家業と自身の資源を活用し、事業で地域活性化を実現。ECサイトでの物置販売を原点に、コワーキングスペース運営、府営公園の指定管理業務へ。
株式会社ポートフォリオ 延生 康二 氏
「物置をインターネットで売る」。そんなことがまだ一般的ではなかった時代に、家業の「物置販売」と自身が独立して行っていた「ECサイトの制作・運営」を組み合わせることを考えた延生氏。その成功をきっかけに、自社の資源を有効活用することを考え、関連会社の延生建設株式会社で今度は不動産業に力を入れた。そこから倉庫をリノベーションしたコワーキングスペース「ポートフォリオ」が誕生。株式会社ポートフォリオを立ち上げ運営している。
ポートフォリオは、今や地方のコワーキングスペースの1つのビジネスモデルになりつつある。このスペースでの取り組みや地域に対する想い、新たな事業にチャレンジするモチベーションなどを延生氏に聞いた。
家業を継ぐ気はなく、IT系の会社で技術を身につけた
Q. IT系の会社ではどんな業務をしていたんですか?
A. 最初はパソコンの部品の価格調査員をやって、次にWEB制作担当になって、そこでHPを作る技術は身につけました。あとは、ネットワークシステムの構築の管理もやっていました。
僕は高校中退で学歴がないから就職が難しいし、せっかく技術を身につけたので独立しようと思ってライジング株式会社を立ち上げました。最初は市役所や企業のネットワークシステムの保守管理やホームページの制作をしていましたね。
家業の資源と自身の資源を活かし、物置をECサイトで販売
Q.ご自身が家業(延生金属株式会社)と関わるようになったきっかけは?
A.家業と同業で取引もあったヨドコウ(株式会社淀川製鋼所)の物置をインターネットで販売したことです。
家業ではヨドコウの物置を販売する代理店もやっていて、ホームセンターへ卸していたんです。ただ、卸だと利幅が少ないんですよね。それで、ダイレクトでインターネットで売ることを考えました。
僕の会社は「ECサイトの制作・運営管理ができる」という資源を持っていたし、家業は「物置を施工できる技術・体制」という資源があったので、それを互いに活かせばいいんじゃないかと思ったんです。
Q. 延生金属の社員から反発はなかったですか?
A.初めは「売れるわけがない」と言われました。でも、やるしかないと。可能性を見せることが必要だなと思いましたね。
物置をインターネットで買うというのは、当時は先進的でしたけど、コンスタントに売れて、月に100台ほども売り上げるようになりました。それで、商圏を広げて、郵便ポストとか他の商材も扱うようになって、僕も本格的に一緒にやろうということで、執行役員になりました。
Q.その後、グループ会社の延生建設の取締役になった経緯は?
A.ECも落ち着いて、今後どういう展開にしようかと考えていたら、父から「建設やらないか?」と言われて。
入ったのは平成29年です。延生建設は、家業(延生金属株式会社)が物置の販売を始めてからエクステリアとか外構まで手掛けるようになり、新築工事などの相談も来るようになったので、作った会社だったんです。でも、それだけではもったいないので、新築工事やリフォーム工事ができるという経営資源を活かせるよう不動産事業を追加することにしました。不動産の担当者を一人入れて、30坪くらいの土地を買って建て売りしたり、中古のマンションを買ってリノベーションして売ったり、ということを始めたんです。それが今の「ポートフォリオ」というコワーキングスペースにもつながっています。
地域の企業が資源や情報を共有できるスペースを実現
Q. ポートフォリオをやることになったきっかけは?
A. 物置をECサイトで売って成功したことが僕の根幹にあって、「タイミングが重要。話が来た時にやるべき」という想いがあったんです。
だから、南海電鉄から話が来た時、まちづくりイベントを一緒にやっていた仲間や設計士がいたので、経験を活かしてチャレンジしてみることにしました。最初は老朽化が進んでいた倉庫だったんですが、地域の企業や地域の人が集まる場所にしようと、コワーキングスペースにリノベーションしました。都市部ではコワーキングスペースのビジネスモデルが確立されていますけど、地方は地方で、地域の企業同士が資源を共有して新しいチャレンジができるような環境が必要だと思ったんです。
Q.ポートフォリオで開催した印象に残っているイベントはありますか?
A.去年やったオープンファクトリーですね。
企業が集まって一つの取組みをするという点でも、工場を見てもらって自社の資源を確認するという点でも、一番目指していたものに近いイベントでした。1kmも離れていない会社同士が60年やっていてもお互い知らなかったりしたのが、これをきっかけに知り合えたり、横のつながりができたりしたのが大きかったですね。
集客は「突撃」でお願いしに行ったら(笑)、反応はよくて8割くらい参加してくれましたね。
Q.オープンファクトリーを開催したことのメリットは?
A.社員さんが楽しそうにやっていたのが印象的でした。
オープンファクトリーって、自社の技術や強みを確認できる良い機会で、自社ができることは何か、それをどうやってアウトプットするか考えるので、開催までの準備に価値があると感じました。第三者目線で見るから工場もきれいに安全になるし、職場環境の改善にもつながるんです。
地域の方に何を造っているのか知ってもらうのも大事です。せっかく魅力ある企業が地元にあるのに知られないで、他の地域に就職していくパターンが多いので、地元の方に発信することでここで働いてもらえるようにもなると思っています。大学も参加してくれましたし、来年は就活をテーマにすることも考えています。
地域と共に魅力ある「二色の浜公園」をつくる
Q.今後の事業の展開は?
A.二色の浜公園の指定管理業務をやることになりました。
今ある資源を活用しながら魅力的な場所にして、人が集まるようにしたいと思っています。意外にきれいな水質なのできれいで安全で誰もが楽しめる優しいビーチが取得できる国際認証の「ブルーフラッグ認証」も取れればいいなと。二色の浜公園には海水浴場があるビーチエリアや水上オートバイ施設がある海浜緑地など、それぞれ特色のあるエリアがあり、各エリアごとに順次開業を予定しています。これから貝塚市が面白くなるので注目してほしいですね!
「地域と共に育てる公園づくり」がテーマで、すでに100社くらいと連携しています。地域の方や事業者さんとつくることで特性のある公園になるのではないでしょうか。これもポートフォリオの経験が活かされていると思います。
事業に対する「想い」があれば、壁も突破できる
Q.いろいろなことをやっていくモチベーションは何ですか?
A.事業が地域・社会の発展に貢献できる事業であるかどうか、です。
利益だけでなく地域や社会にとってどうなのかを考えて、それがマッチしたものだけ進めています。マッチすることがモチベーションにつながりますし、地域・社会に必要とされる事業でないと継続できないと思っています。
Q.若いアトツギ経営者の方に伝えたいことはありますか。
A.事業をやる時は「想い」を持ってほしい、ということ。
何をするにしても壁は出てくる。それが出てくる前提で、突破していかないといけない。突破するのは事業に対する「想い」。それがあれば社員もわかってくれるし、一緒に突破してくれる人も出てきます。それに、「想い」があれば失敗しても次につながりますよ。
(文:山王 かおり 写真:中山 佳奈江)