本業で稼ぎ、新規事業にチャレンジし続ける。代々受け継ぐ経営者の資質。

山梨県
日本連合警備株式会社
代表取締役 保坂 東吾さん

「祖父の父は、まだほとんど車なんてない大正時代から、これからは物流だ!と言って、運送会社を始めました。そして祖父は、山梨で初めての警備会社を立ち上げたんです」と語る、代表取締役の保坂東吾氏。経営者のDNAだろうか。保坂氏も承継した資産と才覚を活かし、本業の警備事業を発展させつつ、様々な事業にチャレンジし続けている。

しかし、ずっと順風満帆だったというわけではない。多くの失敗から学びを得て、次に活かす。会社を奪われそうになった経験ですら、「マイナスではない」と言いきる。常にプラス思考で、何かあっても「これは試練だ。これを乗り越えたらまた上に行ける」と考える。引き継いだ事業を維持するだけではなく、時代を見据えて新たなビジョンを生み出す。そんな経営者DNAの塊、保坂氏の軌跡を追う。

出典:令和2年度中小企業庁/プッシュ型事業承継支援高度化事業/「ロールモデルのクローズアップ」事業「継ギPedia」(http://tsugipedia.com/)

 

 

 

会社をホールディング化して、祖父の多角化経営を継ぐ

マッキー
マッキー

御社の創業当時のことから教えていただけますか。

日本連合警備という会社は1969年に私の祖父が立ち上げました。山梨では初めての警備会社で、人からセンサーを使った機械警備に早くから移行してるんですよ。祖父はすでに「これからの警備は人力だけではない」っていう判断をしているわけですよね。山梨県では当社を入れて3社しかないので、私たちとセコムさんとで、法人向けは8割くらいのシェアをとっています。

保坂氏
保坂氏

 

その後、今から20年前くらいから祖父は多角化経営に乗り出して、不動産投資して、ホテル、ウェディング、飲食、太陽光といろいろな事業をやってきて今日に至ります。

保坂氏
保坂氏
マッキー
マッキー

今もその事業は続いてるんですか?

日本連合警備の中で事業部として残っているのは本業の警備事業と飲食事業ですね。他の事業に関してはHACK JAPAN ホールディングスを含めて、いくつかグループ会社を持っていて、事業を分けています。HACK JAPANはグループのトップにあたる会社なんですけど、この会社は祖父が保有していた日本連合警備の株式を取得するために設立した会社です。

保坂氏
保坂氏

 

マッキー
マッキー

保坂さんはお子さんの時からおじいさんの経営している姿を見て、継ごうと思われたんですか?

一緒に暮らしていなかったので働いている姿は見ていませんが、祖父が事業をやっていることは知っていて、僕が会社を継ぐと決めたのは小学生なんですよ。事業承継って、承継する側が「自分が継いでいく!」っていう決意をどこかのタイミングで持てないと大変ですよね。親とかに押し付けられると嫌だと思うんです。

保坂氏
保坂氏
マッキー
マッキー

僕も実家が事業をやっているので、将来は継ごうと考えてますけど、小学校の時からっていうのがすごい。

小学校の時から組織のトップになって組織を動かすっていうのが好きだったんですよ。学校も組織なんで。だから、小中高校と副会長とか会長をやってました。

保坂氏
保坂氏

 

 

 

 

祖父とつながりのある会社に入社したが……

マッキー
マッキー

大学を卒業してからは就職されたんですね?

上場している大手警備会社Aに入りました。創業者の方と祖父が旧知の仲で、「孫を預けるから頼みます」と。でも、営業を学んで来いって言われたのに、飛び込みとかなくて、書類書くだけで、これって営業ですか、と疑問を感じた。もっとガツガツ営業したかったのに、そういうのはうちではやらないからって言われて、4ヶ月で辞めました。

保坂氏
保坂氏
マッキー
マッキー

その後、転職されたんですか?

4ヶ月じゃ何も経験してないし、再就職で行く先はベンチャーしかないわけです。そこでIT学ぼうと思って、ITベンチャーに入りました。営業は僕と上司しかいなかったんですけど、その時は一番楽しかったです。

保坂氏
保坂氏
マッキー
マッキー

最初の会社を辞めた時、おじいさんからの批判はなかったんですか?

「なんで辞めたんだ!」って言ってたけど、「ちょっと待って、俺の考え方がある」と。

保坂氏
保坂氏
マッキー
マッキー

じゃあ、すんなり受け入れられて?

いやいや、謝ったみたいですよ、向こうの会社に……。当時有名だったらしいです。「A社に入って辞めたらしい。あのアトツギ大丈夫?」って(笑)。その後、祖父が「帰って来い」っていうんで、ITの営業も8ヶ月で辞めて、戻って早々に事業のテコ入れを始めました。

保坂氏
保坂氏

 

 

 

絶対稼げる領域を作っておいて、新規事業に投資する

マッキー
マッキー

テコ入れは警備事業の?

いいえ、警備以外の事業です。祖父は、やったらやりっぱなしの人。不動産投資とか好きな人だから、ウェディングとかホテルとか箱モノも好きで、いろいろ立ち上げては誰かに任せてるけど、コントロールできてないんですよね。それらをテコ入れするっていうのが4年くらい続くんですよ。

保坂氏
保坂氏
マッキー
マッキー

全部成功したんですか?

ウエディング事業、ホテル事業はV字回復させましたが、飲食事業はできずに相当な資金を使いました。祖父が飲食店舗を2つやっていて、パスタのフランチャイズだったんですけど、売上がピークの半分くらいに落ちちゃって。でも、フランチャイズは本部の言うこと聞かないといけないから、やめて自分たちでパッケージ作って展開したら面白いんじゃないかと。僕は上場志向が強かったから。

保坂氏
保坂氏

ウェディングとかホテルは投資額が大きいから難しいけど、飲食は数千万でできるんですよ。でも、それが失敗して、悔しいから回収しようとしてまたやって、失敗して、泥沼にはまっていった。飲食で数億円を使いましたが学んだことは多かったです。

保坂氏
保坂氏
マッキー
マッキー

それでも辞めずに続けられるモチベーションって何なんですか?

他のところで稼ぐ力を持っていたということです。企業って儲けがないとむやみに投資できないですから。今も連合警備含めていろんなことにチャレンジしているけど、成功しているのより失敗しているものが圧倒的に多い。だけど、必ず儲かる。僕は孫正義さんが大好きなんですけど、ソフトバンクって携帯事業で稼いだお金ってどこに使ってるかわかります?

保坂氏
保坂氏
マッキー
マッキー

投資ですか?

そう。結局、会社って投資していくことが大事。その投資するお金は内部で作っていく。この事業がダメでも必ず返せる、絶対稼げるっていう領域を内部に作っておかないといけない。僕はそれがあるから心配しないんですよ。どこまで投資していいか自分でわかるんです。逆に、それがわからない人は大失敗して、後戻りできない。

保坂氏
保坂氏
マッキー
マッキー

投資は業態とか考えずに、積極的にやっていこうとしてたんですか?

新規事業投資の大前提は「大規模にできるか」と若い頃は考えてましたね。当時は「山梨の会社で最年少で上場させたい」とか、何か肩書が欲しかったんですね。新規事業初期はいいものがつくれてたのに、一番大事なところで人を育てられなかったことが根本的な原因だと後で気づきました。人材育成にとにかく時間がかかった。特に「心」を育てるところで。飲食業ではそれを学びましたね。今はどちらかというと、僕先行でやらないで、周りの人間にやらせています。僕が一人でやっても仕方がない。コアなメンバーを育てないと。新規事業は人を育てますからね。

保坂氏
保坂氏

 

 

 

新規事業は引き際を見極めることも大切

マッキー
マッキー

新規事業をされた時、社員はどう思われてたんでしょうか。よくアトツギはまず本業をしっかりやってから新規事業をやるって聞きますけど。

まわりからしたら、跡取りで入ってきたけど、本業の現場にいないし、あの人何やってるんだ?って思ってたと思いますよ。外部の資金調達も全部自分で計画立ててやって、最後は祖父にハンコだけ押してもらってました。僕は代表権持ってないんで。

保坂氏
保坂氏
マッキー
マッキー

賛同してくれてたんですね。

いや、いったい何に金使ってるんだってよく言われました(笑)。

保坂氏
保坂氏
マッキー
マッキー

それでもハンコ押してくれた理由って?

おそらくここまでやって失敗したら引くっていうのがわかってるから。でも、飲食業は早期撤退という選択ができなかった。業態を変えたらまだなんとかなるって思ってしまって、事業の撤退という意味ではまだ線引きが甘かった。何かをやめる決断って経営者として難しいと思いますよ。どの経営者も全ての事業に思い入れがあるのに、それを捨てるわけですから。

保坂氏
保坂氏
マッキー
マッキー

引き際の見極めは事業をやっていく中で身についたんですか?

わかりやすいところで言うと、累積赤字がいくらでやめるか。初期投資含めたコストはやっていくうえで黒になったら回収できるけど、赤になっていくとどんどん垂れ流しになるんで。累損をどこで止めるか、その線引きはしたほうがいい。経営者は数字で決めたほうがいいですね。

保坂氏
保坂氏
マッキー
マッキー

あと、ライフラインにある、「のっとり事件」が気になるんですけど……。

今となっては笑い話ですけど、4年前に本当に会社をのっとられそうになって。祖父が20年来付き合っていた投資先を僕からお断りしたら、こちらの財務の人間を使って、逆に僕が会社から排除されそうになった。そんなことあるのかと思いましたね。ドラマの「半沢直樹」の世界ですよ(笑)。

保坂氏
保坂氏
マッキー
マッキー

それは乗り越えたんですか?

早い段階で感づいたので、乗り越えることができました。試練が与えられたと思って、どうクリアするか考えるのです。当時は涙が出るほど悔しい思いをしましたが、細かい経理はともかく、中小企業のトップは会社全体のお金の流れを常に把握しておくべきだと学びました。まだあの時の恐ろしさが実感として残っているので、財務はずっと自分で管理してますね。

保坂氏
保坂氏

 

 

 

外部パートナーと経営者仲間をつくることが大事

マッキー
マッキー

継ぐことに関して恐怖心とか不安なことはなかったんですか?

全くないですよ。僕はそういう人間として生きてきているので。自分で何でもやる。昔は独りよがりだったところもあったけど、内部で人を育てて、外部の意見も取り入れて。早くから商工会議所やロータリーといった県内財界に入っていったので、先輩経営者にもかわいがってもらいました。事業を拡大するという意味では、規模を追っても仕方がないと思うようになりましたね。今の時代は「パートナー」だと思いますよ。

保坂氏
保坂氏
マッキー
マッキー

パートナー?

そう。今の時代はミニマムにクイックに動かないと。だから、今までは何をやるにも自分たちで動こうとしてたけど、外部のパートナーとどう信頼関係を築くかが大事。内部も外部も同じで、共感してもらうことが大事。キーワードは「共感」なんで、「いいね」ってならなきゃだめだと思うんです、人は。

保坂氏
保坂氏
マッキー
マッキー

昔と今では変わりました?

昔は上場させるとかステータスがほしかったけど、結果が出せなったのは、世の中に価値を与えていないからなんですよ。誰も困ってなくて自分がいいと思うことやってるのでは選ばれない。やっぱり世の中が困っていることを解決するのがビジネスなんだなと、何年も前から方針は変わりましたね。

保坂氏
保坂氏

 

マッキー
マッキー

社員の方にもこういう方針でやりますと伝えてるんですか?

社員には違う言葉で伝えないといけない。同じ目線で同じ言葉で伝えるのは不可能。進んでる速度が違うんですね。時計にたとえると、経営者はスピードが速いから秒針、幹部は分針、社員は時間なんですよ。だから僕が3600回まわっている間に、幹部は60回まわって、社員は1回まわる。それくらいの感覚でいないと人を育てるのは難しい。

保坂氏
保坂氏
マッキー
マッキー

最後に、これから家業を継ぐアトツギへアドバイスをお願いします!

もっと気楽に考えていいんじゃないですか。重く考えすぎだと思いますね。会社つぶしたらいけないとかあると思うけど、大前提は社員の雇用をどこで保つか。万が一、会社をダメにした時に全員どこかに紹介できると。それくらい腹をくくっていれば問題ないんじゃないですか。でも、そんな簡単に会社つぶれないんで、部活くらいの感覚でいいと思いますよ(笑)。

保坂氏
保坂氏

あとは、周りに同じ目線で会話ができる経営者友達がいたほうがいい。会社という組織はピラミッドで経営者は孤独なんですよ。トップになった瞬間にわかりますね。取締役はいますし話もしますけど、本音は話せない。目線や覚悟が違うし、背負っているものも違うんですよね。だから、同じ目線で話せる人が外部にいないとダメですね。

保坂氏
保坂氏
マッキー
マッキー

そういう意味では、僕らのところには34歳以下の経営者が集まっていてよかったです。

そういうのは羨ましいですね。あとは、とにかく本を読む。お勧めの本はこれ!読んで!(笑)経営者は絶対本を読むべきですよ。

保坂氏
保坂氏
マッキー
マッキー

お勧め参考にします!今日はどうもありがとうございました。

 


【山梨県】

日本連合警備株式会社 https://nihonrengoukeibi.co.jp/

代表取締役 保坂東吾 氏


 

■取材した人

マッキー

大学卒業後、某ベンチャー企業にエンジニアとして就職。実家は福岡の物流企業。家業に戻るまでに、アトツギベンチャー経営者の体験をシャワーのように浴びようと、副業で「アトツギU34」に参画。全国各地のイベント運営やアトツギベンチャー経営者の取材などに携わる。

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