拡声器の技術を生かしてブランディング。B to BからB to Cへの挑戦

株式会社ノボル電機 代表取締役社長 猪奥元基氏

拡声器メーカーとして75年の歴史をもつノボル電機。国内の拡声器市場の衰退をきっかけにB to C向けの商品開発に挑戦し、「不器用なガジェット」をコンセプトにした新ブランド「ノボル電機製作所」を立ち上げた。拡声器の技術を生かした昭和レトロな商品は新たな市場で支持されている。現在はさらなる商品の拡充に努めつつ、これまでのB to B事業との両輪で走り続けている。また、海外輸出にもチャレンジ中だ。

 

陸上自衛隊を辞め、家族会議で入社を決意

 家業に入ったきっかけを教えてください。

 実家に帰省した時、姉弟4人集められて家族会議が行われたんです。

実家(奈良市)と工場(大阪府交野市)が離れていたこともあり、家業のことは意識することもなく育ちました。私は長男でしたが、特に後継者として進むべき道を求められることもなく、京都外国語大学でフランス語を専攻したり、陸上自衛隊に入隊したりという人生を送っていました。

家業はリーダーシップのある姉か、頭の良い弟が継ぐものだと思い込んでいましたので、「4人のうち誰か1人が入社すること、その取りまとめを長男である元基(私)がすること」と父親から言われた時はびっくりしましたね。まさに青天の霹靂です。

 入社することに葛藤はなかったのですか。

 なかったですね。姉弟の意向を聞き、誰もやらないというので手を挙げました。

これまでの27年間自由に生きさせてもらっていたので、求められる役割を全うしたいとも思いました。それに、祖父と父の背中を見て育ってきましたから、心のどこかでは同じ道を歩みたい、同じ土俵に立ちたいという気持ちもあったのかもしれません。ですから、入社は強要されたのではなく「自分で決めた」と思っています。

 

B to C向け「拡声器型のスマホ用無電源スピーカー」を開発

 先代の経営資源を活用しながら、B to C事業に挑戦することになった背景は。

 業務用拡声音響装置という既存事業だけでは将来が見通せなくなったため、新規事業を試行錯誤していました。

ハンド型防水メガホン「かる~いホン」や多言語放送装置「外国語しゃべ~るホン」、ピストル音機能搭載の「スターターメガホン」、「スマホ拡声ホン」など拡声器の技術と販路を使った新製品を立て続けにリリースしましたが、メガホン市場衰退のスピードは早く、経営は厳しくなっていきました。

その時期は経営戦略の本なども読みあさりましたがどうにもならず、先代と2人で自社の経営資源と強みを洗い出して再確認してみたんです。それが「国内市場に根を張って運営してきたこと」と「拡声器という単一商品を他分野に展開していく『市場開拓戦略』を取り続けてきたこと」でした。

そこで、基本戦略は守りながらも、時代に合わせて変化すべきところを革新していくためには、「同じ市場・横の市場にばかりに目を向けていても成長できない」と思い、B to BからB to C市場への参入を図ろうとしたんです。

 B to Cへの挑戦は社内ですぐに受け入れられましたか?

 実績もないのに無理だろうと、反対の声が多かったです。

そんな時に大阪産創館のB to C化伴走型支援事業の「大阪商品計画」を知り、応募して採択されたらやらせてほしいと言ったんです。それで採択していただいたのが、スマートフォンを差し込んで使う拡声器型のスマホ用無電源スピーカーでした。音が大きくなるというより、音質が変わってノスタルジックな音になるのが面白いと言ってもらえたので、この商品でスタートしました。

結果的にクラウドファンディングで192人の方に購入していただいたことが自信になりました。少しずつ社内を説得しながら、小さな成功を積み重ねて今に至っている感じですね。

 

自社の強みを生かし、昭和レトロ調のブランディングで勝負

 その過程で苦労したことや葛藤したことなどは。

 ブランドコンセプトを決めるのに苦労しましたね。

当初は北欧調のおしゃれなイメージで進めたかったのですが、自分たちが勝負できるのは「音」だということ、そして業務用のデザインが「カッコいい」ということをアドバイザーさんに教えていただきました。

参考になる小売店を紹介していただいたのも良い気づきになりましたね。歴史のある「本物」と、流行りを追いかけて「なんちゃって」でやっているのとは違う。自分たちが北欧調のおしゃれな製品を作っても勝負できないとわかりました。

紆余曲折ありましたが、最終的にアドバイザーさんに提案された「昭和レトロ調」でいこうと決め、「不器用なガジェット」というブランドコンセプトが完成し、B to C向け新ブランド「ノボル電機製作所」を立ち上げることができました。

 「ノボル電機製作所」の特長は。

 「流行りの昭和レトロに乗っかる」のではなく、今まで自分たちが提供してきた商品をリブランディングすることで、「お客様に懐かしさと癒しを感じていただく」というのがねらいです。

これなら、根本は自社の設計力やプロダクトデザインを踏襲していけるので、無理なく取り組めると考えました。とはいえ、実際は、デザイナーと何度もやり取りした上でも、いざ立体の試作品を見せると、新たなデザインのこだわりが出てきました。やはりデザイナーの意見を反映すると見栄え良く仕上がるのですが、デザインに技術を合わせていくのに苦労はしましたね。

 

保守的に、小さく挑戦・小さく成長を繰り返す

Q その後の事業展開について具体的に教えてください。

 6月に「コンパクトオーディオ “スタックアンプ”」をリリースしました。

こちらは、拡声器メーカーとして培ってきた「アンプ」+「スピーカー」をホームオーディオとして商品化したものです。

商品開発によるラインナップの拡充と並行し、東京・代々木公園に隣接するショールームで物販を企画したり、場所自体をモノづくりの情報発信拠点のコミュニティー的な役割で育てていけないか模索したりしています。オンライン・オフラインの両面で、B to C事業化を進めていきたいと思っています。

また、会長(先代)を中心にした「大阪共創ビジネスプログラム(OCBP)」を起点とした情報分野へ参入。さらに、営業部長を中心として「中小機構の専門家継続派遣事業」を起点とした既存得意先へのプラスワン活動も展開しています。これは拡声以外の組み立てや社外品を拡販する地上戦です。

そして、本年度から取り組んでいるのが海外販路開拓です。以前挑戦してあきらめていたのですが、中小企業庁の「新規輸出 1 万者支援プログラム」を知ったことで再チャレンジを模索。行政の各種政策が充実していることもあり、大阪産業局さんの門を叩きました。今は既に大きな市場がある「モスク向けの拡声器」と言う切り口で、海外へ販路が開拓できないか再度チャレンジしています。

 

Q 今後、どんな会社を目指していますか?

A 拡声器メーカーとして異端を進むことで、独自路線を歩む会社になりたいです。

拡声(B to B)事業も製作所(B to C)事業にも共通して言えることですが、差別化された商品提供を通じて、お客様になくてはならない存在になり、会社規模は小さくても、痒いところに手の届く・世の中にないと困る会社になりたいです。

当社は保守的な社風を是としています。保守的というとマイナスなイメージを浮かべることもありますが、拡声器という特殊な品目の場合、15年前の商品と同じものがほしいと注文されることも多々あります。時代が変わっても変わらない経営の土台となるニーズはしっかり守った上で、シェアの拡大や新たな販路の模索、既存商品のデザインの改善など、新たなことを積み重ねていきたいです。保守的に、小さく挑戦・小さく成長を繰り返していきたいですね。

 

先代から引き継ぎ、自分でその先のレールを作る

 先代から引き継いだもの、次の代の経営者に引き継いでいきたいものは何ですか?

 挑戦と堅実という二つの社風を守り、引き継いでいきたいです。

当社は業界最小規模の会社です。挑戦し続けないと大手に摺りつぶされてしまいます。当社社歴は、大手が目を付けない市場の細分化と差別化をし続けてきた挑戦の歴史です。反面、75年変わらない形である拡声器を提供し続ける堅実性を持ち合わせた会社でもありますから。

 後輩アトツギにメッセージをお願いします

 自分で作ったレールを歩いていこう、ということです。

アトツギは起業とは違う特性があります。親族内承継をするということは、ある種、親の敷いたレールを走ることでもありますが、そのレールはずっと続いているわけではなく、その先は自分自身で作っていかなければなりません。

家業を継ぐことはやりがいだけでなく悔しさも味わいますし、常に判断がつきまとうため、刺激になることばかりです。ただ、いろんな苦労を差し引いても、やっぱり楽しさが勝ちます。家業を継ぐ方には胸を張って、自分で作ったレールを歩いていってほしいです。

(文・山王かおり)

 

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