モノづくりで世界を豊かに/地場産業に自信と誇りと持って文化を創る

株式会社tet.(テト)ブランドマネージャー
松下 文 氏

https://te-t.jp

香川県東かがわ市出身。家業は創業70年の文房具・オフィス機器販売。大学進学後、大手家電メーカーに入社し、営業や企画を経験。2015年に香川へUターン後、家業にそのまま入るのではなく、東かがわ市の地場産業である手袋産業の魅力を伝え発信するtet.事業をスタート。2018年に法人化し、代表を務める夫と日々奮闘中。家業の社屋内にオフィスを設け、tet.を運営しながら、家業との連携・両立をめざす。

■話を聞いた人

株式会社サンテック 代表取締役
青木 大海 氏

http://www.suntech.link/

1982年岡山県生まれ。米大使館商務部と外資証券会社(リーマンブラザーズ)を経て家業に入り、2013年、株式会社サンテック二代目社長に就任。プラント設備機器の設計・製作を得意とする「日本のモノづくりで国際社会をより豊かにするShokunin集団」として、日本国内にとどまらず海外展開も積極的に進める。

■話を聞いた人

株式会社コンテンツクルー 代表取締役/有限会社藤田酒店 店主
藤田 圭一郎氏

1985年岡山県岡山市生まれ。家業である業務用酒販業を営む傍で2015年に株式会社コンテンツクルーを設立。 飲食店向けのポータルサイトや、オリジナルラベルのお酒ギフトサービス「スナップリカーシリーズ」等、酒販業に関連するWEBサービス、アプリの開発運営を行う。起業体験イベント「Startup Weekend 岡山」や岡山ベースとしたスタートアップコミュニティ「STARTUP KINGDOM」の主宰を通じて、岡山にスタートアップの文化を根付かせる為の活動を行っている。2019年8月より岡山市が運営するスタートアップ支援拠点「ももたろう・スタートアップカフェ」のコーディネーターに着任。

アトツギたちのトークイベント「アトツギこそイノベーターであれ!in香川」が2020年11月1日に開催された。

ゲストは、株式会社サンテックの青木大海代表取締役社長と、株式会社tet.の松下文ブランドマネージャー。アメリカ大使館商務部やリーマンブラザーズ証券会社勤務から畑違いの製造業の会社を継いだ青木氏と、地場産業である手袋をブランディングする会社を立ち上げた松下氏の想いとは……?

モデレーターは自身も岡山の藤田酒店のアトツギであり起業家でもあるコンテンツクルーの藤田氏だ。

 

【主催】中小企業庁、事業継承ネットワーク全国事務局(野村證券)

【運営】一般社団法人ベンチャー型事業承継)

輝かしい経歴のエリートが、親父に怒られまくる!

藤田氏
藤田氏
では、自己紹介からお願いします。

アトツギの皆さん、頑張って「継栄」(後述)してますか~(笑)?

僕はサンテックという会社で製造業をしています。

 

ヒストリーを辿ると、岡山県の総社市に生まれて、普通の田舎で育ったんですが、両親の仲がすごく悪くて小学生の時に離婚しています。

 

特にグレるとかはなく、高校生の時にYMCAのプログラムに応募してアメリカのアーカンソー州のスクールに行きました。その時は、どんな世界なのかを見たいだけで飛び込んだみたいなところがあった。

 

そして、行ってみたら、そこのホストファミリーも夫婦仲が悪くて、お母さんを部屋にかくまっていたら、酔ったお父さんが銃を持って入ってきて、頭に銃を突き付けられたのが17歳の時。いや、あれは実際やられたらハンパないよ。そういう意味では、あの時に生き延びてるから、経営者になってからもいろいろあったけど何にも怖くない(笑)。

 

アメリカのテンプル大学国際関係学部を卒業後、アメリカ大使館商務部に勤務しマーケティングを勉強していました。そのあとリーマンブラザーズ証券に誘われて、仕事のし過ぎと寝不足で1年のうちに3回入院。2008年にまさかのリーマンショックがあって、香川県に戻って親父の会社を継ぎました。

青木氏
青木氏

 

藤田氏
藤田氏
東京でバリバリ働いていたのに、香川へ戻ってきた理由は? 

確かに、当時は経営コンサルで東京に残ろうかとも思ったわけよ。自分としては夢が国連環境計画で、「経済と環境の両立を」というのが最終的なゴールだったから。

 

その中で、いったん香川に戻って会社見た時に、職人たちが環境機器というか、ステンレスの塊造ってるのよ。最初はバイトで入ってたんだけど、親父が言うわけ。「うちだって地球の環境に影響する機器造っとる。お前はアカデミックな文章書いてるだけだろう?実際にやっているのはこういうことなんだぞ」と。なるほどねと思った。それがキッカケ。

 

もう1つは親友だったジェイソンに「俺だって会社立ち上げたいけど、できないからコンサルで勉強しているんだ。お前は会社があるじゃないか。コンサルなんて提案しかできないのに、会社をもてば提案どころか実行できるんだから、そっち行ったほうがいい」って、そう言われて。そうね、わかった、そんならとりあえず行ってみようかと戻ってきた。

青木氏
青木氏
藤田氏
藤田氏

畑違いの職場で、最初は大変だったんじゃないですか?

いろいろあったよ。オートマしか運転できなかったのに、4トントラックで納品させられて、一発目にお客さんの会社のシャッターぶち壊した。お客さんにボロクソに怒られたし、親父にもさんざん怒られた。お客さんからせっかく貰えた仕事の機械の図面なくしたり。これもどんだけ怒られたか……。

青木氏
青木氏

 

 

 

 

 

地場産業の手袋は日本一! そんな手袋をブランディング

藤田氏
藤田氏
面白い~(笑)。いろいろ聞きたいですが、次は松下さん、お願いします。

私は香川県の東かがわ市で育って、大学進学を機に県外へ出て、大手家電メーカーに入社しました。実家はオフィス機器とかコピー機、備品、文房具なんかを売っている会社で、いつか帰って来たいなぁとは思っていました。

 

それとは別に、東かがわ市は地場産業の手袋が日本一の産地なんで、それを県外に発信したいなと思い始めて。家業とは別の形で会社を立ち上げて、今は実家の会社の隣で「tet.(テト)」っていう会社をやっています。

松下氏
松下氏

 

藤田氏
藤田氏
じゃあ、家業をそのまま継いだというスタイルではないんですね。会社を立ち上げた経緯は?

県外にいた時にずっと思っていたのが、皆さんも故郷に対する愛情みたいなの多少あるとは思うんですけど、「自分の町は手袋の生産で日本一なんですよね」みたいなことを県外で出会う人に言っても知られていなくて。香川県で知られているのはうどんくらいだから、悔しいなというのがぼんやりとありました。

 

そんな時、愛媛県に地場産業をブランディングしている会社があって、そこの方が「香川県に手袋の町があるらしい。これ、知られてないんやったら、ブランド化してみたら面白いんじゃない?」みたいな話があったんですね。

 

それで、姉も含めて人づてにご縁があって、姉も私も実家にいつか帰りたいなと思っていた時ではあったので、「これは我が町の事業になるかもしれないんだったら、どっちかがやったほうがええんちゃうかな」みたいになって。そしたら「私がまず先に帰ります」と、そういう形で始めました。

松下氏
松下氏
青木氏
青木氏
「テト」って自分でつけたの?どういう意味?

手袋って手にまつわるものというか、自分の手につけるものなので、「手と“何か”」「手&○○」いう意味です。

 

東かがわ市は日本の手袋の9割を造っていると言われているんです。それを知ると、もっと我が町に自信を持つ若い人たちが増えるとか、もっとものづくりに従事したいと思う人が増えるとか、そういうイメージがもっともっと広まればいいなと思ってやっています。

 

私自身は手袋メーカーではなく、あらゆるジャンルのメーカーさんがパートナーで、いろんな手袋、いろんな技術をピックアップさせていただいて、こういうところがすごいなと私たちが思う、その視点で編集して、商品を出す、ブランディングの仕事をしています。

松下氏
松下氏

 

 

 

納期延長のOKはもらえたけど……、資金繰りの大事さを実感

藤田氏
藤田氏
今回は「承継した事業をベースにした挑戦」がテーマのトークセッションなんですが、まずはアトツギとして入社して、今の事業が飛躍的に伸びたきっかけやターニングポイントをお聞きしたいです。

うちはもともとプラント機器を造ってきた会社で、不織布を造る機械とか、食品メーカーの配合タンクなんかを造ってます。あとは、タッチパネルの薄い膜をコーティングする機械とか……、基本的に皆さんが普段見ないものばかり。陰で支える仕事だね。

 

そういう既存の事業をベースにして新しいことやるのも大事だけど、単純に僕みたいに全く今まで経験していなかった人間がいろいろ言っても、「何言ってるねん。トラックで納品もできないくせに」と言われてしまうので(笑)、まずは、一緒にいるスタッフの信頼を勝ち取ることから始めるべきだと思う。それは、僕が失敗したから。

 

仕事を取るのは得意だったけど、工場がキャパオーバーになってしまったことがあって。親父は売上伸びるから喜ぶけど、現場はそうじゃない。それで納期交渉して、お客さんが2、3週間延ばすのをOKしてくれた。「やった!自分の職人たちを守った!」と思ったんだけど、また親父に怒られた。

 

なんでやと思う?大きい案件だったから、通常、末締めの翌月末払いだったのが1ヶ月延びた。それも何億と。「お前の給料は今月は渡さん。全社員のリスク、給料、資金繰りを悪化させた」と怒られて、その時に資金繰りの大事さを学んだ。

青木氏
青木氏

 

藤田氏
藤田氏
そういうことを踏まえて、今の挑戦がある?
今の挑戦って言っても、基本的にその根本的な経営の上で、いろいろさせてもらっているという感じ。海外のやりとりが多い人間だったから、単純に「既存のビジネスを海外でもやろう」ということで、ミャンマー、中国、モロッコでものづくりをしている。闘う地域をチェンジした、くらいな感覚ですね。
青木氏
青木氏

 

 

 

 

人は磨けば光る原石! 成長できる仕組みを作ることが大事

うちは立ち上げてから5シーズン目なので若い会社ですけど、ここがターニングポイントというより、その都度、出会う人たちが運を運んできてくれたような気がします。だから、誠実に、誠意をもって接することをずっと意識してます。

 

あとは、ダメそうなこともダメもとでアプローチする。臆することなく、とにかくやってみようと思ってやっていると、向こうから言ってくださる、ということがあったり。

今も一緒に働いている人たちって、いろんな人が紹介してくださったんです。自分で切り開いたということがあまりなくて……。あれ?これで答えになってます?(笑)

松下氏
松下氏

 

藤田氏
藤田氏

そういう返答を求めてました(笑)。

じゃあ、今、新しい事業を展開、拡大されている中で、大変だったことみたいなのを教えてください。僕もアトツギとして大変だったことがあって、親との関係もそうですし、今は採用に関して困っていたりするので。お二人は何かありますか。

僕は社員とのコミュニケーションかな。こうしたいと言うんだけど、自分が育ってきたステージ、世界が職人さんたちとは違うから、受け入れてもらうのに時間がかかった。「それって何のため?誰のためにしてんの?」みたいに言われて。
青木氏
青木氏
私は正式に両親の会社には入っていないんですけど、自分の会社の中で大変だったことは、人に理解してもらってやる気になってもらう、楽しいと思ってもらう、この人たちのためならしっかり動こうと思ってもらう環境とか、指針を示さないといけないことかな。チームの意思を統一させるみたいなことですね。
松下氏
松下氏
藤田氏
藤田氏
採用に関する問題はないですか?人が来ないということでもいいですし、求めているレベルの人材が来ないということでも。
どんな人間が来ても、「自分の会社に来たら成長できる仕組み」を作ることが大事。人は磨けば光る原石だから、その人のどこにフォーカスしたら成長するかを考える。相手をどうこう言うよりも、どんな人間が来ても受け入れるくらいの器で面接すると、かなりヒットしますよ。
青木氏
青木氏
藤田氏
藤田氏
……なんか、怒られた気がする(笑)。

私も父から同じようなことを言われていました。社員さんが育つのに10年は見なさいと。1、2年働いただけでここができないなというところがあったら、こっちが学ばせてもらっていると思いなさいと言われています。

松下氏
松下氏
藤田氏
藤田氏
勉強になりました。なんか僕が薄っぺらい人間というのが暴露されていっていますよね(笑)。ところで、周りに野心家のアトツギの方っています?
そういうのは自分から発信しないと寄ってこない。いろんな会とかあると思うけど、自分が考えていることを言葉や行動にして出してると、必ず引っかかる人は出てくる。たくさん発信している人ほど、その琴線に触れる人も出てくるよね。
青木氏
青木氏

 

 

 

 

アトツギは「守破離」の思想が大事?!

藤田氏
藤田氏
では、ここで見ている方からの質問です。「アトツギならではの悩みってありますか?」
アトツギは親父に相談できないんだよね。比べられるからね。社員もそうで、「親父はこんなふうにやってたけど、お前わかってないやん」みたいに思われるから、相談を誰にしていいかわからないというのが大きいんじゃないかな。常に比べられてしまう。だから、アトツギという同じ境遇のメンバーで語り合うのはいいと思うよ。
青木氏
青木氏
私は父に相談するんですよ。相談して、「たいした悩みじゃなかったな、明日からまた頑張ろう」となるんです。父とは比べられることもあるけど、性別が違うのは得しているかも。違う人間なんだから違って当然でしょ、という感じでいるので。
松下氏
松下氏
藤田氏
藤田氏
質問は「アトツギならではの悩み」なんですけど、あんまりなさそうですね(笑)。
ありました!残されてきたものを壊しちゃうとどうしようというのはずっと恐怖。悩みというか、その怖さがずっとありますね。そういう責任感みたいなのは皆さんあるのでは?
松下氏
松下氏
藤田氏
藤田氏
イノベーション起こす時に、今あるものがないがしろになったり、破壊しないといけなかったり、という恐怖ですよね。なるほど。

「守破離」と同じじゃない?守って、ちょいちょい破って、離れていく。破壊って大事だと思うよ、やっぱり。でも、まずは「守」をやる。

青木氏
青木氏

 

「守」をやらないと、「破」ができないってことですね。
松下氏
松下氏
藤田氏
藤田氏
アトツギのピッチ大会に、もしお二人がピッチに参戦するなら、どのようなテーマでやりますか?こんなリソースを使うというのでもいいです。

たまたまインタビューされた時に、テトを通してやりたいことを話していたら、「文化を創りたいんだね。いい文化として根付くような、そこに未来を持っていきたいんだよね」と言われて。うちの家業も「文化的な暮らしを地域に提供したい」というのを掲げていたので、共通のテーマがあったと気づいたんです。

 

文化というのは教育にも関わっているんだと思っていて、文房具や学校教材もからめて、テトも絡めて、いずれ教育事業みたいなのをやれたらという想いはあります。

松下氏
松下氏

僕は今チャドとやりとりしているところなんだけど、いろんな海外の国にオンラインを通じた教育をできればと思っている。そういった挑戦って大事だと思う。ネバーストップチャレンジの精神。

 

投資やマインドも「ここ越えると戻ってこられない」というギリギリのラインがあると思うので、それよりも前ならバンバンやったらいいと思う。とにかく「こうしたいな」と思うことがあるなら、行動することが大事。

青木氏
青木氏

 

 

 

 

代々残してくれたものに感謝を! そして後悔しない選択を!

藤田氏
藤田氏
最後にアトツギへのエールをお願いします。

行動することは大事ですよね。私も戦略的にどうかなとか考え始めると、ダメな理由が出てきてしまうんですけど、不自由そうだな、面倒そうだなとか、いろいろ出てきても、やってみたいなと少しでも思っているなら、真正面からやってみればいいと思います。

 

後悔しない選択のほうが、人生が楽しい気がするので、ちょっとでもやりたいなと思っているのならぜひ行動してください。

松下氏
松下氏

「経営」って、僕は“継続的に栄える”という意味で「継栄」と書いているんです。「継栄」のために大事なのは人。

 

そして、アトツギの皆さんの両親やその前の代々の人たちが一生懸命残してくれた想いというものを継続していってほしいと思う。新しいことやるのもいいけど、「水を飲む時にその井戸を掘った人の苦労を思い出せ」っていうこと。

 

アトツギも社長も「ならさせていただいた」みたいな気持ちで、社員、お客さん、協力会社のおかげで、今の自分があることを忘れないでほしい。その立場にいるだけでどれほど幸せか。その感謝の想いを持って後を継いでほしいと思います。

青木氏
青木氏

 

 


 

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