【A1000/オープニングセッション】はじまりから1ミリも変わらない アトツギ、そして未来への思い
何もなかった4年前。けれどもビジョンだけは明確なものがあった
【山野】本日は、暑い中お集まりいただいて本当にありがとうございます。ちょうど4年前のきょう6月25日、われわれは記者会見を行い、社団の発足を発表いたしまして、そして迷走の日々が始まりました。社団は、私が勢いだけで立ち上げたようなものです。勢いだけでジャック(株式会社大都 代表取締役社長 山田 岳人氏)、中山さん(株式会社マクアケ 代表取締役社長 中山 亮太郎氏)に声をかけ、まさかの「いいよ」というお返事をいただけましたが、ペンペン草も生えないような何もないところから始まっています。
でも、ビジョンだけはあったんです。こうして4年が過ぎたいまも、その思いは1ミリも変わっていません。若いアトツギが胸を張って地元に戻り、家業を継いで、新しいことをやる。そんな世の中を作りたいと強く思い続け、走り続けています。
オンラインコミュニティも、皆さんのようなアトツギのことを世の中に伝えていきたいと思いながら運営してまいりました。新たに若い人たちも、皆さんを追いかけて参加するようになっています。そういう意味で、皆さんのおかげでここまで来ることができました。世の中も変わっていて、アトツギに対する期待値もだんだん上がってきていると感じています。
とはいえ、できることはいまだにとても少ないですね。ファミリービジネス承継に特有の生々しい課題は浮き彫りになるのですが、なかなか解決策は出てきません。アトツギを盛り上げる流れが社会にできている中で、私たちがこれまでと同じことをやっていてはだめだと思っています。
創業当時のメンバーは、まだなんだかよく分からない団体の中で、しかも私は途中で大病を患っていた時期もあってリーダーも司令塔もいない、しかも新型コロナウイルスの流行が始まる……それでも、皆さん本当に頑張ってくれました。大手企業から飛び込んでくれた人もいたんですよ。いつまでも同じことをやっていては、創業期を支えてくれていた彼らに申し訳が立ちません。
【山田】そうですね、僕たち自身も成長しなければいけないと思います。先ほど、記者会見した時の写真が写りましたね。一番右にfreeeの佐々木さんが写っていました。一緒に社団を立ち上げた時は、佐々木さんも誰も上場していなかったけれど、その直後にMakuakeさんが上場して、なんと次の日にfreeeさんも上場しました。アトツギサロンでメンターをされている方々の中から、5人ぐらいが『カンブリア宮殿』にも出演しました。そうやって楽しみながら、アトツギだけではなく僕たちメンター同士でもコラボレーションが生まれたり、ナレッジを共有したりしてやってきて、皆さんのおかげでここまで成長することができました。今後もどんどん成長していきたいです。
今回は、影響力の大きいアトツギ(コミュニティメンバー)もスタッフとしてたくさんいらっしゃっていますが、自分たちは追い越されるんじゃないかと思わせる皆さんです。
世の中がアトツギに気づき始めた
【山野】4年が経って、皆さんはすごく変わっていきました。オンラインサロンもとても活発になりました。やる気に満ちた方はどこからでもバリバリ参加していて、特に新型コロナ流行下で、そういう方はすごく増えました。いまは、地理的なハンデなんてないですね。
【山田】地域に関係なくコミュニケーションが取れるようになったのは、間違いなくあるよね。
【山野】コミュニケーションに関しては本当になんでもやりましたね。Makuakeをデビュー戦みたいな位置付けで利用するアトツギが多いと思うんですが、中山さん、この数年で何か変化はありましたか。
【中山】Makuakeに限らず、世の中の空気がこの4年間でかなり変わりましたね。僕は早くにアトツギ半端ないということに気づきましたが。実はMakuakeは運営が危うかった時期があったのですが、あるアトツギの会社様が使ってくださったときに、アトツギはマーケットに何百万社もいる存在だということに気づきました。
日本では、アトツギの力の大きさは半端ないんです。ただ悔しいことに、2018年当時は、メディアが光を当てていたのはだいたいスタートアップのベンチャー社長だったんですよね。スタートアップのベンチャー社長、大企業発ベンチャー、アトツギベンチャーこの3本に光が当たることにより日本はもっと良くなっていくと思います。なので、だんだんアトツギにも光が当たるようになって、メディアも彼らのチャレンジをどんどん取り上げるようになっていると思うので、未来につながる変革があった4年間だったと思っています。
【山野】そうですね、アトツギの人たちがクローズアップされて、若い人がどんどん前に出るチャンスが出てきたのがこの数年ですね。2018年に、Forbes Japanのスモール・ジャイアンツ・アワードの第1回目で三寺さん(ミツフジ株式会社代表取締役社長)がグランプリ、ジャックも二位をとったことも、だいぶ潮目を変えたんじゃないかと思っています。日経新聞が、スタートアップだけではなくアトツギも参加資格があるピッチイベントを開催するようになり、社会がアトツギに期待し始めていると感じますね。
アトツギは日本経済の動力源、だからカルチャーとして根付かせたい
【中山】冷静にまわりを見渡してみると、着ているものも履いているものも、フィジカルとして世の中に出ているものを作っているのは、創業者じゃなくて、二代目、三代目……といったアトツギです。言われると当たり前なんですが、今起業する人で「工場作ります」って人はいないんですよね。酒蔵などは八代目というアトツギもいて、世の中はアトツギでできているんですよ。世の中で素敵なチャレンジをしているのは、スタートアップのベンチャー企業だけではないのです。アトツギも、あるいは大企業発ベンチャーも同じです。
スタートアップのベンチャー企業、アトツギや既存産業によるベンチャー型事業、ソニーやパナソニックなどから出てくるような大企業発ベンチャー、この三つにしっかり光が当たることで、日本経済はもっと前に進んでいくと思っています。
【山野】「中小企業のスタートアップ」は単純な一つのカテゴリーではなくて、もっと中間領域がありますよね。アトツギ自体にもいろいろなスタイルがあっていいと思っています。私は、アトツギベンチャーという中間領域をカルチャーとして浸透させたいんですよ。そのためには、皆さんのような生きた事例がないと、世の中を説得できません。
今回掲げているA1000(エーサウザンド)というのは、1,000社のアトツギベンチャーを誕生させる、そのために何をしていくのかを探る、というものです。今日は、第2回アトツギ甲子園で最優秀賞に選ばれた株式会社ホリタの堀田さんにも来ていただいていますね。堀田さんのように世の中にどんどん発信してくださるアトツギもいらっしゃるので、もっともっとアトツギを育てたい、1,000人誕生させたいんです。皆さんが意見を発信すれば、国を説得できると思っております。
【中山】アトツギベンチャーというカルチャーは、世界にはそれほど存在していないと思っています。なので、アトツギカルチャーは類を見ないモデルケースになっていくのではないかと考えています。この先、世界もますます変わっていく中で、Japanから発信していけるものになるんじゃないかと思っています。聞いた話ですが、M&Aにおいて一番成功しやすいケースは、ファミリービジネスの会社を買収することだそうです。例えば創業者の孫などは、やはり踏ん張り方が違うらしいですよ。不思議な話ですけど、それまで孫がフラフラしていて赤字になっていたりしても、「責任を取れ、お前のおじいちゃんが作った会社だろう」と言うと、奮い立って覚醒するそうです。アトツギにまつわるこういったケースは、世界中からうらやましがられるのではないかと感じています。
【山田】確かにそうですね。今日は、北海道から沖縄までの各地域・各業界を代表するような会社から50人ぐらい集まってくださいまして、皆さんが聞いたことがある会社もたくさんあると思います。それが全員アトツギの会社なんですよね。
あとに続くアトツギに明るい未来を生きてほしい
【山田】世のアトツギの中には、たまたま継いだだけで、「こんなことやりたくない」と思いながら働いていた人もたくさんいるでしょう。それから、アトツギならではの不合理なこと、人間関係なども、合理的に考えるだけでは解決できないことはたくさんあるじゃないですか。そういったことを共有するのはアトツギならではですよね。
われわれが経験してきた苦労をしなくてもいいように、あとに続く皆さんにはできる限りのナレッジ・シェアをしていきたいと思っています。アトツギファーストなどはまさにその一つだけれど、いろいろなことがある中で、世の中にもいろんな、共有できるような仕組みができつつありますね。
【山野】ここにいらっしゃる方はロールモデルとなるような皆さんですけれど、とはいえそれほど順風満帆だったわけではないと思います。歯を食いしばって乗り越えた先に今があると思います。だから、もしかしたら、ここに来られた人数の何倍ものアトツギが、耐えきれずに腐ってしまっているかもしれないですよね。そういう人たちのポテンシャルって、もったいないです。「アトツギの皆が皆、スペシャルですごく優秀だったから今に至ったわけではない」ということを伝えるだけでも、私たちの価値はあると思っています。
【山田】そうですね、これはよく皆で話していますが、僕たちは子どもの時にドラえもんや鉄腕アトムを見ながら、「未来は楽しい」、「未来はワクワクするものだ」と思って育ちました。でも、いまの子どもたちは、「環境問題が…」、「人口減少が…」、「日本はもう終わってる」などと言われて育つわけです。それこそ今日生まれた子どもたちの未来は明るいと思えますか? でも、そこを変えていくのはぼくらの世代だと思っています。
【山野】そういう長いスパンでいろいろな物事を捉えられるのは、アトツギならではですよね。アトツギの皆さんは、今あるものの価値を最大化して、次の未来につなげていってほしいです。それはサステナブルなことで時代にも合っていますよね。私たちだからこそ、できる未来への提言があるのではないかと、強く思います。
【スピーカー】
■山田 岳人((一社)ベンチャー型事業承継 理事/株式会社大都 代表取締役社長)
■中山 亮太郎((一社)ベンチャー型事業承継 理事/株式会社マクアケ 代表取締役社長)
■山野 千枝((一社)ベンチャー型事業承継 代表理事/株式会社千年治商店 代表取締役)
【A1000公式サイト】
https://atotsugi1000.studio.site/