継ぎとしてどのようなチャレンジをし、今後どのような会社を目指そうとしているのか尋ねた。

出典:令和2年度中小企業庁/プッシュ型事業承継支援高度化事業/「ロールモデルのクローズアップ」事業「継ギPedia」(http://tsugipedia.com/)

 

 

 

先代が会社を売却後に独立

ゴードン
ゴードン
お父様の代でだいぶご苦労があったようですね。

うちの会社はもともと祖父が6畳一間くらいの広さの場所に工作機械を一つ置いて祖母と始めたのがきっかけです。林鉄工所という町工場が今の会社の母体です。先代である私の父が祖父を手伝うようになり、今の仕事の基礎になる自動機の部品を作ったりするうちに事業が成長して、従業員も順調に増えていき、社名も林エンジニアリングに変わりました。

 

その頃の父は、来るもの拒まずの精神で何でも仕事を気前よく引き受けたりしているうちに、段々と経営状態が悪くなってしまいました。倒産寸前のところで、運よくスポンサーが現れ、そこでいったんは会社を売り渡して、父は社長を退き、雇われの身となり、製造部長の立場で仕事をつづけていたんですが、やはり使われるのは面白くなかったようで。また一から出直しを図って創業したのが現在の鳥取メカシステムです。

林氏
林氏

ゴードン
ゴードン
そういう経緯があったんですね。その姿を林さんも見てきたわけですね。

 

 

 

バンドマン、宝飾メーカーを経て家業に

幼い頃は会社の慰安旅行にも一緒に行きましたし、古い従業員とも仲良くさせてもらっていました。苦労してここまでやってきた父の背中を見ているので、気持ちのどこかしらで僕が跡を継ごうという気持ちになっていたと思います。
林氏
林氏
ゴードン
ゴードン
バンドマンをされていたとか。

小学生の頃はスポーツが得意だったんで楽しかったんですけど、中高時代はパッとしなくて悶々とした日々を過ごしていました。その中で音楽に出会って、勢いというか若気の至りで突っ走って大阪でバンドマンをやってたという感じです。
林氏
林氏
ゴードン
ゴードン
その後、宝飾メーカーで勤務されています。どんな仕事だったのですか。
バンドマン時代に付き合っていた彼女のお父さんに紹介されて入ったんです。だから家業とは全く関係ありません。原石に近いものを仕入れて、加工して指輪などにする会社で、営業でお店回りをしていました。
林氏
林氏
ゴードン
ゴードン
その間も家業にいつか戻ろうという気持ちはあったのですね。
父からは常に継いでほしいと言われてたんですけど、いざとなるとなかなか自分の腹が決まりませんでした。でも地元を離れて長くなっていたので、このままではいかんなという気持ちが出てきて。ようやく自分の中に継ぐ決意が芽生えてきたので戻ることにしました。
林氏
林氏

 

 

 

先代との関係にストレス抱え

ゴードン
ゴードン
どんな仕事から始めたのでしょうか。

一従業員として現場の製造からスタートしました。加工する前の材料を切る工程から始めて、機械加工、組み立て、設計まで一通りのことを広く浅く経験しました。
林氏
林氏
ゴードン
ゴードン
設計希望の新入社員にはまずモノづくりの現場から経験させるとのことですが、それはご自身の経験から始めたことですか。
そうです。やはり現場の細かいとこから覚えると何をやるにも鍛えられますから。
林氏
林氏
ゴードン
ゴードン
家業に戻るにあたって一番悩んだことは。

一度入ってしまったら抜けられないという覚悟も決めないといけませんでしたし、果たして僕でこの会社を守っていけるかという不安もなかったわけじゃありません。
林氏
林氏
ゴードン
ゴードン
そのなかで先代が築いた経営資源を生かしながら、どんなことに取り組んでいかれたのですか。
ぼくが入った頃は従業員が50人ほどで、まだまだ田舎の町工場という感じでした。だいぶ見慣れていたぼくの目から見ても、工場の中が汚くて散らかり放題で、これをまずなんとかしないといけないなと思っていました。ただ、それも社長にならないとみんなを動かせませんから。社長になったらとやろうと考えていましたね。
林氏
林氏
ゴードン
ゴードン
先代との関係性は。

うーん、やりにくかったですね。親父はいわゆるワンマンタイプで、ぼくが課長、部長になっても常に上には親父がいるので、なかなか言いにくい部分もありました。やはり当時は自分に自信もありませんでしたし。たまに言い合って喧嘩もしましたが、自分の思い通りにならないのはストレスでした。
林氏
林氏
ゴードン
ゴードン
そこは変えていかないといけないと思っていたわけですね。
はい。社長が何でも決めて進める会社のままではこれ以上発展はないと感じていました。
林氏
林氏

 

 

 

従業員の力を存分に生かす

ゴードン
ゴードン
3年前に社長になられて、そこからいろいろと変えていったのですね。

株自体はリーマンショック後に安くなったときに移し替えていたのでそこはスムーズにできていました。先代は口癖のように「もう退くわ」と言いながらも社長を続ける状態が続いていました。いろいろとタイミングが合ったのが3年前だったんです。
林氏
林氏
ゴードン
ゴードン
いざ社長になるとどんなお気持ちでしたか。
やっぱりプレッシャーはありました。全てに対して自分が責任を負って会社を背負っていくことに恐怖心みたいなものもありました。だから継いだ当初は、肩ひじ張って、おれが、おれがと思ってたところはあったんですけど、ある頃から、自分一人の力なんて限られているし、従業員の力を存分に生かすのが会社経営だということに気づいたんです。それで少し肩の力が抜けて楽になりました。
林氏
林氏
ゴードン
ゴードン
その取り組みの一つが5S活動だったのですね。
現場を整理整頓しておかないと従業員の安全も守れないし、初めて来られるお客さんへの印象も違うだろうという思いで取り組んでいきました。また、会社の顔になるHPも一新しました。お客さんへの印象だけでなくリクルート面でもHPは大事だなと思っていたので。作業服を一新したり、給与の見直しや休日を増やしたり、従業員の待遇面なんかも変えていきました。どれも社長になる前からずっとやりたいと思っていたことです。
林氏
林氏
ゴードン
ゴードン
HPを拝見させていただきましたが、とてもきれいな工場で、社員同士仲良く、ものづくりの過程が楽しいと話されているのが印象的でした。
ぼくが言わせてるわけじゃないんですよ(笑)。本人が自然な形でそう言っているんで。社員にそう思ってもらっているというのはありがたいですね。
林氏
林氏
ゴードン
ゴードン
バンドマン時代も含め過去の経験が生きていることはありますか。

地元のバンドでギターがいないから手伝ってくれと呼ばれたりすることはありますね。ただ、そういう中から仕事につながったこともあります。それで言うと、入社してすぐに入ったんですが地元の異業種の若手が集まる会があってそこで会長の経験をさせてもらったりして、仲間の経営者から学ぶことは多くありました。
林氏
林氏

 

 

 

経営者としてようやく自信が持てるように

ゴードン
ゴードン
今は経営者として自信が持てていますか。
今期はコロナ禍もあり減収減益になりそうですが、日々、様々な問題に直面した時に常に自分の頭で考え、決断を下していく中で、経営者としての自覚が少しづつ芽生えていったような気がしますね。そうは言っても、社長を引き継いでまだ3年しか経っていないので勉強の日々ですけど。

長い目で見れば巣ごもり需要でお客さんの通信関連メーカーは伸びていくでしょうし、人手不足で自動機の需要は今後も堅調だと考えています。そういう意味でも何となく自分に自信が持てるようになりました。今後はM&Aも視野に入れており、会社を大きくしていくチャンスもあると考えています。従業員を増やして地域に貢献し、雇用をしっかり守りたいという思いがあります。

林氏
林氏

ゴードン
ゴードン
将来はベトナムに工場を建てたいという思いもあるそうですね。
従業員は120名おり、うち6名がベトナム人です。現在、ベトナムにある大手日系企業といいお付き合いをしており、現在雇っているベトナム人がいずれ国に帰りたいということになれば、向こうに受け皿になる会社を作って現地で雇うことができればいいなと思っています。
林氏
林氏
ゴードン
ゴードン
10年後の未来をどのように描いていますか。
ロボットの市場は今後も拡大していくのでそこにしっかり追随していきたいと思っています。現在売り上げは平均25億円程度ですが、従業員にもお客さんにも無理のない範囲で少しずつ売り上げを増やし、30億円くらいを目指していければと思っています。
林氏
林氏
ゴードン
ゴードン
先代に意見が通りづらいと嘆くアトツギにアドバイスをお願いします。

父とは性格が異なり、しょっちゅう意見がぶつかります。親子だと照れくさかったり、ぶつかるのが面倒くさかったりします。でも、素直な気持ちでぶつかっていけばいつか思いを汲んでもらえる時がくるものです。常に信念を持って押し通せばよいと思います。ただ、これまでの会社を築いてきた先代に感謝の気持ちだけは忘れないようにしてください。その気持ちを持たないままでぶつかってしまうと会社が在らぬ方向へと行ってしまいますので、そこだけは気を付けてください。
林氏
林氏
ゴードン
ゴードン
ありがとうございました。

 


【鳥取】

株式会社鳥取メカシステム    https://torimeka.jp/

代表取締役社長 林 正太郎 氏


 

■取材した人

ゴードン/編集長

家業である和紙卸問屋で4代目候補として8年従事。
アトツギの苦悩を誰よりも理解していることから、孤軍奮闘するアトツギに感情移入しがち。関西大学「ガチンコアトツギゼミ」非常勤講師。

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