大手商社を辞め、やりがいのある仕事を求めてアトツギに

まずは自力でできることから成果を出す

 

トニー:ホームセンター業界で飛ぶ鳥を落とす勢いの柳瀬さんが家業を継いだ経緯を教えてください。

 

柳瀬さん:以前は三井物産に勤めており、マクドナルドのポテトの輸入などを手掛けていました。2008年に退社して家業に入り、現在に至っています。

 

トニー:なんだか順風満帆なキャリアを歩んでいたような気もしますが、なぜいきなり家業に戻られたのですか。

 

 

柳瀬さん:順風満帆とは言い難いかもしれません。諸先輩方からも「周りへの気遣いが足りない!」等、きつく𠮟られたこともありますし(笑)。自分は、「仕事を取ってくれば、細かいことなんてどうでも良いじゃないか」って思っていました。

でも上司からしたら、「お前の実力ではなく会社の看板のおかげだ」みたいに言われて…。

社内は和気あいあいとして楽しかったのですが、“自ら仕事を作り出す“という社風でもなく、「自分じゃなくてもやれる仕事だ」と感じてしまって…。

大きな仕事を取っても昇給するわけでもないですしね。

そもそも、自分がビジネスマン生活に向いているのかどうかについて疑問も感じていました。後継ぎというアドバンテージも感じていたので、

「よし、リスクを取ってでもやりがいのある仕事を」と、心を決めて辞めました。あのまま会社に残っていても、あまり評価されずに終わっていたと思います。

通常のビジネスマン生活だと、未来がある程度予想つきますし。

 

柳瀬さんがメンターを務めるアトツギU34はこちら

 

トニー:事業に入ることに対しての心構えはありましたか。

 

柳瀬さん:事業内容に関しては、何も知らない状態でした。性格的に元来、“安定していること”に重きを置くタイプでもないので、特に不安はなかったです。

たとえれば、複雑に絡み合っている糸をほぐして元に戻すような生き方のほうが好きなんです。むしろ平穏な状況の方が飽きてしまう(笑)。

なので不安は特にありませんでした。

 

トニー:「自分じゃなくても…」と言われましたが、大企業だと自分は歯車の一部でしかなく、反対に家業を引っ張っていく場合はやりがいがあると。

 

柳瀬さん:矛盾しますけど、自分は人の上に立ったり、人を引っ張っていったりというタイプではないです。自己主張も強くないし。

正直、人前で話すのもあまり得意じゃない(笑)。それよりも考えやアイデアをシェアし合って、人助けをする方が好きです。

その点、家業に戻って戸惑った部分もあります。それまでは社員としてトップの方針に従うだけだったのが、

今度は自分の方針で人々を動かしていくようになったので。立ち位置が真逆になってしまいました。

 

トニー:家業に戻られた直後の印象はどうでしたか。

 

 

柳瀬さん:古臭くて内向きでした。社内の価値観や意見優先で、決してお客様志向ではなかったです。社員たちもベテランが多く、

「いままで通りのやり方を繰り返して当然」というノリで、新しいことを提案しても、「そんなのは前にやって失敗済み」と返されてしまう。

「メール?電話やFAXで十分!」と言われたときには驚愕しました(笑)。それ以降、先ずはwebを通じた宣伝活動に力を入れていきました。

 

トニー:旧態依然で保守的な文化の中に新しいものを持ち込む…どうやって取り組まれたのですか。

 

柳瀬さん:まず宣伝活動等、自力でできることは自分でやってしまう。これは反発がないので問題ありません。

社のCMソングがキャッチ―でテンポが良かったのも功を奏し、直ぐに地域へ浸透していきました。

ロジスティクスの面も自分だけでクリアできました。しかも、今まで煩雑だった作業が一本化・簡素化されたので、むしろ社員たちからの信頼も得ました。

 

トニー:まずは誰の反感も受けない部分を、誰の仕事も奪わずに成果を見せていくと。

 

柳瀬さん:そして、その効果によって社員たちがお客さまから褒められること、これが最高の流れになります。

 

トニー:柳瀬さん=DXってイメージしかないんですが、メアドもwebサイトもなかった会社をどうやって今のような状態に持っていったのですか。

 

柳瀬さんがメンターを務めるアトツギU34はこちら

 

事業を一気に変革してくれるDX

 

柳瀬さん:入社したのが2008年ですが、最初の7年間は暗黒時代でした(笑)。この部分は自力だけではどうにもならず、

バイヤーや店舗を巻き込むにしてもギャップが半端なかったです。分析をするにも膨大な量のアイテムの把握・管理を、慣れていない社員に求める事自体に無理がありました(笑)。

社会のデジタル化が進み始めたのは2015年でしたが、そんな中、クラウドのデータベースを活用した社員がいたんです。

それがとてもシンプルで、「あ、これ使える…」ってなり、そこからデータ分析が一気に進んでいき、社員にも任せられるようになったんです。劇的に変革しましたね。

 

 

トニー:社員さんが意思を持ち、“自ら動き始めた”のって、とても大きかったのではないですか。

 

柳瀬さん:自分も実務は好きな方なので、自ら率先して参加していました。ただ、新しいことをいきなり展開させるとギャップが立ちはだかるので、

まずは少人数のチームを組ませ、その中から徐々に若手を選び出し、勉強会を設けてシミュレーションを行うなど、スキルアップを図っていきました。

しまいには彼らのほうが自分よりもはるかに達者になってしまいましたよ。

残る問題は、上司たちへの説明・説得ですが(笑)、そのへんは“スペシャリスト“たちに委ねられるようになりました。

 

トニー:社長自ら長期間の勉強会に参加していく。これってとても難しい気もしますが。

 

柳瀬さん:自分もDXには興味があるので、一緒に勉強したいという気持ちの方が強かったですね。

 

トニー:社員さんたちにとっては、無料でそこまで身につけることができて、最高じゃないですか(笑)。

 

柳瀬さん:(笑)。来年度からは新入社員の研修に組み込む予定です。小売業の場合は即実践もできますし。

必死になってExcelと格闘するよりも、便利なものを利用した方がはるかに利口だと思います。

 

トニー:アトツギのみなさんに伝えたいメッセージはありますか。

 

柳瀬さん:社会の課題解決は重要であり、自社の新規事業にも繋がります。これは社長業をやってきた経験からつくづく感じます。

みなさんにも是非、自らの得意分野と社会の課題解決をマッチさせていただいて、一緒に頑張っていきたいなと思っています。

 

 

柳瀬さんがメンターを務めるアトツギU34はこちら

 

本記事の元動画はこちら

(Youtube動画:【小売業アトツギ】大手商社を辞めて事業承継した理由【課題があるから面白い!】)

 

【インタビュイー】

嘉穂無線ホールディングス株式会社 代表取締役社長
https://kahomusen-holdings.co.jp/

株式会社グッデイ 代表取締役社長
https://gooday.co.jp/

商社マンからの転身。電子パーツ販売店からスタートした家業は、多角化を経てホームセンターが主事業へ。
“モノを売る”から“ライフスタイルを提案する”体験型のホームセンターへ進化。その他、学習工作キットやデータ活用サービス事業を手掛ける。
【インタビュアー】
一般社団法人ベンチャー型事業承継 コミュニティマネージャー トニー(衛門 宏樹)

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