技術も、数字も、可視化で生まれる好循環。ニーズに応えて「他にない」を作り続ける

斎藤塗料株式会社 取締役  営業部長 菅 彰浩 氏

「技術力という強みを活かして“尖った商品”を」。昭和2年創業の塗料メーカー、斎藤塗料株式会社の5代目で、取締役 営業部長の菅氏は漠然とそう考えていたという。家業に入って3年目、新たに手掛けた『ウレヒーロー』は、柔軟性、伸縮性に特化した“伸びる塗料”。工業用だけでなく、ホビー用塗料としてもSNSで話題になり一般向けにも販売、汎用性のある商品になった。「とにかく行動するタイプ」という菅氏が社内の業務改革を進める中で抱える葛藤、未来への想いなどを聞いた。

 

培ってきた技術が、共有できない

Q 事業の内容を教えてください。

A パソコンやカーナビなど工業製品向けに業務用塗料を製造しています。

特に「プライマー」と呼ばれる下塗り用の塗料が中心で、金属との密着性や防錆の性能など、色というよりは機能面で評価いただいています。実は下塗り用塗料ってわりとざっくりした色で、全てに共通で使える。開発には技術力が問われますが、そこをしっかりすれば、シビアな調色が必要な上塗り用塗料と違って、製造は検査も含めて工程がシンプルなんです。最初に考えた人は賢いなと。会社は創業97年目になりますが、途中からプライマーに着目して成長したと聞いてます。その他、「特殊塗料」という分野で柔軟性のある塗料や造形物に使われるような塗料も製造販売しています。

 

Q 社内ではどのような役割を?

A 営業、技術、業務改革など様々な分野のまとめ役をしています。

技術開発してどんな製品を作っていくのかということは、当然、売り上げの責任者という立場としても非常に重要なので、営業部長をしながら、技術部長もしています。それ以外にも採用や人事制度の導入に向けた動き、特に大きいのが生産現場での効率的な作業の標準化といった業務改革のまとめ役もしています。

 

Q 生産現場で“作業の標準化”が必要な背景は?

A  今は職人の技で、いわゆる“勘”に頼っているんです。

料理と一緒で、塗料を作るのも基本的には原料をレシピ通りに入れるのですが、機械の使い方、入れる順番、気温や季節に合わせたノウハウがあります。できた塗料は、調色をするのですが、それは職人の経験と技術に頼っていて。難しい技術だけに職人の育成コストも非常に高いので、配合の正確なデータを取ったり、若手を中心に職人技を言語化したりして、いわゆる素人にもできる作業フローに変えていくような改革を進めています。実際はかなり難しいんですけど、作業の標準化ができれば、採用のハードルを下げることにもつながると思います。

 

Q 家業に入ることになったきっかけは?

A はっきりとは覚えていませんが、父の会社を継いだ母を「助けなきゃ」と思ってました。

大学4年生の時に父が急死し、当時兄も学生で、専業主婦をしていた母がピンチヒッターで継ぐしかなかった。元気だった母親が、しんどそうなのを見ていました。確か自分が新卒として別の会社に就職した頃、母親に「30歳になるまでに帰るかどうか決めてほしい」と言われて。悩みつつ、とにかく「最先端の業界で何か身につけなきゃ」と、転職もしながら畑違いの業界で働いていました。正直、先のことを考えないようにしてた気もします。でもどこかで「母を助けなきゃ」という思いはあって、32歳のタイミングで東京から妻や子どもと一緒に帰ってきました。母は「もう帰ってこないと思っていた」とびっくりしていましたが(笑)

 

予想していなかった「意外な使いみち」から広がった

Q 何がきっかけで“新しい取り組み”をすることに?

A  会社に入ってまず、どんぶり勘定的になっていた“商品の数値化”をしたんです。

商品群を分けて、この商品は実際どれぐらいの利益率を出しているのかなど細かく数値化しました。すると限られた工場のキャパシティで、この商品群ばっかり作ってるとだんだん右肩下がりになるなど、経営的な数字として見えてきた。だから、商品構成を変えて、ニッチでも他社にないような製品を作って利益商品として販売しなければと考えました。そんなきっかけで生まれた商品の1つが「ウレヒーロー」なんです。

 

Q 当初からホビー用として一般販売の予定だったのでしょうか。

A  出発は、印刷機の“紙送り部分のゴムパーツ”をコーティングする工業用塗料でした。

「工業用塗料メーカーのこの性能を見て」とSNSを活用してPRした時に、ホビー系のお客さまからの「これ、ひょっとしてフィギュアに塗れないかな」という発信が、たまたま少しバズッたんです。それがきっかけで一般販売での手応えを感じました。希少な伸びる塗料の中で、いろんな色があるのは面白いところかなと。あと伸びるものは基本的に少しベタつくのですが、ウレヒーローは、表面は硬いのに伸びる。技術力が汎用性を高めるきっかけになっていると思います。

 

Q 実は「ウレヒーロー」、なかなか世間に認知されなかったそうですね。

A  SNSだけだと広がらず、売るまでが本当に大変でした。

「いい塗料ができたな」と思っても、そのすごさがなかなか伝わらない。お客さまからの発信に火がついたという「たまたま…」がなかったら、まだPRに苦労している可能性もあります。通常の業務をしながら「ウレヒーロー」を進めていたこともあり、自分も含めて携わった全員に工数的な負荷が結構かかってしまった。そこはもっと人を割いてやるべきだったかもしれないという反省もあります。

 

「これまで」は大切、でも囚われることはない

Q 歴史ある塗料メーカーとして、長く愛されている主力商品もあると思いますが。

A 実は売り上げのメインになっているのが “赤字商品”なんです。

赤字商品を上回る利益を残せるくらい「ウレヒーロー」など他の商品も成長させないと、製造はやめられないと考えています。一方でこれまでのお客さんにとっては「なくなると困る商品」だと思うので、やめる判断がすごく難しいんです。でも今の工場で全てを作り続けるには限界がある。会社もお客さんも含めて何がベストなのか、答えを出さないといけないと思っています。

 

Q 新たな取り組みなど“変化”に対する社内での反応はいかがでしたか?

A よくあるベテラン社員の反対…とかはなく、前向きに捉えてくれていました。

商品の数値化や業務改革も、良いと思ったらもう衝突する前にやってしまうという感じです。実は過去に、社長も業務改革しようとして周りと衝突、断念していて。仲間もいない中で難しかったと思います。自分は現場にも入れるんで、若い人からどんどん動かしていくみたいなやり方をしています。アトツギ仲間からよく言われるのは“信長”タイプ、ビジョンとか考えるのは苦手で、とにかく行動するみたいな。社長は、これまでのやり方や人にリスペクトしつつもこだわらず、むしろ今の方が大事という考えなので、自分も今や未来の展開を重視しています。

 

Q 『第2回アトツギ甲子園』に出場されたそうですね。

A アトツギ仲間に「お前何してんねん、何で出ないんや!」と言われて。

「ウレヒーロー」が話題になって、インターネットではなく実店舗で売りたいと販路探しに苦労していました。そんな時だったので、アトツギ仲間から「ウレヒーローをいつ爆発させるつもりなんや」と背中を押されて。「わかりました」と飲んだ後のカレー屋でエントリーしました(笑)

 

Q  優秀賞を受賞されましたが、その後の影響は?

A メディアやテレビで取り上げられて、知名度はすごく上がりました。

採用の場面でも取材記事など読んでくれている人が多く、採用が難しい中で、商品名の広がりから応募数が増えたのは助かっています。でも一番大きかったのは、社内の雰囲気、モチベーションの大きな変化です。みんながリアルタイムで『アトツギ甲子園』の発表を見てくれていました。以降、業務改革で少し足踏みしているところに突破口を開いてくれる社員が出てきたり、「ついていきます」と言ってもらったり、自分のモチベーションも変わって。すごく緊張しましたが(笑)、本当に出てよかったです。

 

「世の中を良くする」という大きなビジョンを持って

Q 「ウレヒーロー」の販売をきっかけに技術力が認知されて、“お客さまの困りごと”が寄せられるようになったそうですね。

A 困りごとは、ニーズの種もしくは塊だと思っています。

そこを解決できる塗料メーカーとして、今後も事業を大きくしていきたいなと。そのために、少量多品種なものを作りきる生産体制と技術力をもっと身につける必要があります。ただ技術力はすぐに育つものではないので、作業の標準化を進めつつ、早めに若い人を採用して経験を積み重ねていくような循環に。そういう意味で採用も非常に重要になってくると思います。

 

Q 海外のメーカーとも話をすることが増えたようですね。

A 彼らの「絶対に実現するんだ」という熱量の高さを感じます。

自分たちも同じだなと。熱量を持って作った塗料は、そうでないものとは全然違うと思うんです。結果、お客さまから「斎藤塗料って技術力あるよね」と言っていただける。それはどの代になっても引き継いでいきたいし、他にはない“よい製品”を作っている会社だと言われ続けたいですね。そのためにも中小企業は「人」なんだと改めて感じていて、先代からの「人を大切に」ということや、小さい頃から父親に言われてきた「謙虚であること」も忘れず受け継いでいきたいです。

 

Q アトツギのみなさんへメッセージをお願いします。

A 「トライ、トライ、トライ」。もうやるしかないと思うんです。

会社をもし変えたければ、自分が変えるしかないし、今を維持したいんだったら、それも自分にしか選択することができない。アトツギはとにかく自分が決めてやるしかないと思っています。個人の願望はあんまりないんですよね。会社が、みんなが幸せになるために、これからも自分にしかできないことを探して、どんどんやっていくつもりです。

 

(文・松本理恵/写真・中山かなえ)

 

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