【2023年1月開催「挑戦したい若手後継者のための新規事業開発講座」ケーススタディ】ピュアなものづくり これまでもこれからも(株式会社伊藤農園 専務取締役 伊藤彰浩氏)

120有余年の伝統を守りつつ、時代の波に乗って

株式会社伊藤農園 専務取締役の伊藤彰浩と申します。私の父が現在3代目で、私が跡を継いだら4代目となります。家業には16年前に入りました。

今日は、入社以来、私がどのような課題にどう取り組んできたか、お話したいと思います。

伊藤農園は1897年、みかんの卸問屋として創業しました。父の代でみかんの加工業に事業転換し、2009年に株式会社となりました。

現在、伊藤農園では5つの事業を行っています。BtoBで百貨店などへの卸事業とOEM事業の2事業、BtoCではネット通販事業、カタログ通販事業、そして直営店「みかんの木」での小売り事業の3事業です。

私がこの会社に戻ってきた16年前は、ほぼ100%が卸事業で、ほんの少しネット通販をかじっている、という状況でした。当時の売り上げはだいたい1億円ぐらい。そこからいろいろと取り組む中で売り上げを伸ばせた大きな要因は、やはりBtoC事業、特に通信販売と海外販売、そして商品PRに力を入れたことだと思います。私の父は職人気質で、こだわっていいものを作っているのに、それまでほとんどPRをしてこなかったし、うまくできていない部分もあったんですね。

海外販売は、「海外販売の実績がある」というブランディングで、国内での販売を伸ばすために始めました。現在、32カ国に輸出しています。それから、モンドセレクションという世界的な食の品評会にも2009年から出品していて、14年連続で最高金賞を受賞しています。

通信販売に関しては、卸事業との2本柱に育ててきたおかげで、コロナ禍でも急伸し、売り上げに大きく貢献しました。新型コロナウィルスの拡大によって通信販売は全国的に売り上げが伸び、弊社もその流れに乗って、2021年は前年比134%の売り上げを達成しました。

こうした取り組みを経て、2022年には売り上げが17億5千万円ぐらいまで成長しました。判断が正しいどうかは分からなくても、「とりあえずやってみる」という精神で16年間進んできました。間違っていたこともやり直せることばかりだったし、とりあえず動く、失敗をやり直す、その繰り返しでいまがあるのだと思っています。

 

伊藤農園でしかできないものづくり

私が大切にしているのは、「ピュアなものづくり」という原理原則です。「大手には簡単に真似できない、うちにしかできないジュースづくりをしよう」と、3つのこだわりを守り抜いてきました。地元和歌山有田の柑橘類だけを使用すること、添加物を一切使わないものづくりをすること、そして弊社の独自製法です。

 

有田みかんの生産の特徴は、8割が山畑(やまばた)で作られていることです。石垣の段々畑ですね。斜面で作るので、日当たりも水はけもすごくいいんですよ。ある程度の乾燥ストレスをかけることで、すごく甘くておいしいみかんができます。また、石垣自体が太陽によって温められるので、冬でも土壌が暖かく保たれます。この段々畑で栽培されてきたみかんの歴史を商品に生かしたいと思っています。

「添加物を使わない」というのは、濃縮還元ではなくストレートジュースを作ることです。濃縮還元の製法なら生産・流通のコストは大幅に抑えられますが、添加物で補うことが多いんです。伊藤農園のストレートジュースは絞った果汁をそのままびんに詰めていて、新鮮な素材の味が活きるようなジュースを作ることが可能です。

 

そして、このこだわりを可能にしているのが、弊社独自の製法です。ジュースの一般的な作り方にはインライン方式とチョッパーパルパー方式があって、搾汁率がとても高いんですね。でも、皮の苦みや灰汁まで含まれるので、本来の果実の味わいから少し遠ざかってしまいます。弊社は、社長が果実の中身だけを絞るための搾汁機のアイディアを図示し、東大阪の機械メーカーとオリジナルで製造しました。この製法は搾汁率が30%ぐらいなので歩留まりは悪いですが、果実を生かしたピュアな味わいが楽しめる商品が作れます。

 

もちろん、時代の波にしっかりと乗って、変化、適応していくことも重要ですよね。こだわりを実現するために、みかん栽培にドローンやITツールも取り入れました。伝統文化を守りつつ、省力化を進めています。例えばドローンによる農薬散布で、作業効率を従来の8分の1に縮めることができています。

 

また、2016年にオープンした直営店で期間限定のオープンカフェイベントを企画したり、みかんの段々畑でグランピングをする「みかんピング」というイベントを開催したりしています。将来、複合型農業施設「伊藤農園ビレッジ」を作ろうという構想があって、そのために少しずつ小さな挑戦を重ねているところです。

 

社員が主体的に動ける会社を目指してきた

弊社は生産部、製造部、物流部、営業部、通信販売部という5つの部門と、各組織の垣根を超えたかたちで4つの委員会を組織しています。商品開発委員会と、教育委員会、ブランド戦略委員会、社内環境整備委員会ですね。若い新入社員が増えていく中で、彼らの手で新商品を生み出していってもらったり、社員研修やPRイベント企画してもらったり、働きやすい会社のルールを作ってもらったりと、「社員が自分たちで会社を作っていく」ことができる体制が特徴です。

また、年2回、経営方針発表会を開催して、各部門と委員会が自分の成果を発表してみんなで共有し合っています。内部のコミュニケーションを活性化するとみんなのモチベーションも増幅します。半日の発表会の間、しゃべっているのはほとんど社員です。社員が主役なんですよね。

でも「一緒に会社を作っていく社員を集める」のは、私が取り組んできたことで一番難しかったところで、いまも試行錯誤の最中です。

私が伊藤農園に入ったころはパート10名の小さな農家で、そこから組織づくりをして会社としてのスタートラインまで持っていきました。当初、全国から人材を集めようと新卒採用を始めたものの、社員が入っては辞めていくという状況がずっと続きました。自然に囲まれた豊かな生活に憧れて入ってきた若い子たちが皆、「思ったよりハード」と感じて辞めてしまうんです。

この中で気づいたのが、経営理念やビジョンの重要性でした。経営者目線で自ら考える社員を育てていくにはどうしたらいいのか、と考えた末に行きついた答えです。

弊社は120年の歴史がありながら、理念などが明文化されていなかったんですね。社長も、「形に走っても意味がない。目の前にある仕事をきっちりこなしていくことが重要だ」と言いながらも、ずっと守り続けてきた信念を持っているんですよね。そこを言葉にすればいい。2016年から、各部門のリーダー、経理担当と私で誰にでも親しみやすい言葉を考えていきました。社長とはけんかも繰り返しましたよ。プロトタイプは2018年にできあがりました。そのあと、理念やビジョンを一人一人の行動に落とし込めるような具体的な姿勢を11項目にまとめたクレドも、2020年に完成させました。

これを作り上げてから、「この理念やビジョンに共感してくれる人たちの集合体を目指す」ということが明確になりましたね。離職率も落ち着いてきています。現在も「理念やビジョンに合わない」と言って辞めていく子はいるんですが、「どうして若い子が辞めてしまうのだろう」と思い悩むことはなくなりました。

従業員もそれぞれ自分の理念を持っていて、自分の人生のビジョンを実現するために行動しています。伊藤農園で働くことは、彼らの行動の先にあった偶然の結果なのだと思います。いまは、そういう状況を今後も作っていきたいという考え方に行きついています。

 

【下記イベントのケーススタディより抜粋しております】

https://atotug-idea2023.peatix.com/view

【講師プロフィール】

株式会社伊藤農園 専務取締役 伊藤 彰浩 氏
https://www.ito-noen.com/
有田みかんの加工品販売を手掛ける伊藤農園4代目。3代目である父が開発した特別な製法で作られたみかんジュースをブランド化。
フランスの三ツ星シェフにも採用され、EUを中心に世界32カ国の高級百貨店やスーパーで扱われている。
売上は入社当時から12倍に、組織は10名から80名まで拡大し、今なお躍進を続けている。

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