自分の手で新しいものを生み出したい!――三刀流で全国を飛び回るアトツギベンチャーエヴァンジェリスト見参

特定非営利活動法人StartupWeekend 理事
一社)ベンチャー投資育成研究会 理事
一社)ベンチャー型事業承継 エヴァンジェリスト
株式会社ソレクティブ Community Manager
中本 卓利さん

神戸大学発達科学部卒業後、起業家のためのコワーキングスペース運営やインキュベーション施設のディレクターを経てStartupWeekendに参画。短期間でアイデアを検証するプロとして北海道から沖縄まで事業立ち上げ支援を手掛ける他、アクセラレーションプログラム等のメンターも務めている。加え全国にて承継予定の家業を持つ若手アトツギの皆様に向け、先代から受け継いだ経営資源を活用した新規事業開発講座や時代に合わせた事業転換支援を行っている。またアトツギベンチャー輩出を下支えするため、家業棚卸法やアイデア発想法等の資料展開も実施している。実は和歌山県出身でミカン農家の後継ぎ。
上記を通じて培った知見を活かし、完全審査制のコミュニティ型フリーランスプラットフォーム「Sollective」を運営するスタートアップにて、グローバルで多様なスキルを持つトップフリーランス様が集う場のコミュニティマネージャーを務めている。

アトツギ支援も新規事業創出に焦点

ピエール
ピエール
早速ですが、現在の活動について簡単にお聞かせください。
大きく分けると三つあります。
一つめはスタートアップ支援。実際に起業したい、スタートアップを起こしていきたいという方々に対して、アイデア創出からプロダクト実装、資金調達までサポートしています。二つめはフリーランス支援。全国各地のトップフリーランスの皆様が集う場のコミュニティマネージャーを務めています。そして、三つめがアトツギ支援。家業の経営資源を活かして家業変革を導く取り組みですね。アトツギベンチャー界隈の皆様とは正に一つ目と三つ目が重なる領域でご一緒させていただいています。
中本さん
中本さん
ピエール
ピエール
スタートアップ支援の一環として、アトツギ支援もされている形でしょうか。
そうです。アトツギ支援というと多岐の領域に亘るものの、自分の場合は新規事業立ち上げ、つまりスタートアップの知見を如何にして家業に応用するか、というところに寄っています。
中本さん
中本さん
ピエール
ピエール
アトツギの皆さんからすると、家業の外から新しい視野を得られるので、好評なんでしょうね。ところで、どういう経緯でいろいろな支援活動をされるようになったんですか。

少し話すと長くなるんですが、全ては大学卒業後に浅草で運営していたシェアハウスから始まりました。大学卒業後、システムの導入コンサルしてキャリアを積んでいたものの、なんだか満たされない日々を送っていたんです。どれだけ会計や人事といった業務改善を成し遂げても新しいものが生まれてくる気配がないぞと。今から思い返せば当時から変化変革に飢えていたんでしょうね(笑)

そんなある日、海外研修時代に出会った友人がシェアハウスに引っ越してきて、こう自分に告げたんです「オレ、起業するわ。StartupWeekend行ってくる」と。そしてそこで話は終わらず「タクトも来なよ!」と誘われたんです(笑)「週末でアイデアをカタチにする」という響きが面白かったので遊び半分で飛び込んでみたところ、そこは衝撃に満ち溢れて圧倒され続けました。

そして更に躍くべきことに本当に彼はそのままスタートアップを始めちゃったんです(2022年現在、既に大型資金調達を成し遂げ世界に挑戦中)。そこで自分は気付きました。「熱量の高い仲間と出会い、実践を通じて学ぶことで、人は新しい未来を切り拓いていけるんだ。こんなにも簡単に変化変革は生み出せるんだ」と。そこから、コンサルに従事しつつ、StartupWeekendの運営を始めたんです。

中本さん
中本さん
ピエール
ピエール
お仕事は辞めなかったんですか。
StartupWeekendは全世界で全員がプロボノという規定があったことから、お仕事は辞めずに二足の草鞋からスタートしました。そうやって人生から休日を捨て去って無我夢中に活動を続けていると全国各地から呼ばれるようになり、気付けば海外進出も果たしました。そして2017年頃、積み重ねてきた実績が評価されたのかヘッドハンターからインキュベーション施設の立ち上げプロジェクトに招待され、それを機にコンサルを辞めてスタートアップ支援を本職にすることになったんです。

そうやって平日も週末もアイデアをカタチにする支援一色の生活を送っている中で2018年頃、関西大学でスタートアップ支援のマネージャーを務めている財前さんとお会いしたんです。ベンチャー型事業承継の顧問ですね。ただ当時はアトツギ界隈のお話は一切しておらず、財前さんと国内外で何度もご縁が重なる中で自分の家系が和歌山で代々ミカン農家であったことを雑談でシェアしていたところ、「ミカン農家で生まれ育ったナカモっちゃんなら、アトツギの気持ちも分かるやろうし、スタートアップの知見も持ってるし、アトツギベンチャーの文脈にぴったりやん!アトツギ支援もよろしくっ!(笑)」と誘われたんですね(笑)そんなこんなんで2020年、社団にエヴァンジェリストとしてジョインしました。

中本さん
中本さん

ピエール
ピエール
中本さんって、もう10年ぐらい関わってくださっているイメージでした(笑)。

中本さんがエヴァンジェリストを務めるアトツギファーストはこちら

 

家業の経営資源は「生かせたらラッキー」ぐらいのもの

ピエール
ピエール
中本さんの得意分野って何ですか。
アイディアの検証です。1から100までの成長の部分ではなく、そもそもその「1」は成長させるに相応しいアイデアなのかを見極める部分です。誰の、どんな課題を解決する、どんなソリューションを提供すべきなのか、そこを極限まで突き詰めるところが得意です。

アイデアの根幹を成す「顧客・課題・解決策」の三要素がきちんと検証さえていないが故に、後に続くスタートアップの道のりを歩むことが出来ない事例を無数に見てきました。実際に製品やサービスに落とし込んだ時に誰も求めてくれない。お金を出してくださる方がいないという悲しい事例を何度も目の当たりにしてきました。だからこそ、一番最初の最初を間違えることがないように自分はサポートが出来ればと思っています。

そういえば、その観点からお伝えするとアトツギベンチャーって最大の罠が待ち受けているんですよね。繰り返しになりますが、アイデアは「誰の、どんな課題を、どうやって解決するか」というポイントを突き詰めなきゃいけないのに、手元にある経営資源からまず解決策を考えてしまうという罠が(笑)。経営資源、つまり自分たちが出来ることから考えると、お客様は本当に何を求めているかの確認が疎かになりがち、これは辛いです。

中本さん
中本さん

ピエール
ピエール
経営資源があると、結論ありきで始めてしまうことがありますよね。
そうなんです。持っている経営資源については、「たまたま生かせたらラッキー」ぐらいに思っておかないと。例えるに、経営資源は顧客の課題という名の扉を開けられる鍵の一要素なんです。もし先に鍵を作ってしまったら、全世界にある無数の扉のどれに合う鍵かは分からない。結果として一つ一つの扉に鍵を差し込んでみることを繰り返すしかなく、とんでもなく手間です。むしろその鍵が開けられる扉を見つけられたら奇跡です。

けれどもし、例えばピエールさんの家の扉を開けようと最初に決めたなら、その扉の鍵穴を分析して、そこにぴったり合う鍵を一つだけ作ればいいんです。開けるべき扉を定めることが出来たなら、次に経営資源をどうやって応用するかを考える。そのプロセスが大事ですね。

中本さん
中本さん
ピエール
ピエール
本当にその通りですね。でも、頭で分かっていても、走り出してみると結局、結論ありきで動いていたりしますよね。
やっぱり自分ではなかなか気づけないんです。人はどこまでいっても主観、思い込みの生き物だから。だからこそ、客観的にフィードバックを獲得し続けることがすごく大事になるんです。耳が痛くなるような言葉を出来る限り早く獲得するために、出来る限り早く、恥を捨てアイデアを公開することを心掛けるのがポイントですね。秘密裏に完成させてカッコ良いものを世に出そうと思った時点で負けです(笑)

もちろん、経営資源が全て悪かというとそうでもなく、メリットもたくさんあります。例えばゼロからビジネスを始める場合、例えばモノがある場合だと、仲間を集めて、原材料を仕入れて、提携先の工場を探して、試作品を作って想定顧客に提供して…といった一連のプロセスにとんでもない時間と体力と資金が必要になるんですよね。けれどもアトツギの皆様なら、社員の方々に手伝って貰うことも出来れば、材料を簡単に仕入れられることも出来れば、自社工場を使えることもあれば、また既にお取引がある皆様に試験販売なんてことも簡単に出来るんです。「こんなことできないかな?」と思ったなら、ほんの僅かな時間でアイデアを”試す”ことが出来るんです。アイデアはフィードバックを獲得して改善することが必須だからこそ、簡単に試行錯誤が出来る環境を持っているのは紛れもなくアトツギの皆様の強みです。

中本さん
中本さん

 

誰にでも、昨日とは違う明日がある

ピエール
ピエール
中本さんの原動力って、なんですか。
昨日とは違う明日を生きられるよう、「変わりたい」と願う人に始まりを届ける、その想いが自分の原動力です。少し昔の話になりますが、大学受験で浪人した際、親に迷惑をかけまいと宅浪を選んだんですね。そうするともう地獄でした。365日ずっと、同じテキスト、同じ部屋、同じ風景、同じご飯、学校で日々語り合っていた友人はおらず一人ぼっち。監獄のような状況であったことから半分うつになり、心身ともに病んでしまったことがありました。それ以来、同じことが繰り返されることが大の苦手になったんです。けれども、大学に行って社会に出てみてみると、みんなも過去の自分が経験したのと同じように「変えたい」「変わりたい」と悩み生きていると気付けました。誰しもが始まりを求めているんだと。そこから自分は変化変革を願う人の力になろうと心に決め日々を生き抜いています。
中本さん
中本さん
ピエール
ピエール
では、そんな中本さんの夢や今後取り組んでいきたいことを最後にお聞かせください。
笑われるかもしれないですが、宇宙ステーションでアトツギソンを開きたいですね。分からない方のためにアトツギソンを説明しておくと、家業の経営資源を活かして週末だけで新規事業を立ち上げるStartupWeekendのアトツギ版です。宇宙で家業の後継者が新規事業を立ち上げるなんて、前代未聞じゃないですか(笑)もし仮に実現すればニュースになること間違いなし。まだチャレンジを始めていない全国のくすぶっているアトツギの皆様の目もきっと覚めるに違いありません。「自分たちアトツギにはもっと可能性があるんじゃないだろうか」「自分は片田舎で引き籠っていったい何をやっているんだろう」と、彼らの頭の中身をハンマーで殴るが如く揺さぶれると思うんです。

チャンスはどこにでも眠っていて、誰だって、いつだって、どこだって、人生を変えることが、家業を変えることが、世界を変えることが出来る。そう気付きさえすれば、きっと昨日より今日は、今日より明日は、輝かしいものになるに違いありません。

中本さん
中本さん

中本さんがエヴァンジェリストを務めるアトツギファーストはこちら

■取材した人

ピエール

某大手銀行に就職。その経験を活かし、アトツギベンチャーと金融機関の、次世代のあり方を世に問うべく、メディアに取り上げられるような案件をアトツギと実現することが目標。

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