【2022年9月24日開催、挑戦したい若手後継者のための新規事業開発講座トークセッションより】業績を上げるアウターブランディング/インナーブランディングとは
ブランディングで会社を成長させる
友安製作所代表取締役、友安啓則です。
今日は、僕たちの会社で2013年ごろから進めてきたブランディングの話を通して、アトツギへのメッセージをお届けします。
アトツギの皆さんが会社を背負うタイミングは、改革を始めやすいタイミングだとも思います。この時、いま持っているものをしっかり生かすこと、ないものを求めないことが大事です。「もし会社に10億あったら」と考えてもしょうがない。目の前のものをどう生かし、会社自身の体質をどう改革していくか。そこにつながる話ができればと思います。
ブランディングは、外向け(アウターブランディング)と内向け(インナーブランディング)の双方が大事です。まず、僕たちのアウターブランディングについてお話ししましょう。
僕たちは、アウターブランディングとして6つの事業を手がけています。
一番の顔がカフェ事業です。なぜカフェなのかと言うと、オフラインのサイトとして、ECではリーチできないお客さまにもリーチし、世界中の人々にバリューを提供するためです。僕たちは”Add Colors to Everyone’s Life”というミッションを掲げています。COLORSというのは自社ブランドで、そのミッションは「全世界の人々の人生に自社製品を提供する」。もう一つ意味があって、colorsの日本語「彩り」、つまり「人々の人生に彩りを提供する」という僕たちのバリューもうたっているんです。インテリアショップよりもカフェのほうが、老若男女誰でも入りやすいですよね。そしてカフェの内装や家具を全部自社商品にして、それらも買うことができるんです。週に1、2回ほどDIYのワークショップも開催しています。
最初に「一番の顔」と言ったのは、展示会に出展しなくてもここで周知を図れるからです。
二つめが工務店事業です。これは2018年に始めました。これも、世界中の人々に自社製品を提供するために「DIYではなく、お金を払って誰かにやってほしい」というニーズに応えようと始めました。こういうニーズは絶対たくさんあると思うんですよ。
僕たちは価格やスピードではなかなか大手には勝てませんが、僕たちの礎には「オリジナル」があるんです。商社兼モノづくり企業として3万8千点もの商品を扱ってきたので、オリジナル商品はとにかくたくさんあるし、新たにデザイン力も強化したので、部屋から家具まで空間全部を一つの世界観を提案できるんです。工務店事業は、社内のいろいろなリソースをフル活用して収益化できています。
DIY サポートというサービスも作りました。職人が現場で2、3時間ほどやり方を教えて、あとはお客さまに作業していただくサービスです。お客さまにとってはすごく安く施工できて、僕たちとしてもメリットがあるんですね。実際にこのサービスを使った方の7割から8割は、「楽しかったけど大変だった、これはプロにやってもらうといくらですか」と依頼されるからなんです。
仕入れ品のオリジナル商品と、ものづくり企業への回帰によって自社で製造する物が増えて提案の幅が広がり他の工務店では出来なかった幅の広い提案を一貫して提供することができています。
三つめはレンタルスペース事業「カシカシ」です。物件を保有されているオーナーさんと、レンタルスペースを探しているユーザーさんをマッチングするウェブサイトサービスです。
四つめがメディア事業で、友安タイムズというオウンドメディアを、ウェブ上のブログ形式で発信しています。これは、インテリアが好きな人のすそ野を広げることを目指した取り組みです。いろいろなインテリアガイドやDIYのレシピを発表しています。
そしてホームパーティー推進委員会です。これは僕のライフワークですね。本当だったらこれだけで3時間ぐらいお話ししたい(笑)。
人口が減っているいま、すごい勢いで住のマーケットが縮小しています。ここで考えたのが「人を家の中に招き入れることで、新たな需要が生まれるのでは?」ということ。人を呼ぶとなれば家をきれいにしますよね。「人が来る」ことを常態化することで「ヤニで汚れた壁紙を変えよう」、「スリッパを全部新しくしよう」など、家の中のモノが動いていくと思いました。何より、ホームパーティー推進によって、僕たち内装業だけではなく、家電、アウトドア、料理……いろいろな業界が潤います。賛同企業はすでに約90社が集まりました。
新規事業は打ち上げたら必ず深掘りせよ
これら5つの事業を通してやっているのは、“深化“です。基本的に、新規事業はだれでも簡単に起こせます。でも、ある商品やサービスをずっと会社の柱にしておくのはすごく難しいんですよ。ある程度の売り上げが上がったら、必ず、さらに深掘りしていかなければいけません。そうしないと一発屋で終わりますから。
さて、最後の六つめはまちづくり事業です。目指すのは、八尾市にクリエイティブ分野の人たちを集めることです。八尾市はものづくりが盛んな地域で、すごい技術を持った会社もたくさんあるのですが、デザインや販売の部分ができていないんです。そこで友安製作所がブランディングの部分を担い、これらの企業を地域になくてはならない会社に育てたいと思っています。
例えば、ファクトリズムという工場見学・ワークショップのイベントで音頭をとらせてもらっています。また、八尾市の起業家や2代目、3代目の育成事業を友安製作所で請け負っています。
以上が友安製作所の六つの柱で、これらは一種の経済圏になっているのでカラーズサークルと呼んでいます。
「カシカシ」を利用するオーナーの約7割の方は、特典である僕たちのECで使える5%オフクーポンを使ってECでお買い物をしてくださっています。メディアでカフェを知ってくださった方はカフェにいらっしゃって、「この空間、すてきだな」と、僕たちの工務店に施工を頼んでくださいます。さらにその物件を「カシカシ」に登録される方もあります。このようにカラーズサークル内でワンストップサービスを展開して、お客さまの満足度を上げることを目指しています。
会社の“人”を大事にしている? 会社の事業を楽しんでいる?
続いて、僕たちのインナーブランディングについて紹介します。
「商売にとって一番大切なのは何か」と聞くと、プロダクトやサービスと答える方は多いです。実は“人“です。インナーブランディングを進めると、人を大事にすることの重要性に気づきます。
やろうとしていることは、見える化と円滑な社内コミュニケーションの整備です。当たり前と思うかもしれませんが、本当に難しいです。
まず、本名、役職、「さん付け」を全部禁止にしてニックネームで呼び合うようにしました。この制度で上下の垣根がなくなり、新卒の子も一番上の人に「NO」と言えるようになったんです。仕事以外の話もすごくしやすくなります。本当に、従業員同士が仲良くなりましたね。
それから、「友安アワード」という従業員が従業員を評価するアプリを自分たちで作りました。従業員は自分の半年の目標を投稿して、それに対してほかの人が「いいね」をしたりコメントを残したりできるようになっています。投票期間内には「この半年、頑張っていた」と思う3人に票を入れます。経営者が評価するより仲間に評価されるということが一番うれしい、そしてそれ以上に、「みんながあなたのこと見ているよ」という意識を持ってもらえるのが一番大切です。
そして日報。その日にしたこと、思ったことを必ず書いてもらいます。SNS化して、周囲の人が何をしているかを知り、自分が何をしているかをアピールするためのツールとして活用しています。お互いを理解し合うことにつながって、離職率を下げている一つの要因にもなっていると思いますね。それに日報にいろいろ書くことで、「書いたからには実行しよう」という気持ちが働き、結果として生産性も上がっています。
社内報は発行し始めて10年になります。毎月15ページぐらいのものを作り、プリントアウトして配っています。家に持って帰ってご家族にも見てもらいたいからです。いろいろな部署のリーダーに思いや目標を書いてもらったりしていて、これさえ見ればある程度は会社のことが分かるようになっています。
僕との個人面談も年2回実施しています。その時に、労働環境への要望を必ず話してもらっているんですが、例えばトイレに対する要望にどんどん応えていったら、従業員は「会社って、自分たちの声で変えられるんだ」と思うようになりました。そして、会社を変えるために自分たちがしなければいけないことを何か教えてほしい、というこれまでなかった
視点の要望も出てくるようになりました。「自分が頑張れば、給料が上がる」「声をあげると会社が変わる」という意識を従業員に持ってもらい、全員に能動的になってもらうことで一体感が生まれます。事業も成長しました。ちなみに僕たちの会社は全部の部署名に“デザイン”が付いています。総務や経理はワークプレイスデザイン部。「総務や経理は、自分たちが働く場所をデザインするデザイナーです、だから自分たちで考えて、変えたほうがいい制度や新しいやり方について声を上げていきましょう」と話しています。結構意見が出てきますよ。
最後に、僕たちが一番大切にしている「楽しむ」ことについて話します。
ここまでの取り組みについて、「会社の体制などの事情から、うちでは急には変えられない」と思う方もいますよね。そんな方にぜひ覚えていただきたいのは、一気にやらなくていい、まず自分自身が熱狂する、ということです。自分自身が熱狂していれば、一人、二人と仲間が入ってきます。その仲間のことも熱狂させてください。これができていたら、何をやっても成功します。まず自分たちが楽しみ、笑う。楽しそうなところに人を引き込むんです。文化祭前夜のようにワイワイと楽しそうに事業展開していると、さらに、それを見ているお客さまも楽しくなってきます。そして、「じゃあ、自分もこの会社の製品・サービスを使ってみようか」と思うんです。
【スピーカー】
■株式会社友安製作所 代表取締役社長 友安啓則 氏
https://tomoyasu.co.jp/
ネジ1本から始まった小さな町工場から、現在では「世界中の人々の人生に彩りを」という想いのもと、3万8000点を超えるくらしに関わるアイテムを自社でプロデュース。売上ではなく顧客のライフスタイルをデザインすることに注力し、ビジョン経営を進める。そのブランド力を活かし、ものづくりだけでなく、カフェ、工務店、レンタルスペース事業まで手がける多角化成長企業。
アトツギ時代には、本業以外に新事業を立ち上げ、先代からの「自分の給料を半年以内に稼ぎ出せ」というミッションを日本全国を車で営業しクリアする。