土佐の地の利を活かして事業展開、ポールポジションでスタートできることに感謝

株式会社土佐力舎 
代表取締役社長 竹中利文 氏

高知県室戸市に本社を置くホールディングス会社、タケナカ。傘下にダンボール製造のタケナカダンボール、飲料製造のダイドー・タケナカビバレッジ、飲料販売のダイドー・タケナカベンディング、海洋深層水の加工処理を行うT・フーズカンパニー、海洋深層水を主原料とする食品の開発、販売を行う土佐力舎の5社を持つ。

現在、タケナカを率いる2代目の父を2人の息子が支えており、ダイドー・タケナカベンディングと土佐力舎の2社の経営を任されているのが長男の竹中利文社長だ。

もともと農業に従事していた竹中社長の祖父が、野菜を運ぶ木箱を農業従事者がもっと安く仕入れられるようにと木箱の生産を始めたのがタケナカの始まり。高知県は施設園芸が盛んで、その後ビニールハウス向けの骨組みとなる木製資材も手がけるようになった。

野菜の運搬が木箱からダンボール箱に取って代わりつつあった1971年に、ダンボール製造会社を立ち上げ、2つの事業を並走させながらリスク分散を図った。その教訓から、祖父の事業を引き継いだ先代が、ダンボール製造と並ぶ新たな事業として立ち上げたのが、室戸市に湧出する地域資源、海洋深層水を活用する事業だ。

そして3代目の世代に入ったタケナカグループをこれから背負っていこうとしている竹中社長は、「人と地域とのつながりこそ大切」という父の教えを心に刻みながら、2社の事業についてグループの力、人と地域のつながりを生かし、困難を乗り越えながら経営に当たっている。

グループのトップを務める父、そして傘下の1社の社長を務める弟とどのような関係を保ちながら2社の経営に向き合っているのか、次代にグループの資産をどのように継いでいきたいと考えているのかを聞いた。

出典:令和2年度中小企業庁/プッシュ型事業承継支援高度化事業/「ロールモデルのクローズアップ」事業「継ギPedia」(http://tsugipedia.com/)

 

 

 

父と弟と役割分担、グループ5社で事業を展開

ヴェルディ
ヴェルディ

現在グループ5社で事業展開しているということですが、どのようにして事業を広げていったのでしょうか。

もともとタケナカはダンボール製造の会社でした。2000年に飲料会社のダイドードリンコと合弁でジュース製造のダイドー・タケナカビバレッジをつくり、しばらく2社で並走していました。その後、ダイドードリンコから飲料自販機の事業もやりませんかと声がかかり、09年にダイドー・タケナカベンディングを設立しました。

 

さらにタケナカで手がけていた海洋深層水事業を2012年にT・フーズカンパニーとして分社化。さらに海洋深層水事業が軌道に乗ったことから、さらにその事業を食品・サービスに広げ、地域に貢献したいとの思いから2015年に土佐力舎を立ち上げました。

 

現在はタケナカ、タケナカダンボール、T・フーズカンパニーの3社の社長は父が、ダイドー・タケナカベンディングと土佐力舎の社長を私が、ダイドー・タケナカビバレッジの社長は弟がそれぞれ務めています。

竹中氏
竹中氏

 

 

 

就職時に両親に相談し、家業に戻ることを決断

ヴェルディ
ヴェルディ

事業承継に至るまでの経緯はどのようなものだったのでしょうか。

 

小さい頃から父が会社を経営していたのはわかっていましたし、わたしは長男だったので、いつか継がなきゃいけないんだろうなと漠然と思っていました。ただ、東京へ出た大学時代には、バイト先の結婚式場からこのまま社員にならないかと勧められ心が動くこともありましたし、役者業をやってみたいなという思いもありました。

 

大学を卒業する前にあらためて両親に就職について相談をしに行った時、「やりたいことをやったらいいが、帰りたいと思ったときにはいつでも帰れるように居場所は用意しておくから」と言ってくれました。いずれにしろ将来は高知に戻りたいと思っていたので、そこまで考えてもらっているのならすぐに家業に戻ってもいいかなと思い、卒業後半年してから入社しました。

竹中氏
竹中氏
ヴェルディ
ヴェルディ

ぼくも実家が商売をやってるんですが、親と家業について話す機会ってないんですよね、相談するのも難しいと感じてますが、竹中社長はそういう雰囲気はなかったのですね。

そうですね。相談しやすい親子関係でした。

竹中氏
竹中氏

 

 

 

兄弟で考え方が違うからこそ、安心できる

ヴェルディ
ヴェルディ

入社してからはどんな仕事をされたのでしょうか。

入社した当時はダンボールを製造していたタケナカ1社の時だったので、タケナカに入社し、すぐに宮崎県にあるダンボール製造会社に出向しました。3年間その会社で働く予定だったのですが、タケナカがダイドードリンコと室戸海洋深層水を使った清涼飲料水の共同開発を始めたのでその事業を担当するため1年半で高知に戻りました。

竹中氏
竹中氏
ヴェルディ
ヴェルディ

その後、弟さんも入社されていますよね。兄弟であとを継ぐ場合、経営方針の違いなんかでぶつかることも多いと聞きますけど。

ダイドー・タケナカビバレッジが設立された時に私はその役員に就いたのですが、そのときに弟がビバレッジの社員として入社してきました。弟は年子だったのでもともと友達のような関係でしたが、社交的な私に対し、弟はコツコツ型で性格はまるで違います。同じ会社にいるとどうしても考え方の違いが生じて、いやな部分が見えたところもありました。

 

ただ、その後ベンディング事業が分社化した時にわたしがそちらの経営を任されるようになり、ビバレッジの経営は弟に委ねられることになりました。お互いが離れたことで、むしろ自分の会社のことについて相談しやすくなり、自分には考え付かない意見をもらうことができるので助かっています。2人がともに納得できないと物事が進んでいかないので、独りよがりにならない安心感があります。

竹中氏
竹中氏

 

 

 

父からのアドバイスで前向きに

ヴェルディ
ヴェルディ

先代の父上との関係についてはいかがですか。

父が元気で働けているうちにこうして社長をしながら直面するさまざまな困難について相談しながらやっていけていることをありがたく思いますね。

竹中氏
竹中氏
ヴェルディ
ヴェルディ

具体的にどんなアドバイスをもらったんですか?

ドラッグストアやコンビニエンスストアの台頭で、自販機を手がけるベンディングが赤字に転落したことがありました。父からは「今後も市場は縮小していくかもしれないが、自販機がなくなることは決してない。同業者はどこもしんどいはずで、その中で最終的に生き残るのはうちであるはずと思ってやりなさい」と言われたことで、前向きに事業を考えることができました。

竹中氏
竹中氏

 

 

 

グループのネットワークを最大限に生かして

ヴェルディ
ヴェルディ

もう一つ社長を任されている土佐力舎の方についてはいかがですか。

海洋深層水をキーワードにした飲食店を運営しているのですが赤字からなかなか抜け出せず想像以上に困難を極めました。海洋深層水は自分たちでくみ上げているわけではなく、汲み上げた水を室戸市から購入して様々な商品にし、皆さんに飲んだり、食べたりしていただいています。

 

そのことを来店いただくお客様に理解をしていただき、利用していただけばいただくほど室戸市の財政が潤い、ひいては地域貢献につながるということをグループ会社のネットワークを活用して発信していきました。

竹中氏
竹中氏
ヴェルディ
ヴェルディ

ネットワークというとグループ会社の取引先とかですか?どんなふうに活用したんですか?

たとえば、ダンボール製造の場合、JAや生産者とじかにつながっています。また、飲料では、ダイドーからゆず飲料を開発したいという話があったときに地元のJAとつないだことがあります。このように地域内でお互いが共存共栄する仕組みができています。

竹中氏
竹中氏

 

 

 

「人と地域のつながりを大切にする」という教えを守り

ヴェルディ
ヴェルディ

今般のコロナ禍でどんな影響を受けましたか。

海外から仕入れていた資材が入ってこず、自給率の低さを実感しました。われわれがかかわっている食の分野については自給率をもっと上げられるよう地域で循環できるビジネスモデルを発信できればと思っています。そのためにも父がよく言う「人と地域のつながりを大切にする」という言葉をしっかり受け継いでいければと考えています。

竹中氏
竹中氏

ヴェルディ
ヴェルディ

若い世代のアトツギにメッセージをお願いします。

若い時はついつい自分の力で勝負したいと思うもので、その手法として起業したいと思うこともあると思います。あるとき、起業した友人から、家業は始めからお客さんとのつながりがあり、そこで勝負できるのだからアトツギは恵まれている、と言われハッとしました。家業があるということは、クルマのレースで言えばポールポジションを取っているということ。代々守ってきた家業という土台の上に自分の色を出して走っていけるというありがたさを感じてぜひ家業にチャレンジしてください。

竹中氏
竹中氏

 

 


【高知】

ダイドー・タケナカベンディング株式会社   http://dt-vending.com/

株式会社土佐力舎    https://tosarikisha.com/

代表取締役社長 竹中 利文 氏


 

■取材した人

ヴェルディ

1991年生まれ。宮崎出身で都市圏の大企業に勤務する潜伏アトツギ。実は宮崎で親が営む事業の後継者問題がやんわり浮上、妻からの(サラリーマン辞めるなよとの)無言の圧力を感じつつ、地元に残る弟の動きに目を配るアラサー男子。趣味は野球観戦とアトツギベンチャーのネット検索。

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