うまくいかない瞬間こそ、外の目を持つアトツギが求められる

株式会社ライスアイランド
代表取締役社長 
小塩 陽亮さん

オートミールなどの全粒穀物食品メーカーのアトツギ。
銀行、戦略コンサルタント、データコンサルタントを経て2020年に家業に入社。
家業の本社は岐阜県岐阜市、有楽町の交通会館にアンテナショップあり。
日本から世界へ日本の全粒穀物文化を広げるのが夢。
https://www.riceisland.co.jp/

金融・コンサルの世界から“ごはん”の世界に

ゴードン
ゴードン
まずはご自身と家業の紹介をお願いします。
僕は岐阜県岐阜市の全粒穀物屋の4代目です。全粒穀物屋というのは僕が新しく決めた事業の定義で、もともとは米屋です。私のキャリアは、地元の十六銀行でスタートしました。その後はストラテジー系コンサル、データコンサルタントと、食品業界から見ると異色の業務に携わってきました。
小塩さん
小塩さん
ゴードン
ゴードン
なぜ家業に戻ることになったのですか。
僕には兄がいて、当初は兄が社長で僕が副社長という形で二人でやっていこうとは話していたんです。それが、先に兄が入社して5年ぐらい経った2018年ごろ、急に「会社を辞める、北海道で農家をやる」と言いだしまして。そうなると僕が継ぐしかないということで急きょ入社しました。もう「マジかよ!」って気持ちでしたね。「チームプレーでひと狩りしようぜ」と言っていたのに、ソロハントになってしまった感じです(笑)
小塩さん
小塩さん
これは僕の持論なんですが、家業をうまく回してより良く変えていくことはできても、家族の性格や人柄は変わりません。絶対に合わない家族がいるけど、家業に戻ろうかどうしようか…って考えている人もいると思うんですけど、その場合僕は家業に戻ることをあまりおすすめしません。
仲が悪い家族が家業にいるけど、一緒に仕事したら仲が良くなった…みたいな事例は、残念ながら私は聞いたことないんです。仲が悪い家族がいたら、その関係性は家業を一緒にやってもやらなくても、多分一生続きます。
家族も含めてガマンが必要な人間関係を維持するのって、ガマンできる人が我慢し続けるしかない場合がほとんどだと思うんです。家業に戻ることが頭にあるアトツギさんたちには、そういうところは考えてほしいことですね。
小塩さん
小塩さん
ゴードン
ゴードン
合わない家族とは合わないって、すごく分かります。一方で、家族を嫌う自分を責めてしまうアトツギさんもいるんですよね。
そこは脱出しないといけないですよね。
小塩さん
小塩さん
ゴードン
ゴードン
でも、これってファミリービジネスのコアな気もしますね。
そうなんですよね。組織の意思決定の質は、経営陣のダイバーシティの量に比例して上昇する、という論文があるそうです。「家族じゃなかったらこんなヤツとは絶対に話なんかしない」という家族ともがんばって話をしてなんとか結束していく中で、組織はレベルアップします。それが、うんざりするような状況にいるアトツギさんの会社が続く原動力にもなっているんです。だから、苦労しているアトツギの苦しみも報われていると思います。
小塩さん
小塩さん

 

社内に見つけたオートミールという武器

ゴードン
ゴードン
家業に戻られたときには、どんなことを感じられましたか。
入社前に想定はしていましたが、実際に入ってみると予想以上に組織としてガタガタでした。父がいい社員を端からクビにしてイエスマンしか残していなかったんです。朝から営業部隊を集めたかと思えば、夜の9時までひたすら父が武勇伝を聞かせているだけで、仕事の話は半分もしていない…みたいな日も珍しくなかったです。一言でいうとガバナンスがいかれていたんですね。
ただ、ライスアイランドが扱える商材は、グローバルでも戦っていけると思ったんです。実は、2016年にアメリカで発表された論文で、全粒穀物を食べると死亡リスクや主要な生活習慣病のリスクが低下する、というものが話題になっていました。その論文により世界的に全粒穀物のトレンドができているにも関わらず、日本で全粒穀物を包括的にあつかう会社はわが社ぐらいでした。幸いなことに、父がいろいろな穀物を揃えていたので、社内には磨けば光る「多くの種類の全粒穀物」という宝があったんです。ライバルが全粒穀物市場にやってくる前に事業ドメイン、およびビジョンの再定義をして走り出せれば、勝機があると思いました。
小塩さん
小塩さん

ゴードン
ゴードン
ポテンシャルはあるのに経営がうまく機能していなかったんですね。どこから手を付けていかれたんですか。

これ、残念な話なんですが(笑)社員にちゃんと仕事をさせるというのが最初でしたね。商売としては、オートミールブームに賭けてみようと思いました。2020年の10月から営業に出ていたのですが、お客さまとの話の中でブームの兆しを感じたんです。その時点ではオートミール市場はアーリーアダプターぐらいの段階にあるだろうと思ったので、参入企業がないうちにトップのポジションを築きつつ、いざブームが来たときに当てたいと考えました。そしてブームに乗じてわが社の名を広め、参入障壁の高いほかの商品を売っていく、それが僕のプランでした。市場シェアの奪い合いになって広告やブランド名で勝負されると、企業体力と知名度で競合に劣っているライスアイランドは勝てません。逆に商社に頼らず自社輸入をするなど、ライスアイランドはローコストオペレーションを構築できているのが強みです。なのでオートミールは他社が絶対出せない低価格で売り、赤字にならない程度の利益を目指しました。
小塩さん
小塩さん
営業では、自社が売らずとも買っていただける仕組みをつくりました。食品業界は、トップ企業の意思決定に「右にならえ」が多いんです。一番大事な先を最初に押さえようと、コネをたどってスーパー業界の最大手さまに提案しました。その先に購入を決定していただいてから、売上が一気に伸び始め、大手から中堅どころの、ライスアイランドが取引したいと思うほとんどのスーパーさまでオートミールを導入していただけました。
それから、弊社には他社が取り扱っていないロールドオーツという分厚いオートミールがありました。折しも2021年、「オートミールの米化」というのがトレンドになり始め、米化に向いているということでロールドオーツのニーズが生まれました。それを弊社がひたすら提供し、あわせてロールドオーツ以外の製品も売り込み続けて、結果として多くのスーパーのシリアル棚を占拠できました。2022年6月の決算では、僕が入社した2020年6月タイミングの売上の2.4倍の数字での着地を見込んでいます。
小塩さん
小塩さん

ゴードン
ゴードン
すごい! 売れるビジョンが長いスパンで見えていたから、ご自身のプランに自信が持てたということですよね。
本当に、僕は運がよかったです。ただ僕がここまでオートミールに賭けることができたのは、営業でプロダクトマーケットフィット(PMF)を確認して「いける」と思ったから強気に動けたというのがあったんですよね。全粒穀物の世界的トレンドという社外で得た知識と自分で確認したPMFがあったから、負け犬根性が染みついた社内を変えられると思って、企業再生を実現できたんだと思います。
だから、アトツギさんへのメッセージは「社内と同じぐらい社外にも向き合いましょう」です。会社がうまくいかなくなった瞬間こそ、外の目が求められています。
小塩さん
小塩さん

 

アトツギU34はこちら

 

アトツギよ、外に目を向けて走りだせ!

これは私の持論なんですが、アトツギって、基本的に社内ではものすごく孤独でいいんと思うんです。アトツギとか創業家の人間って、やっぱり従業員の人たちから見ると良くも悪くも「ちょっと違う存在」じゃないですか。目線がどうしても違っちゃうので、アトツギが従業員に全部理解してもらおう…っていうのはやっぱり難しいと思います。何も悪いことしてなくても、古参の社員なんかに「あいつ裏口入学じゃん」「ボンボンムカつくわ」とかおもわれちゃったりする場合もありますし(笑)
当然アトツギががんばっている姿を見せて従業員に好きになってもらったり、ファンになってもらうのはすごく大事なことです。でも本来のアトツギと従業員の関係に立ち返ると「われわれアトツギが従業員を理解して、その代わりにわれわれの描いたビジョンのために働いてもらえる」、そういう関係です。
小塩さん
小塩さん
僕の例でいうと、僕がリーダーとしてオートミールに注力していくと決めた。その結果日本社会にオートミールのトレンドを定着させ、より手軽においしく健康的な食生活を広めることができた。全粒穀物といういい商品を食べたお客さんが嬉しい、やりがいがある仕事で儲かって従業員も嬉しい、こういうみんなが嬉しい状況をつくれるってすごくハッピーなことです。こういう状況を実現できることってものすごく充実感があることなので、アトツギ達が孤独に耐えても実現する価値は十分にあると思います。それと、社長同士とかアトツギ同士って基本仲いいですから。経営トップって社内では孤独な存在になりがちですけど、社外では経営者の友達いっぱいできるので、あんまり辛くないと思います(笑)
小塩さん
小塩さん

ゴードン
ゴードン
今後の展望などを教えていただけますか。
「日本に全粒穀物市場を作ってナンバーワンになる。そしてそれを世界に広める」ですね。日本の食文化って、世界的に見て価値があるものだと思います。日本発のおいしい全粒穀物食の文化を世界に広げて、食べた人みんなに幸せになってほしいですね。
全粒穀物は人の健康をつくります。それって人の元気や時間をつくるのと同じことで、食べた人の人生が少しだけよくなる手助けをするってことだと思うんですよね。全粒穀物はまだまだ未知の可能性を秘めた、素晴らしいものです。「オレたちより穀物を愛しているヤツはいないだろ」という組織を作って、穀物愛で世界を良くしたいです。
小塩さん
小塩さん
ゴードン
ゴードン
素晴らしい。本当にワクワクするお話ですね。最後にアトツギ達へのメッセージなどあるでしょうか。
まだ家業にジョインする踏ん切りがつかないアトツギさんたちにとって、僕の話が何かきっかけになったらいいなーと思います。どうしようもなくボロボロな家業でも、よくよく見てみればどの会社にも使える武器はあるんですよ。「社内にずっといる人には当たり前になって見えなくなっているけれど、社外から来た人だからこそ見えるもの」があります。いい武器を手にしてとりあえず走り始めてみたら、ビジネスってどうにかなるもんです。自分がすごくいいと信じているビジネスをやることって、すごく嬉しいことですよ。
入社したけどうまくいかなくて、自信をなくしているアトツギさんもいると思います。でもイノベーション(新結合)って、新しい何かと何かの組み合わせなんですよね。スティーブ・ジョブズも美しい文字を書くカリグラフィーとITを組み合わせる、点と点をつなぐ”Connecting the dots”でマックPCというイノベーションを起こしました。
皆さんの経歴と家業の組み合わせだから起こる、オンリーワンのConnecting the dotsって必ずあると思うんですよ。今苦労してがんばっているあなただからできる、あなたにしかできないイノベーションが絶対にあります。日本社会はそれを求めています。家業経営はすごくつらいことも多いですが、社外には世界をよくしようと思う仲間がけっこういるものです。一緒にがんばっていきましょう。
小塩さん
小塩さん
ゴードン
ゴードン
小塩さん本日は貴重なお話をありがとうございました!

 

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■取材した人

ゴードン

家業である和紙卸問屋で4代目候補として8年従事。アトツギの苦悩を誰よりも理解していることから、孤軍奮闘するアトツギに感情移入しがち。関西大学「ガチンコアトツギゼミ」非常勤講師。

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