
芝生地の価値とグリーンキーパーの地位を上げる、造園アトツギの決意

森田緑化株式会社
代表取締役社長 森田真輔 氏
「うちみたいな会社で働く奴はレベルが低いから」。そう笑顔でトリッキーに語る森田緑化株式会社6代目、森田真輔社長の言葉には愛が溢れている。「うちの子どもは出来が悪くて」といいながらも見放さない父親のようだ。
創業は明治10年、今年で145年目を迎える。小さな苗木を植えることから事業が始まって以来、時代の流れを見極めながら、「造園」を軸足に造園樹木生産・工事業・管理業とさまざまな業態へと展開してきた。現在は、太陽光発電の事業やゴルフ場などの広大な芝生地の管理業をはじめ、地元徳島の中小企業を対象にした人材紹介サービスなど、新しい挑戦も手がける。
森田社長のズバズバと歯切れがよい言葉には、家業に戻ってからの自問自答を重ねてきた毎日が見えてくる。
出典:令和2年度中小企業庁/プッシュ型事業承継支援高度化事業/「ロールモデルのクローズアップ」事業「継ギPedia」(http://tsugipedia.com/)
劣等感の塊だった自分が、家業を意識するようになるまで

ぜひぜひ。私ね、かなり悲しい人生を歩んでおりまして(笑)。こう見えて、幼いころから今まで、ずっと同級生から嫌われ続ける人生だったんですよ。自分の容姿や学力にすごく劣等感を感じていて。周りへの妬みや僻みがすごくて(笑)。人と比べて自分はしょぼいな、ということをずっと感じていた幼少期でした。


いや、姉が二人います。5つ上と7つ上。これがまた優秀な姉でね。末っ子長男で相当甘やかされたとは思うんですけど、劣等感の塊みたいな人間でしたね。
中学1年生の時にね、たまたま先輩に勧められて、陸上同好会に入ったんです。このときの経験が良かったんでしょうね。我慢とか、継続とか、人間関係とか。そういうものに気づかされる経験をしました。
今でもやっぱり同級生には嫌われ続ける人生なんですが(笑)、先輩後輩からはなぜか好かれるんです。それも僕の特徴。


大学の頃も出来は悪かったんだけど、やっぱり先生にはなぜか可愛がられてね。先生の勧めで造園業界の大手の会社に5年契約の嘱託社員で入社できたんです。
でもね、めちゃくちゃハードな仕事で!今は違うと思いますけど、当時は休みは一か月ないし、毎日終電ダッシュ、みたいな生活を1,2年はしていたんです。六本木ヒルズの足元の花壇や都心の新宿御苑の木を剪定したり。けっこう大きな仕事にも携わったんですよ。
でも余りに辛かったので、親を病気に仕立てて5年しないうちに辞めました。「うちのおかんは目が見えまへん」って(笑)。あ、今でも母親はピンピンしてるんですけどね。


人を束ねることの楽しさを感じたんです。僕はいち派遣社員だったんだけど、本社の人、同じ派遣社員の人、地元のパートさんの間に立ってね。人をうまく束ねてやれば、自分が動くよりも100倍仕事は早く終わるし、きれいに陳列できるし、自分も楽だってことを学んだんですよ。
まぁ「人を使う=自分がさぼれる」ってことを覚えてしまったということなんですけどね(笑)。

大手と家業。現場のレベルに感じた、大きなギャップ


最初はとにかく現場監督業、施工管理を主にやりました。作業服を毎日着て、営業から積算、植木を売りに行くとか。一通りの全ての作業を経験しました。

ありましたねー。扱うお金の規模感と、職人のレベル。この2つにつきますね。
まずお金は、前の会社では、何千万、何億という規模感なのに対して、こちらは何千円、何万円という世界。
あとは社員のレベルも、向こうは図面を投げておけば勝手にやってくれたけど、こっちでは一から全部教えないとできない。植物の名前も知らないし、算数もできない。そういう人間が集まっているのが田舎の中小企業なんですよ。

もうね、諦めました(笑)。そういうタイプの人間が働いている現場なんだと、頭を切り替えたんです。管理職の一部の人間だけがしっかり理解をして、あとは現場の人間にわかりやすく説明するって方法に変えました。
最初の頃は底上げをしようと思って、教育なんかも頑張っていたんだけど、結局それは本人も望んでいないし、こちらも対応が追いつかない。であれば、管理職の自分たちが、現場の社員の目線に下りていこうと。
うちの社員、いまだに三角形の面積の計算とかできないんじゃないかな(笑)。笑い話みたいだけど、これが地方のわれわれみたいな業種の現実なんですよ。そういう現実があることを知っていただきたいです。

地元の中小企業の課題が見えたから始めた人材ビジネス



これがうまくいったこともあって、地域未来牽引企業にも選ばれ、まじめな勉強会にも参加するようになったんですよ。そこで感じたのが、中小企業ってどこも認知度が低いよなぁという現実。素敵な社長に社風。いい会社はいっぱいあるのに、みんな口をそろえて「人が来ねぇ」って言う。
元々人と話すのが好きだし、相手の特性を見極めるっていうのが趣味の一環みたいなものだったので、商社に勤めている同級生をヘッドハンティングして、徳島に特化した人材のマッチングビジネスを始めたんです。

徳島の会社ってすごく浅はかで(笑)。うちも含めなんだけどね。とにかく何でもできるオールラウンダーを月に23万とかで雇えると思ってる。逆に働きたい側は、ほとんど経験がないくせに、平気で30万は欲しいという。この温度差はすごいです。
お互いに自分のレベルを知った上で、どこかで妥協しないといけない。そこをマッチングさせるっていうのが、ものすごく難しいんです。


私の採用方針っていうのが、「やる気があるなら来てみたら」っていうスタンスなんですよ。言葉は悪いけど、この業界っていろいろ問題ありな人が多いんですよ。でもやる気があるなら受け入れると。
あとは私があまり表に出ないようにしています。にぎやかそうな社長が出てくると、どんだけリアルな話をしても、逆にきれいな感じに映っちゃうみたいで。けっこう生々しい話もするんですけどね。「汚い、くさい、4K5Kはもう当たり前だよ。大丈夫?」とか。

だからね、面接に来た人がどんだけ「今日中に決めたい」って言っても、いったん帰すんです。「家族とか誰かに相談してちゃんと考えて決めて」って言います。辞めていく人の大半が「面接のときに社長に言われた通りでした。自分には難しかったです」と言って去っていくからね。
できるだけみんながハッピーになれるような就職をしたほうがいいですよね。コロナで今は少し停滞してますけど、この事業ではそういうことを実現していきたいと思っています。

親子なら仲良し、経営者同士なら最悪



いろんな業界の知識を造園と合体させる


根がネガティブなんでね(笑)。斜面を保護する法面(のりめん)事業だって危ないから早く辞めたかったし、ゴルフ場の管理の仕事だって興味なかったし。
でもそればかりじゃだめだなって思って。そんな時、J1で活躍する、地元サッカーチームの芝管理の仕事がとれたんです。この辺りから、自分が興味ないという理由で関心を持たないのはやめようと。自分自身がいろんな業種の知識を持って、それを造園とを合体して、事業をしようという目標ができたんですよね。

緑や芝生の価値を上げる、グリーンキーパーの地位を上げる
これはね、でっかいこと考えていまして。一番は、緑や芝生地のある空間の価値を上げたいと思っているんですよ。
特にゴルフ場やサッカー場の芝生管理の仕事の価値を、アメリカのように上げたい。グリーンキーパー(芝生をメンテナンスする職人)を、ゴルフ場の支配人と同等の扱いされるような業種にして、社員含む業界の地位の向上を目指しています。
そのためにも芝生地の用途を広げたいんですよね。芝生でシネマをやったり、フェスをやったり、市民に開放したりとか。そういう芝生広場の価値を高めて、ゴルフ場の、ゴルフ以外の用途利用を推奨する活動をしたいと、本気で思っています。

イヤイヤなら継がない方がいい

でも何か利用できるものがあるなら。例えばお金はないけど技術がある、人がいるとか、自分の目で見て、何か光るものがあるなら、検討すればいいし、継げばいい。 親から言われてイヤイヤやっているとか、決まっていたから惰性で、とか魅力がないと思っているなら、絶対に継がないほうがいい。
理念の唱和の前にやることがある
私もね、今までは「”家業”から”企業”を目指すんだ!」って鼻息荒く意気込んでいたんだけど、やめました(笑)。今はまだ、社員を家族のように気をかけるという先代の影響が残ってますし。 だから「”企業”を目指すのではなく、”家業の発展”を実現させよう」と、メッセージを変えたんです。大半の社員は、そっちのほうがしっくりきているんじゃないかなと思います。
【徳島】
森田緑化株式会社 http://morita-r.co.jp/
代表取締役社長 森田 真輔 氏

■取材した人
ヴェルディ
1991年生まれ。宮崎出身で都市圏の大企業に勤務する潜伏アトツギ。実は宮崎で親が営む事業の後継者問題がやんわり浮上、妻からの(サラリーマン辞めるなよとの)無言の圧力を感じつつ、地元に残る弟の動きに目を配るアラサー男子。趣味は野球観戦とアトツギベンチャーのネット検索。